一覧へ戻る
医療

地域医療構想、医療の計画経済化がもたらす死角

中央大学教授 真野俊樹

2018/11/21

地域医療構想、医療の計画経済化がもたらす死角

 2014年6月に成立した医療介護総合確保推進法により、「地域医療構想」が制度化された。地域医療構想とは、人口推計をもとに2025年に必要となる病床数(病床の必要量)を高度急性期病院、急性期病院、回復期病院、療養病院という4つの医療機能ごとに推計し、現在より効率的な医療提供体制を実現する取組みである。

 地域医療構想は、その名称からいっても地域医療の話であり、病院の競争力を高めようといった視点はない。むしろ明確なのは病院の機能分化と、それに伴う医療費の削減である。

 とりわけ前者の視点は、いままでブラックボックスとされていた病院内の医療の中身がデータによって透明化されたことによるものであり、医療の世界では画期的なこととされている。しかし、データに基づいて病院を区分できれば、計画的に医療サービスの供給体制を作ることができるのだろうか。

 病院の区分の仕方には色々な考え方がある。わかりやすいのが大きさで区分する方法で、アジア諸国には、この方法が多い。一方、日本では大きさと無関係に医療機能で区分している。それが地域医療構想における高度急性期病院、急性期病院、回復期病院、療養病院である。最終的には、各病院の医療機能報告から得られたデータが示す医療機能によって区分を行おうとしている。

 一方、診療報酬の面から病院を区分しているのが現行の DPC 制度である。当初、DPC 制度に病院の区分はなかったが、大学病院、大学病院に準じる群、その他の一般病院を「一群」「二群」「三群」に区分した。しかし、野球の1軍、2軍を想起させ、病院のランキングにもとられるためか、現在は、「大学病院本院群」「DPC 特定病院群」「DPC 標準群」という名称になっている。

 医療をデータで透明化するDPC 制度は日本で独自の進化を遂げたとはいえ、もともと米国の制度である。したがって、この制度を厳格に適応すれば、平均在院日数の短縮化など、米国流の医療になることは明らかである。

 日本では、病院での平均在院日数が長かったために、1日の医療密度は薄かった。病院を受診する患者や必要な治療は、病気を厳密に定義すれば世界でそんなに大きな差がないと思われるので、在宅医療やDPCなどで病院での在院日数を減らすように努力すればどうなるだろう。患者数が同じという前提であれば、回転数が上がった分だけ空きベッドが増えることになる。

 そうなると、病院の医療従事者は減り、人件費も減る方向に進むはずだが、そうでもなさそうだ。大きく変わったのは、病院での医療の変化である。医療内容が高度化、高密度化したのだ。医療が高度化、高密度化することにより、病院の雇用必要者は増え、診療報酬の増加以上に人件費が増加し、経営状態が悪化(状況に応じては赤字化)する病院が増えたのだ。

 東京商工リサーチによれば、2018年1-8月の病院・医院の倒産は32件と急増し、前年(27件)をすでに超えているという。このまま推移すれば、リーマン・ショックの影響を受けた2009年の年間59件に次ぐ多さになる可能性がある。

 旧ソ連などの計画経済の失敗から生まれた反省は、計画する側は「事前に何が正しいのかわからない」という当たり前の謙虚さが持てなくなり、現場に創意工夫が生まれにくくなるということだろう。医療を行う現場である病院には、やはり創意工夫の余地を残した方がいいのではないか。

 たとえば下記のような話がある。

 「日本赤十字社医療センター(東京)が「同じ効果、同じ副作用なら価格が安い抗がん剤を使う」との院内方針を決めたことが(2016年)7月21日、分かった。化学療法科の国頭英夫部長は「国民皆保険制度のもと、日本では高額薬であっても医師は価格を気にせず処方してきた」と指摘。海外では同様の決定が報じられた後に薬価引き下げにつながった例もあるが、薬価を比較した上で使用する薬を決めるのは国内で異例とみられる」(産経ニュース2016年7月22日付)

 「地域医療構想」は医療の計画経済化を進めるもので、このような現場の創意工夫が生まれにくくなると思うが、いかがだろうか。

 まの・としき 1961年、愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒。米国コーネル大学医学部研究員、昭和大学医学部講師、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授を経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授。内科専門医。京大博士(経済学)。

(写真:AFP/アフロ)