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雇用

新型コロナがもたらす解雇と求人 雇用創出は社会保障費の抑制策

兵庫県立大学教授 木村真

2020/07/15

新型コロナがもたらす解雇と求人 雇用創出は社会保障費の抑制策

 政府の緊急事態宣言は5月25日に全面解除されたが、7月10日に新規感染者数が400人を超えるなど、いったん落ち着きをみせていた新型コロナウイルス感染症に再び感染拡大の兆候が出てきた。最近は劇場やカラオケ、老人ホームなど、夜の繁華街以外でも患者クラスターが発生しており、新型コロナ感染症は重症化すれば生命の危険にさらされることを考えれば、現状、医療供給体制に余裕がでているとしても予断を許さない。【1】

 新型コロナ感染症の第2波が懸念される一方、政府は経済活動の早期再開を後押しする経済対策を相次ぎ打ち出す。新型コロナ感染拡大の影響を受ける中小企業や個人事業者に対しては、事業の継続を下支えする「持続化給付金」制度を創設。2020年1~12月のいずれかの月の売り上げが前年同月比で50%以上、減少すれば、事業全般に幅広く使える給付金として、中小企業に200万円、個人事業者に100万円を給付する。

 一方、新型コロナ感染拡大で休業を余儀なくされた会社員が休業手当を確実に受け取れるように、休業手当の一部を助成する「雇用調整助成金」の助成率を休業手当の3分の2から全額に、上限額も1人あたり日額8330円から1万5000円に引き上げた。また、雇用保険の適用外などで雇用調整助成金の対象にならない事業者の従業員に対しても、政府が休業前1日あたり平均賃金の8割を直接給付する「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」を創設した。【2】

 このほか、新型コロナ感染拡大で小学校が休校になり、仕事を休んで小学生の子どもの世話をせざるをえなくなった従業員に有給の特別休暇取得を認めた企業を支援する「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」を創設し、従業員1人あたり1日1万5000円を上限に助成金を給付する。個人事業者として仕事をする保護者に対して同様の制度を創設するなど、新型コロナ感染拡大による休業取得についても手厚く支援する。

 しかし、政府が相次いで打ち出した経済対策にもかかわらず、新型コロナ感染拡大による解雇の動きが収まる気配が見えない。6月24日公表の『労働経済動向調査』(2020年5月1日時点)によれば、自粛要請の影響で4~6月期に雇用調整を予定する事業所は全体の6割に達する。厚生労働省が毎週公表する『新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について』によれば、解雇見込み労働者数は5月末から増加しており、7月に入って増加に拍車がかかっていることは懸念材料である。

 

 また、新型コロナ感染拡大がもたらす雇用調整の業種による違いも鮮明になってきた。データが発表された5月以降、製造業、小売り業、労働者派遣業の雇用調整は一貫して増加傾向にあり、直近は製造業の伸びが大きくなっている。製造業は生産波及効果が大きく、労働者派遣業などの雇用調整にも影響するとみられ、その動向を注視する必要がある。一方、早い時期から影響を受けていたバス・タクシーなどの道路旅客運送業は6月に入って落ち着きを取り戻している。

 緊急事態宣言は解除されたものの、自主的な活動自粛や移動制限の長期化で需要が戻らず、雇用調整を迫られる企業がある一方、新型コロナ対策の進展による人手不足も生じている。厚生労働省が6月24日発表した『労働経済動向調査』(2020年5月1日時点)によれば、「運輸業、郵便業」の欠員率が高く、「医療、福祉」も未充足求人が多い。新型コロナ対策でネット通販の利用が増えているとみられ、「運輸業、郵便業」には需要拡大の萌芽がみられる。

 

 新型コロナを根治する治療法はいまだ確立されておらず、新型コロナを予防するワクチンの開発にも年単位の時間がかかる見通し。新型コロナ感染拡大が収束せず、新型コロナと共存する、いわゆる「ウィズ・コロナ」の状況が当面、継続するのだとすれば、新型コロナ感染拡大で生じた新たな求人需要の発生・拡大の動きは今後も続くものと考えられる。

 筆者の職場である大学では、文部科学省が学内共用物に対して1日1回以上の消毒を求めている。【3】新型コロナ感染拡大でアルバイト収入を絶たれ、困窮している学生への支援としては、大学内の消毒作業を有償で担ってもらうことも選択肢になる。すでに学生の学業継続に困難が生じないように「学生支援緊急給付金」制度が設けられているが、1人々々に目を向ければ不十分な場合もあり、こうした有償作業の機会は学生支援策として有効だ。

 また、地方自治体の新型コロナ対策に目を向ければ、首長のリーダーシップ、自治体の財政状況、行政のマンパワーによる違いはあるものの、様々な支援制度が創設されている。自治体が地元企業の新規雇用を促すような支援制度を充実させていくことができれば、中長期でみれば、失業給付や生活保護などの社会保障費を抑制することにもつながっていくものと考えられる。

 政府は新型コロナ対策で4月と6月に合計約234兆円という大規模な補正予算を編成した。このうち真水と呼ばれる財政政策による国の歳出は約60兆円、残りは財政投融資などの金融支援だ。財政政策は需要の下支え、金融政策は事業継続、雇用維持の効果が期待されるが、金額を膨らませればよいという話ではない。雇用維持の支援策だけでなく、人手不足の業種への再就職支援や雇用助成など失われた雇用への対策にも力を入れ、雇用機会を創出していくことにも目配せすべきだろう。

 

 きむら・しん 1975年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒、同大学院経済学研究科単位取得退学。北海道大学特任助教、兵庫県立大学准教授を経て、兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科教授。2019年から社会情報科学部教授を兼務。大阪大博士(経済学)。

 

【1】厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(2020年7月8日18時時点)」によれば、新型コロナ感染者のうち重症者数の割合は、60歳未満は1.5%未満だが、60代は13.1%、70代は7.0%、80代以上は3.3%だった。また、陽性者数に対する死亡者数の割合も60歳未満は1.2%未満だが、60代は4.9%、70代は14.6%、80代は28.7%となっており、高齢者の重症化・死亡の危険性は高い。

【2】新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための雇用保険法の臨時特例等に関する法律、2020年6月12日成立

【3】文部科学省、学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~学校の新しい生活様式~、2020年6月16日

 

(写真:AFP/アフロ)

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