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医療

悪意ある外国人患者対策、民間保険会社のノウハウ生かそう

中央大学教授 真野俊樹

2018/09/19

悪意ある外国人患者対策、民間保険会社のノウハウ生かそう

  『医療危機-高齢社会とイノベーション』など、これまでの著書を見ていただければわかることもあると思うが、最初に筆者の立場を明確にしておきたい。

 ①国民皆保険には賛成②日本の医療レベルは世界一である③医療保険制度、医療提供体制ともに改革は必要――である。

 また、ひとつ理解しておいてほしいのは、医療制度改革というのはお金を払う側である医療保険制度の改革と、病院や医師などの医療提供体制の改革の二つがあり、それが相互に関係しあいながら変化がおき、一度おきた変化を修正するのが難しいという点である。これは、年金制度のようにお金を払う側の改革があれば改善されていくという仕組みとは異なる。

 一例を上げれば、急性期病院での看護を手厚くするために、2006年に患者7人に看護師1人(いわゆる7対1看護)という診療報酬改定を行ったところ、とにかく病院がこの診療報酬を取りたいということで看護師の争奪がおきた。その結果、地方の看護師不足がおき、さらには高齢者の看護師もどんどん病院に雇用されてしまうといった事態が起きた。これが、安易な医療保険制度の改革が医療提供体制に大きな影響を及ぼした近年の例であり、2018年になってもこの後遺症は解決していない。

医療保険制度改革の必要性

 苦言を呈しているように見えるかもしれないが、上記の③にあるように、医療保険制度も国民皆保険制度が1961年に導入されてから、57年になるわけで、大幅な改革が必要と考えるのは、筆者だけではないだろう。しかしながら、筆者は特に医療保険側の抜本的な改革は難しいと考えている。

 というのは、現在の国民皆保険制度は改変に次ぐ改変できわめて複雑になっており、後付けで評価することは簡単だが、先程、例を挙げたような、さほど抜本的でない改革でも、複雑系の経済学のように、一カ所をいじるとどこに波及するのかが事前にはよくわからない。したがって、抜本的な改革に手を付けにくくなってなってしまっているのである。

 だからこそ、「ガラガラポンで本当の抜本的な改革を」という話になることもあろうが、ステークホルダーと政治が複雑に入り組んでおり、これこそ難しい。実際に海外の医療保険制度の改革でも、漸進的な改革しかおきていない。

 米国でも皆保険制度の導入という医療保険制度の抜本的改革は頓挫したが、電子カルテの100%近い導入という医療提供体制の抜本的改革には成功している。

 もちろん、だからといって、医療保険制度改革に手をこまぬいていれば医療財政を圧迫し財政難がおきるのは間違いない。

 悪意のある外国人患者問題

 ここにきて、医療保険制度にも改革が必要な事態が起きている。それは、在留外国人による公的医療保険の不正利用や制度の隙間を突いた乱用である。 

 「在留外国人による公的医療保険の不正利用や制度の隙間を突いた乱用が問題視されていることから、厚生労働省は十五日までに、実態把握に向けた全国調査を始めた。公的保険に加入して高額医療の自己負担額を低く抑える目的で不正に在留資格を得た事例の件数などを、市町村を通じて調べる。今秋に結果をまとめ、防止策を検討する。在留外国人は約256万人おり、国籍別では中国が最多。会社で働いている場合、中小企業が対象の全国健康保険協会(協会けんぽ)か大企業中心の健康保険組合に加入し、扶養家族にも適用される。」(東京新聞朝刊2018年7月16日付 )

 

 ここで外国人患者を3つに分類してみたい。1つ目は、医療ツーリズムに代表される自費で医療を受けに来日する外国人である。2つ目は、観光客が訪日中に怪我や病気になって医療機関を受診するケースである。そして3つ目が上述されている在留外国人である。1つ目や2つ目は、医療や観光という目的が明確な渡航であり、問題はもちろんおきえるが、それは外国人患者と医療提供側との問題が大きい。

 実はこの問題は、成長戦略として民主党が取り上げたころから認識されており、厚労省も外国人を受け入れることができる病院の確保が重要だということで、外国人患者受入れに関する認証制度を創設し、観光庁も訪日外国人旅行者受入可能な医療機関を選んで対応しようとしてきた。しかし、それは悪意のある渡航者を対象にしたものではない。

民間保険会社の活用を

 悪意のある外国人患者とは例えば、健康保険証を偽ったりする法的に問題があるケースから、違法ではないまでも、家族を他国から呼び寄せて、自分の健康保険の対象として治療させたり、高額療養費制度が使用できることを利用したり、国民健康保険に加入しおもむろに慢性疾患の治療を始めるなど多くのケースが報告されている、このような問題はどうであろうか?

 日本の国民医療費は 2005年には33兆1,289億円となっていたが、それから10年後の2015年42兆3,644億円と10兆円近く増加している、ここに外国人の医療費が加わったらどうなるのか。 悪意のある医療渡航者のような問題を放置することが医療保険制度全体の崩壊につながりかねない。

 悪意のある渡航者対象には、2回目の渡航を認めないとか海外旅行の保険に加入させるとかの案も出ているようだが、あまり効果があるとは思えない。しかし、この問題はまったく新しい視点で解決できる部分もあるのではないかと思う。

 米国では営利や非営利の民間保険会社がわれわれのような勤労世代の医療保険を提供している。民間保険で問題になるのは、加入者の選別である。言い換えれば民間保険は加入者を選別する力があるのである。これに対して、社会保険にはそのノウハウはない。日本にも米国の民間保険とは異なるが、民間保険会社による医療保険の販売が行われており、加入者に対してリスクに応じた料金設定を行い、場合によっては加入を拒否している。

 そこで、日本に住む期間が短い外国人に対しては、医療保険の制度は変えず、医療保険加入審査と支払い業務を民間保険会社に委託してはどうだろうか。民間保険会社への委託費用はかかるが、これは保険料に上乗せすることで回収は可能である。 

 そうすれば、現行の制度を変更して従来から疾病がある人(始期前発病)には支払わないといった対応も可能になる。それでもすり抜ける悪意ある外国人患者はいるだろうが、現状よりは明らかにましになるだろう。

 まの・としき 1961年、愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒。米国コーネル大学医学部研究員、昭和大学医学部講師、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授を経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授。内科専門医。京都大博士(経済学)。


(写真:AFP/アフロ)

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