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医療

新型コロナ、医師・病床の数が死亡者数を左右 医療崩壊を防ぐカギ

中央大学教授 真野俊樹

2020/04/06

新型コロナ、医師・病床の数が死亡者数を左右 医療崩壊を防ぐカギ

 新型コロナウイルスが世界で猛威を奮っている。日本国内の新規感染者の状況をみると、3月1〜31日は多い日でも数十人で推移し、諸外国のような大きな変動はなかった。だが、海外からの帰国者が発症するケースもあり、3月末から感染者数が急速に増加している。この感染増加は第2波と呼ばれ、1月末、中国の春節の時期に起きた感染である第1波と区別する。

 第1波の感染主体は中国からの観光客だったので、日本では武漢市への渡航歴や武漢市からの観光客との接触をもとに、個別の患者を追跡するという対策が採られた。もともと、手洗いをよく行い、ハグやキスをあまりしないといった国民性もあり、第1波は次第に落ち着きを見せた。しかし、問題は、その後に来た第2波である。

 観光客と住民では、行動パターンが異なる。感染管理の観点で言えば、感染者追跡のしやすさが異なってくる。実際、イタリア北部から欧州全域に感染が拡大した理由として、イタリア北部に多い中国系移民が春節で中国と行き来したためではないかといわれている。第2波についても、3月下旬までは、日本の対策が上手くいっていたようにみえた。上手くいった要因の1つは、前述した清潔好きの国民性があるだろう。一方、感染者数が多いイタリアやスペインは手洗いをしないというよりもハグやキスを頻繁に行う習慣がある。

 各国の新型コロナウイルスの感染対策を評価する見方に感染者数と死亡者数の2つの軸がある。新型コロナウイルスに感染しているかどうか、現時点ではPCR法という検査を行うが、精度の問題もあり、日本では多く行われていない。一方、韓国では無症状の人にも検査を行っており、感染者数は政府の新型コロナウイルスへの対応の違いによって大きく異なっている。

 一方、死亡者数はその国の医療レベルと医療キャパシティに大きく左右される。ここで、新型コロナウイルス感染症の特徴を確認しておきたい。

 新型コロナウイルスが風邪の症状を引き起こすウイルスということで、当初、インフルエンザと比較されることが多かった。ただ、両者の違いは新型コロナウイルスでは感染者の20%が重症化し、5%が人工呼吸器など高度な医療が必要になる点である。この重症化した20%の人が主な感染源になるが、感染しても症状がなかったり、軽い風邪症状で終わったりする残りの80%の人も他人に感染させる可能性があるという特徴を持っている。

 このため、常に感染の危険にさらされる医師、看護師など現場の医療者を疲弊させないための対策や感染者を隔離し、場合によっては、人工呼吸器など高度な治療を施すことができる病床の確保が重要な課題になってくる。患者数が医療キャパシティを超えると、病床が不足したり、人工呼吸器などの医療機器が不足したりする事態が発生し、医療崩壊が起きる。医療崩壊は、「患者が医学的な必要に応じ入院できないことなど、医師による適切な診断・治療を受けられないこと」と定義される。

  新型コロナウイルスの感染が拡大するイタリアで起きていることがまさに医療崩壊である。また、医師があまりに多くの患者を目の前にして疲労困憊しても同じ結果を招く。日本は医療のレベルが高く、医療のキャパシティも大きいので、諸外国に比べて新型コロナウイルス感染による死亡者数が非常に少なく抑えられている。逆に、イタリアのように医療崩壊が起きている国では死亡者数が多くなっている。(図表)

 もちろん、中国のように都市の完全閉鎖といった手段を使えば、感染拡大が抑えられ、死亡者数は減る。突貫工事で病院を新設し、医療のキャパシティも増やした中国は新型コロナウイルスの感染拡大を乗り切りつつあるともいわれる。だが、欧米からの感染者流入により、中国にも新たな波が押し寄せてくる可能性はある。

 翻って、日本の病床数はなぜ多いのだろうか。正確には減少する途上にあるといった方が正確である。図表の通り、日本は医師数と比較して病床数が多い。現在、日本の人口千人当たりの病床数は世界一。これが医師の過重労働の原因の一つにもなっており、厚生労働省の地域医療構想では病床数の適正化が意図されている。病床数が多過ぎるのもおかしいが、あまり減らしすぎるのも良くないのは、新型コロナウイルスの感染拡大で明らかである。

 筆者は医師でもあるので新型コロナウイルスが指定感染症で入院できる病床に限定されていることは承知している。しかし、急性期病床でなくても、人工呼吸器を付けることは可能である。新型コロナウイルス感染者のために結核病棟を使っているケースもあるが、集中治療室のように高度な医療を行っているわけではない。ただ、病床数が不足する国のように、重症患者のためにホテルを病院に転用するといったことに比べれば好条件であることは間違いない。

 筆者は、有事と平時の医療は分けて考えるべきだと考えている。言い換えれば、有事を恐れるあまり、設備を余分に配置することは無駄であろう。ここでカギになるのは、有事の医療キャパシティをどう確保するかである。

 日本政府は近々、緊急事態宣言を発令するとみられるが、4月5日時点で日本の感染者は3760人、死亡者は90人(世界保健機関、WHO調べ)。医療崩壊はまだ起きていない。将来、日本の病床数を減らしていくとしても、余剰とされる病床を有事に備えて、国あるいは地方自治体が低料金で借り上げ、いざと言う時に病床に転用できる機能を維持しておいてはいかがだろうか。

 例えば、小中学生や高校生に有事の際の医学、保健を教育する場所として活用することもできるだろう。万が一、利用されなかったとしても、人件費はかからず、経済的負担は少ない。また、余剰病床を病院の判断で患者家族が院内で宿泊するスペースにすることもできよう。病院の統廃合が進めば、自宅から病院までの距離が遠くなるケースが予想される。院内に家族が宿泊できるスペースがあれば、患者家族の利便性も高い。

 日本の医療のレガシーともいえる余剰病床を一定数、病床に転用できる状態に維持しておくことは、今回、新型コロナウイルス禍で英国や中国で見られたように、突貫工事で新たな病院を建設するよりも日本の社会にとって良いのではないだろうか。

 

 まの・としき 1961年、愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒。米国コーネル大学医学部研究員、昭和大学医学部講師、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授を経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授。内科専門医。京大博士(経済学)。

 

(写真:AFP/アフロ)

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