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財政

新型コロナ、自然災害と異なるダメージ 地方財政への影響は長期に

弘前大学准教授 金目哲郎

2020/05/07

新型コロナ、自然災害と異なるダメージ 地方財政への影響は長期に

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で地方経済は大きく減速している。活動・集会の自粛により、全国から観光客の集まる地域イベントは相次ぎ開催中止となり、鉄道、バス、ホテル、旅館、飲食、小売り業を中心に地元企業は大幅な減収を余儀なくされている。

 筆者が住む青森県内でも「弘前さくらまつり」(4月23日〜5月6日)や「青森ねぶた祭」(8月2〜7日)の開催中止が決まっている。【1】いずれも例年、300万人近い人出が見込まれる地域最大のイベントであり、これらの中止がもたらす地域経済への影響は測り知れない。

 企業収益が悪化すると、企業が納める法人住民税や法人事業税が減少するとともに、解雇や減給になれば、従業員が納める住民税も減少する。企業収益の悪化は、これらの地方税の税収減につながり、自治体財政への影響が出てくる。

 現状、人口1人あたりの地方税収は、都道府県間で約2.3倍の格差がある。【2】人口、面積にばらつきがある市町村間の格差は、さらに大きいとみられる。地方自治体が地域経済の好循環をつくれるかどうかによって、地方税収の格差は拡大、縮小する。

 過去、東北地方の自治体に地方税の大幅減をもたらした事例としては、2011年の東日本大震災がある。マグニチュード9.0の巨大地震と津波による死者・行方不明者は約1万8000人。鉄道網、幹線道路が寸断され、日本を代表する自動車メーカー、電機メーカーの基幹工場が操業停止、物流網もストップした。地域経済は麻痺し、2011年度の地方税は大きく落ち込んだ。

 ただ、東日本大震災の場合、地方税の回復は相対的に早かった。これは、地震と津波で壊滅した被災地を応援しようという国民的合意が形成され、復興住宅や防潮堤、公共施設の建設など大規模な公共事業が相次いで行われた結果、地元企業の収益やその従業員の賃金が下支えされ、2012年度以降、地方税の税収増をもたらしたためだ。

 実際、震災被害が大きかった石巻市、気仙沼市の地方税をみると、2010年度は石巻市171.9億円、気仙沼市65.6億円だったものが、震災直後の2011年度は石巻市91.7億円、気仙沼市42.6億円に落ち込んだ。ところが、2012年度から回復に向かい、2018年度は石巻市188.6億円、気仙沼市66.3億円へ増加している。(図1)

 政府は被災地の復興を図るため、2011~2020年度までの10年間に総額32兆円の復興予算を編成した。【3】 一般に、公共事業が実態経済をかさ上げする乗数効果は小さいとされるが、東日本大震災の復興特需は地域経済の好循環を創り出すうえで、一定の役割を果たしたといえる。【4】

 一方、新型コロナウイルスの地域経済へのダメージは、企業や個人の経済活動が止まることによる打撃である。自然災害のように復興すべき施設もなく、公共事業によって地域経済を再稼働させるという性質のものでもない。自然災害とはダメージの性格が異なるといえる。

 政府は当初、5月6日までとしていた緊急事態宣言を5月31日まで延長した。経済活動がストップしても、地域経済の担い手である中小企業や個人事業者の人件費や家賃、社会保険料の支払いはなくならない。地方自治体が何らかの手立てを講じなければ、地域経済は崩壊し、地方税の落ち込みはさらに長期化する。

 神奈川県小田原市の緊急対策は、地域経済を崩壊から救おうとする取り組みの一つとして、全国の自治体の参考になる。【5】同市は中小企業や個人事業者への小口資金貸付制度を改良し、年率1.9%としている貸付金の利子を年間50万円、最大3年間まで利子補給するとともに、信用保証協会の信用保証料補助の上限を年間10万円から50万円に引き上げた。

 一方、神奈川県知事の協力要請に応じて、休業または営業時間を短縮している中小企業や個人事業者に対して、小田原市独自の施策として中小企業個人事業者等支援金20万円を支給する。こうした施策は、地域の中小企業や個人事業者に希望を与えるとともに、地域経済の崩壊を食い止めることに一定の効果があるだろう。

 新型コロナウイルス感染対策のように、活動・集会の自粛が求められ、経済活動が停滞する状況においては、地域経済の崩壊を食い止める、地方自治体それぞれの施策が求められる。一方、地方自治体の財政規模、人員規模により、その対策に違いが出る可能性がある。地方自治体の有意な取り組みを、その規模にかかわらず、実現できるようにする仕組みづくりも必要だろう。

 

 かなめ・てつろう 1971年、神奈川県生まれ。1995年、早稲田大学教育学部卒。平塚市役所財政課主査、弘前大学人文学部専任講師を経て、弘前大学人文社会科学部准教授。横浜国立大博士(経済学)。

 

 

【1】東北地方では「仙台七夕まつり」(8月)、「秋田竿燈まつり」(8月)が中止になり、「東北絆まつり2020山形」(5月)の延期が決まった。

【2】地方税の格差は、各都道府県の人口1人あたり税収額の最大値を最小値で割った数値。総務省、地方財政白書、2020年

【3】復興庁、「復興・創生期間」における東日本大震災からの復興の基本方針の変更について、2019年3月8日

【4】被災地の地域経済を支えた公共事業は2020年度でほぼ終了する。政府の財政支援は少なくなり、被災自治体の財政運営は正念場を迎える。

【5】小田原市、新型コロナウイルス感染症緊急対策について、2020年4月10日

 

(写真:AFP/アフロ)

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