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財政

臨時財政対策債、急増する自治体財政の禁じ手

弘前大学准教授 金目哲郎

2019/05/01

臨時財政対策債、急増する自治体財政の禁じ手

 地方自治体が「借金」をして財政運営していると聞けば、ネガティブなイメージをもつ人も少なくないだろう。地方自治体といえども借金を踏み倒すわけにはいかないし、借金の返済で財政が行き詰まれば、住民生活に支障が生じるのでは、といった不安を感じるかもしれない。

 しかし、国や地方自治体の借金である「公債」は、建設公債と赤字公債を区別して考える必要がある。

 建設公債は道路や橋、上下水道、小中学校などの建設に使われる借金である。これらの公共施設を建設するメリットは将来の世代にも及ぶため、建設公債の償還期間を施設の耐用期間に合わせ、建設費用を世代間で分かち合う方が合理的である。つまり、建設公債は世代間の財政負担の公平を図ることができる借金である。

 一方、赤字公債は財政赤字を穴埋めするために起債する借金である。地方自治体の人件費や生活保護や児童手当などの負担金にも使われる。将来の世代にとってはメリットがなく、赤字公債の償還義務だけを負うことになる。

 この意味で、赤字公債は、「悪い借金」である。地方財政法は、公共施設を建設する財源にする場合などを除いて、地方自治体の財源は地方債ではなく、地方税や地方交付税など地方債以外の財源で賄うことを原則としている。(非募債主義)

 総務省が2019年3月に公表した『平成31年版地方財政白書』によれば、2017年度末における地方債残高は144兆2891億円。前年度に比べて0.4%減っているが、ここ数年にわたり、145兆円規模の高い水準にある。

 地方債残高の推移をみると、近年、赤字公債である「臨時財政対策債」の残高が右肩上がりに増えていることがわかる。【1】

 臨時財政対策債を除いた地方債残高は2000年前後をピークに減少傾向に転じ、ここ10年間で118兆4213億円から91兆1980億円へと3割も減った。一方、臨時財政対策債は同じ期間に19兆7392億円から53兆910億円へと約2.7倍に膨らみ、地方債全体に占める割合は36.8%に達した。

 では、臨時財政対策債とはどのようなものか。臨時財政対策債は2001年度に導入された地方債の一種で財源不足を補てんするため、地方自治体が特例として発行する赤字公債である。

 本来、地方自治体が標準的な行政サービスを行うための歳出に対して財源不足がある場合、国から自治体へ地方交付税が交付されることになっている。ところが、国税5税の一定割合(交付税率)とリンクする地方交付税の原資が、全国の自治体で必要とされる地方交付税の必要総額を大きく下回る状況が恒常化している。

 このため、地方財政支援の一環として、自治体の財源不足額を国と地方で折半し、地方負担分を臨時財政対策債で補てんすることになった。こうして、2001年度以降、多くの自治体が地方交付税と臨時財政対策債の発行を組み合わせて、行政サービスの経費を賄っているのが実態である。

 総務省は、臨時財政対策債の元利償還金相当額については、その全額を地方交付税の基準財政需要額に算入し、交付税で措置すると言う。【2】 総務省が説明する通りならば、臨時財政対策債は地方が立て替え払いする地方交付税といった見方もできよう。

 しかし、次の二つの問題点を改めて認識し、地方債を取り巻く自治体財政のあり方を考えることが重要である。

 一つは、後年度に地方交付税で措置されるとはいえ、臨時財政対策債の債務を返済するのは、発行体である地方自治体である。公共施設の建設に伴う建設公債と異なり、赤字公債の発行は将来の世代への負担先送りであり、禁じ手である。

 もう一つは、臨時財政対策債の元利償還金相当額が交付金額ベースで地方交付税に上乗せされるとは限らない。というのも、基準財政需要額は、土木費、教育費、厚生労働費、産業経済費などの行政項目別に、地方自治体の人口、教職員数、児童生徒数、高齢者人口などを基礎に算出する。

 つまり、人口減少によって各行政項目の基準財政需要額が減少すれば、元利償還金相当額を交付税措置したとしても、地方交付税の交付金額は純増することにはならない。人口減少が深刻化する今日にあっては、現実味を帯びた問題である。

 こうしてみると、臨時財政対策債のような特例的な赤字地方債に依存する状況が続けば、地方自治体の財政運営を不安定にしかねない。地方自治体は、財政健全化に向けた地方債残高全体の計画的な引き下げにも取り組む必要があろう。

 そのためには、地方自治体の財源不足を臨時財政対策債で補てんするのではなく、交付税率の引き上げによる地方交付税の必要額の確保や地方税の拡充を視野に入れた制度改革を検討すべきだろう。

 

【1】 2017年度末における臨時財政対策債を除く地方債約91兆円のうち、公共事業等債、公営住宅建設事業債、教育・福祉施設等整備事業債、一般単独事業債と呼ばれる主な建設公債で約7割を占める。

【2】 総務省ホームページ「地方債に関するQ&A」。

  http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/chihosai/chihosai_qanda.html、2019年4月12日を参照。

 

 かなめ・てつろう 1971年、神奈川県生まれ。1995年、早稲田大学教育学部卒。平塚市役所財政課主査、弘前大学人文学部専任講師を経て、弘前大学人文社会科学部准教授。横浜国立大学博士(経済学)。

 

 

 

(写真:AFP/アフロ)

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