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医療

新型コロナ、オミクロン株以降のワクチン効果とウイルス対策

九州大学教授 馬場園明

2022/03/30

新型コロナ、オミクロン株以降のワクチン効果とウイルス対策

 新型コロナウイルス感染症は2019年11月に中国湖北省武漢市で初めての症例が確認されてから瞬く間にパンデミック(世界的大流行)が発生し、3月28日時点で全世界の感染者数は約4億7900万人、死亡者数は約612万人になった。【1】  昨年11月以降はオミクロン株の世界的大流行により、今後の見通しは予断を許さない。

 日本政府は3月21日、東京、千葉、神奈川、大阪、兵庫、愛知など18都道府県に発令していた「まん延防止等重点措置」をすべて解除したが、医療機関に入院する重症者数が依然として高止まりし、地域の医療提供体制が厳しい状況にあることが問題になっている。【2】

 昨年7月から今年3月までの1週間あたりの年代別重症者数の推移をみると、第5波はワクチンの普及に伴い重症者数も急減したが、第6波はオミクロンの感染力が強く、重症者数が急減するには至っていない。【3】 重症者数が減少しなければ、新型コロナ患者を受け入れている医療機関の疲弊は続くのである。(図1)

 既存の新型コロナワクチンはオミクロン株にも有効であり、ワクチン接種者の感染率は未接種者に比べてはるかに低い。【4】 ただ、オミクロン株に対する感染予防効果はアルファ株やベータ株、デルタ株に対する予防効果より低く、予防効果が持続する期間も短いとされる。【5】 

  新型コロナウイルスは変異株が次々に発生するが、新型コロナワクチンは変異株に有効なのかーー。新型コロナワクチンの未知の変異株への感染予防効果を示唆する研究がある。イスラエルにおける医療従事者を対象にしたワクチン4回目接種の効果と安全性を評価した調査研究である。【6】

  この研究では、ファイザー製ワクチン3回目接種から4ヵ月間経過後、4回目接種を受けた154人とモデルナ製ワクチン3回目接種から4ヶ月間経過後、4回目接種を受けた120人の中和抗体価を比較したところ、ファイザー製ワクチンとモデルナ製ワクチンは同等の効果を示した。(図2、図3)

 

 

 図2、図3をみると、ワクチン3回目接種から5ヶ月間経過後の中和抗体価は、野生株やデルタ株に比べてオミクロンが著しく低い。また、ワクチン4回目接種を受ければ中和抗体価は上昇するが、それでも野生株の10分の1、デルタ株の5分の1~7分の1にとどまる。

 新型コロナワクチンは中国湖北省で発見された野生株のスパイク蛋白をmRNA(メッセンジャーRNA)を使って細胞内に人為的に作り出し、免疫を獲得するものである。だが、オミクロン株にはスパイク蛋白の変異が多数あり、中和抗体価が低下しているとみられる。

 中和抗体価は感染予防効果とおおむね相関しており、オミクロン株に対する感染予防効果は相対的に小さいと考えられる。この研究は限られた地域でのサンプル数の少ない研究ではあるが、今後、オミクロン株に対してワクチンを中心に対応していくことの困難を想像させる。

 新型コロナウイルス感染症の第6波はピークアウトしているとみられるが、新規感染者数、重症者数の減少率は小さい。そして、新型コロナウイルス感染症は今後も完全に終息することは期待できず、地域に定着し、流行を繰り返すエンデミック(風土病)化していくことは間違いない。

 今後、新型コロナウイルスの被害を最小限にとどめるためには、第1に高齢者や既往症者への定期的なブースター接種を普及することである。それに加えて、ワクチンの感染予防効果を維持していこうとすれば、新しいワクチンを開発し、治験を行っていく必要があることも考慮しなければならない。

 第2に高齢者施設では利用者と職員への定期検査を実施し、感染者の早期発見、早期治療を行うべきである。また、患者クラスターが見付かれば、感染症に詳しい医師や看護師が早期に介入し、個人防護具の着脱や空間を用途で分けるゾーニングを指導して感染拡大を防ぐことである。

 第3に「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」(HER-SYS、ハーシス)の活用により、ワクチン接種者、非接種者のウイルス感染後の状況を評価できるようにすることである。感染者の状況を追跡することにより、ワクチンの有効性や安全性について、より正確な情報を提供できるようになる。

 最後に、新型コロナウイルスだけでなく、インフルエンザなどの感染症が流行すれば、「手洗い」「マスク着用」「三密回避」の感染予防対策を徹底していくことを期待したい。かつてはインフルエンザなどの感染症が流行しても医療機関内でマスクを着用せず、待合室に密集し、感染拡大を助長するのが常態化していた。

 また、ひとたびインフルエンザが流行すると、会社の欠勤、学校の欠席、学級閉鎖が当然のように起きていた。これらの過ちを繰り返してはならない。私たちは、多大なコストを払った新型コロナウイルスへの感染予防対策から貴重な経験を学ぶことも求められる。

 これまで新型コロナウイルス感染症への対策や新型コロナワクチンの有効性、危険性に関する私の考えを発表してきたが、今回で政策ブログの一連のシリーズを終了することになった。これまでお付き合いくださった読者のみなさんと退任する編集長、小林健一氏に感謝の意を表したい。

 

 ばばぞの・あきら 1959年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒。米ペンシルバニア大学大学院、岡山大学医学部講師、九州大学健康科学センター助教授を経て、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。岡山大博士(医学)。

 

【1】日本経済新聞社、チャートで見る世界の感染状況 新型コロナウイルス

【2】厚生労働省、新型コロナ感染症について

【3】厚生労働省、データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-

【4】SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing: Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529), 2021.12.31.November 7, 2021–January 8, 2022, MMWR, February 4, 2022 / 71(5);177–181

【5】Hause A, et al, Safety Monitoring of COVID-19 Vaccine Booster Doses Among Adults — United States, September 22, 2021–February 6, 2022, MMWR, February 18, 2022 / 71(7);249–254

【6】Gili Regev-Yochay et al, Efficacy of a Fourth Dose of Covid-19 mRNA Vaccine against Omicron, N Engl J Med 2022 Mar 16.

 

(写真:AFP/アフロ)

 

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