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医療

公立病院、経営危機からの復活 病院長らが選んだ一手

日本経済研究センター主任研究員 小林健一

2020/01/29

公立病院、経営危機からの復活 病院長らが選んだ一手

 病院経営が厳しい。全国公私病院連盟がまとめた『平成30年 病院運営実態分析調査』によれば、2018年6月単月の総損益差額が644病院のうち474病院で赤字だったことが明らかになった。赤字病院が全体に占める割合は73.6%。前年調査の69.0%から4.6ポイント上昇した。【1】

 開設者別に赤字病院の割合をみると、私立病院は48.1%(65病院)、公的病院は63.9%(122病院)、自治体病院は90.3%(287病院)だった。自治体病院の総収益には設置者である地方自治体の負担金が加算されるため、総損益差額の赤字がそのまま決算上の赤字になるものではないが、自治体病院の厳しい経営状況が浮かび上がった。

 自治体病院の経営問題に政府も手をこまぬいてはいない。厚生労働省は2019年9月、効率的な医療体制づくりを狙い、がんや救急など高度な医療の診療実績が少ない病院や近隣に機能を代替できる民間病院のある全国の公立・公的病院424病院の病院名を公表。「再編統合の議論が必要」と位置づけ、再編統合による経営再建を促す。【2】

 厚労省が再編統合の議論が必要な病院名を公表した背景には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年までに地域ごとに「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の機能別に必要な病床数を調節するという狙いがあるが、税金で赤字が穴埋めされる公立病院の厳しい経営状況と無関係ではないだろう。

 

常勤医43→33人、医師以外の業務改革に活路

 公立病院の経営状況はなぜ厳しいのか。一つには、医師の大都市集中による医師不足の影響がある。2004年から新医師臨床研修制度がスタート。研修医の公募が始まり、大学病院に限らず研修先を選べるようになった。「医局に所属する医師が減り、医局が医師を派遣する従来の仕組みは機能しなくなった。その皺寄せで地方の医師不足が加速した」(名古屋大学附属病院で医局長を務めた宇佐美範恭医師)

 ただ、医師不足の中で経営再建に成功した公立病院もある。三重県松阪市の松阪市民病院もその一つ。1989年度に赤字に転落。毎年の赤字額は3億~10億円に達し、長年、経営再建の模索が続いていた。新研修制度のあおりで医師も減り、産婦人科の分娩中止や精神科の常勤医不在という事態にも見舞われたが、2009年度に20年ぶりの黒字化に成功した。

 転機となったのは、2008年4月のDPC/PDPS(診断群分類別包括支払い制度)の導入だった。DPC/PDPS は、診療報酬の一部を診断群分類に基づいて包括して支払う制度。効率的な治療を行えば、出来高払いより収益性が高くなる。同院は2008年4月、市立伊勢総合病院院長や伊勢市病院事業管理者を務め、DPC/PDPSに先駆的に取り組んでいた世古口務医師を招き、経営改革に着手した。

 DPC/PDPSでは、診断群分類に基づいて支払われる包括払い部分の費用をいかに減らし、包括払い部分に含まれない出来高払い部分の収益をいかに増やすかがポイントになる。包括払い部分に含まれる検査に無駄がないか。出来高払い部分に診療報酬の取りこぼしがないかを精査する必要がある。

 世古口医師らは、診療科別にヒアリングを実施し、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、医事課事務職員とともに、①不適切な血液検査・画像検査がないか②不適切な薬剤使用がないか③術前検査を外来で済ませているか――などについて患者の入院中の医療行為を個別に検討。民間会社のソフトを使って分析したところ、患者1人、入院1回につき3千~1万円の診療報酬の取りこぼしが見付かった。

 もっとも、新研修制度が始まった2004年に43人だった常勤医が2008年には33人まで減少しており、医師の負担を増やす業務改革は難しい状況だった。そこで医師の業務改革は先送りし、医師以外の業務改革から取り組んだ。診療報酬体系には医師の医療行為以外にも診療報酬を認める項目がある。そこに活路を見出したわけだ。

 具体的には、薬剤師が入院患者に服薬指導すれば薬剤管理指導料を請求できる。(週1回、3800円ないし3250円)管理栄養士が入院患者に栄養指導を行えば入院栄養食事指導料が請求できる。(入院中2回、2600円ないし2000円)「診療報酬が認める通り、専門家が患者を指導すれば『医療の質』は向上する。『医療の質』を上げれば『経営の質』も改善する」(世古口医師)という。

 病院の経営改革というと医師の業務改革が注目されがちだが、松阪市民病院が取り組んだ経営改革はその好対照をなす。世古口医師は、「DPC/PDPSの仕組みを理解し、診療報酬制度を確実に実践すれば、医師以外の医療スタッフでも経営改善に十分、関与できる」と指摘。全職員による地道な取り組みの数々がその後の経営改善の礎になったと話す。

 

DPC/PDPSは諸刃の剣、減収要因にも

 急性期医療の診療報酬体系にDPC/PDPSを導入した背景には、出来高払い制度で生じやすい過剰診療を防ぐとともに、医療の技術や効率性への評価を診療報酬に反映するという狙いがある。現在、全国の急性期病院のほとんどがDPC/PDPSを導入するが、出来高払い制度にない注意点もある。

 山形県山形市の中核病院、山形県立中央病院は2008年、DPC/PDPSを導入。診療報酬のプラス改定もあり、2013年度は7億5000万円の黒字、2014年度は1億5000万円の黒字を計上したが、2015年度は7年ぶりに7億8000万円の赤字に転落した。

 DPC/PDPSでは包括払い部分に医療機関ごとに設定された医療機関別係数を乗じて診療報酬を算出する。医療機関別係数は、Ⅲ群(現標準病院群)→Ⅱ群(現特定病院群)→Ⅰ群(現大学病院本院群)と機能が高い病院群ほど高くなる。同院は2012年にⅢ群からⅡ群へ変更になり、診療報酬が多くなっていただけに、2014年のⅡ群からⅢ群への変更は診療報酬の減収要因になった。

 Ⅲ群病院からⅡ群病院に指定されるためには、①診療密度②1床あたりの臨床研修医師数③難易度が高い手術と重症な内科診療の評価――について基準値を上回る必要がある。山形県立中央病院は、2014年改訂でわずかに基準値に届かなかった診療密度の改善に集中的に取り組み、Ⅱ群病院への復帰を目指した。

 診療密度は、DPC/PDPSの包括払い部分にどのくらいの医療資源が投入されたかを示す指標。患者に集中的に治療を行い、入院期間を短くすれば、診療密度は高くなる。山形県立中央病院はプロジェクトチームを立ち上げ、心臓カテーテル検査のクリニカルパス(標準的な診療プロセス)を2泊3日から1泊2日に短縮するなど、約4割のクリニカルパスを短縮。土日の入院、準夜間の退院とあわせて、入院期間の短縮を進めた。

 同院は2016年4月にⅡ群病院へ復帰。同年5月には地域医療支援病院の承認も受け、医療機関別係数が上昇。2017年度に3年ぶりの黒字転換を果たしたが、経営上の課題は残る。「過疎化で何も手を打たなければ、患者数は減少する。救急車を積極的に受け入れるなど、患者数を増やす方策が求められる」(後藤敏和元院長)と楽観しない。

 

2つの公立病院、機能分化と病床削減で共存へ

 公立病院には、地域社会に医療を提供するという要請があり、その要請が設置者である地方自治体が公立病院への繰入金を負担する根拠にもなっている。ただ、日本の総人口は減少局面に入っており【3】、病院経営においても地域社会の過疎化や高齢化を勘案する必要がある。その点、山形県酒田市の県立病院と市立病院の経営統合は一つのモデルケースといえる。

 もともと1947年開設の市立酒田病院があったところに、庄内地方の救急医療体制整備を目的に1993年、県立日本海病院が開設された。酒田病院と日本海病院の距離は約2キロメートル。2つの公立病院の競合は必然だった。酒田病院は日本海病院が開設した1993年度から2000年度まで赤字に転落、後発の日本海病院は開設以来、赤字が続いた。

 酒田病院は黒字化に成功したが、老朽化で早期の建て替えが必要。日本海病院は開設以来、赤字が続き、累積欠損金は100億円を超えた。2つの公立病院が選んだ道は、地方独立行政法人、山形県・酒田市病院機構としての経営統合だった。日本海病院は急性期病床を担う日本海総合病院、酒田病院は療養病床を担う日本海総合病院酒田医療センターに改組し、病床数も合計928床から760床に削減した。

 公立病院が地方独立行政法人に改組すると、地方自治体は毎年の繰入金以上の負担をせず、赤字が続けば倒産する。半面、黒字になれば、剰余金を法人の裁量で自由に使えるようになる。山形県・酒田市病院機構の場合、統合設立以来、11期連続の黒字化に成功。「剰余金で手術支援ロボット、ダヴィンチの購入費用約3億円や放射線治療棟の工事費用約8億円を賄った」(栗谷義樹理事長)。

 山形県酒田市の2つの公立病院の経営統合は、単純な1+1=2の統合にせず、病床数を減らしたうえで、酒田病院の急性期病床を療養病床に機能変更したところに成功の理由がある。地方独立行政法人に改組すれば、病院も民間企業と変わらない。山形県・酒田市病院機構が、毎年の黒字額に応じて全職員に業績手当を支給し、働き手のモチベーション維持に活用している点も示唆を与えてくれる。

 

 こばやし・けんいち 1970年、愛知県生まれ。慶應義塾大学経済学部、同大学院経済学研究科経済政策専攻修了。1997年日本経済新聞記者。2017年日本経済研究センター主任研究員。2018年日本経済研究センター WEB編集長 兼 主任研究員。

 

【1】全国公私病院連盟『平成30年 病院運営実態分析調査』(2019年)

【2】厚生労働省、第24回地域医療構想に関するWG、2019年9月26日

【3】国立社会保障・人口問題研究所、日本の将来推計人口、2017年4月

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