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医療

コロナ共存社会、非接触診療が拓く日本医療の未来

中央大学教授 真野俊樹

2020/06/10

コロナ共存社会、非接触診療が拓く日本医療の未来

 新型コロナウイルスは2019年12月に中国で最初の症例が確認されてから、瞬く間に感染拡大し、人々の生活を一変させた。ワクチンの開発や集団免疫の獲得には時間がかかり、新型コロナと共存していく中で日本の医療にも大きな変化が起きてくるとみられる。今回は、日本の医療、そして、病院や診療所、調剤薬局などの医療機関に起きる変化を予想したい。

 厚生労働省の地域医療構想に関するワーキンググループが2019年9月、がん、心疾患、脳卒中などの診療実績が少なく、類似の病院が近くにある全国424の公立・公的病院に機能の再検証を求めたように、日本国内の病院数には過剰感があるとされ、今後、機能分化や集約化によって、病院の数を減らす方向だった。この病院を減らすという方向性は変わってくる可能性がある。

 日本国内における新型コロナの感染者数1万7141人、死亡者数916人(6月6日時点)は、先進諸国に比べて極めて少ない。その理由として、日本は医療機関のキャパシティに余裕があり、新型コロナの感染拡大に対応できたと考えられている。今後、第二波、第三波の再流行に備えるためには、医療機関のキャパシティに一定の余裕をもたせる必要があり、病院の数は温存される可能性が出てきた。

 もちろん、医療の無駄を放置してよいというわけではない。新型コロナ対策で日本の財政赤字はさらに悪化する見通しで、新型コロナ感染症に向き合う医療についても何らかの対応が求められる。ただ、医療界においては、これまで限れられた医療資源の中で一定の診療成果を挙げてきたこともあり、大きな変化を求める人は少ない。

 新型コロナ感染拡大の影響が出てくるのは、大病院ではなく、診療所や調剤薬局だ。日本には、欧州のような、かかりつけ医制度がないので、患者が医療機関を自由に選択できるフリーアクセス、患者に対する診療行為を積算して診療報酬を支払う出来高払い制度のもと、身近なプライマリケアを診療所の開業医が担ってきた。

 新型コロナ感染対策で、これまで再診にしか認められていなかったオンライン診療が初診についても認められる規制緩和が行われた。ただ、筆者の言うオンライン対応は、病気や怪我の診察、薬の処方だけではなく、生活習慣病予防などの健康相談も含む。日本は医療機関へアクセスしやすいと言っても、医療機関に足を運ばずに済むオンライン対応にはかなわない。

 新型コロナと共存する中で、プライマリーケアのオンライン診療が普及してくれば、オンライン診療システムの価格下落も起きてくる。そうなれば、医療機関もオンライン診療を始めやすくなるし、逆にオンライン診療に対応していなければ患者が減って経営が悪化してしまう可能性がある。これは、日本の医療が患者のフリーアクセスを認めている以上、避けられない。

 患者に対する医療行為を積算して診療報酬が支払われる出来高払い制度では、患者数の減少は医業収入の減少に直結する。厚生労働省が、新型コロナによるリアルの患者数の減少をオンライン診療で補ってもらおうとしても、全国からアクセスできるオンライン診療では、著名医師のような一部医師に患者が集中してしまう可能性がある。

 そして、オンライン診療の著名医師への集中は、調剤薬局の在り方にも影響を与える。薬さえ入手できれば、薬局には行きたいくないと考えている人は少なくない。インターネットや電話、FAXによる処方箋の提出や薬剤の宅配という便利さを好む人は調剤薬局に新しい機能を求めるだろうし、ドラッグストア併設の調剤薬局で買い物のついでに薬剤を取りに行くといったこともさらに増えるだろう。

 こうした診療所や調剤薬局の未来を想像しているのは、医療機関の経営者も同じだろう。オンライン診療で一部の医師に患者が集中する一方、米国のように、大病院が、かかりつけ医や調剤薬局をネットワーク化するという動きが出てくる可能性がある。大病院のITシステムのもと、かかりつけ医がネットワーク化され、患者情報が一元化されれば、患者側のメリットも大きい。

 現在、新型コロナウイルス感染症は先進国で落ち着きを見せているが、発展途上国では依然、猛威を振るっている。感染拡大が継続する地域との往来により、新型コロナが再流行するというシナリオは現実味を帯びており、当面、「アフター・コロナ」(新型コロナ収束後)というより「ウィズ・コロナ」(新型コロナと共存)の時代を想定した方が良いであろう。

 日本医療のIT化については、これまで医療者側が慎重であった。しかし、新型コロナとの共存はそうした考え方を変える契機になった。非接触の医療であるオンライン診療の普及は、一部の医師への患者集中を招く可能性があるが、大病院を中心とする、かかりつけ医のネットワーク化は患者情報の一元化にもつながる。それは、「ウィズ・コロナ」の社会に十分なプラスをもたらすのではないだろうか。

 

 まの・としき 1961年、愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒。米国コーネル大学医学部研究員、昭和大学医学部講師、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授を経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授。内科専門医。京大博士(経済学)。

 

(写真:AFP/アフロ)

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