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医療

地域医療連携推進法人の問題点

中央大学教授 真野俊樹

2021/03/17

地域医療連携推進法人の問題点

 中国・湖北省武漢市で2019年12月に新型コロナウイルス感染症の初めての症例が確認されたから1年余り。日本にも新型コロナ感染拡大の第2波、第3波が相次いで到来し、一般の人たちのあいだでも医療や医療体制についての話題が増えてきた。

 医療や医療体制についての話題が増えたことにより、一般の人たちに理解が広がってきたこともある。代表例が医療分野における IT(情報技術) 活用の遅れと医療機関の集約化が進んでいないことである。本稿では、後者の医療機関の集約化が進んでいないということについて述べてみたい。

 厚生労働省は、地域医療の機能重複や過剰投資を避けるため、2017年の医療法改正で地域医療連携推進法人制度を導入した。地域医療連携推進法人は、複数の病院や診療所が新規に一般社団法人を設立し、その法人内で診療科の再編や資金の融通を行い、医療の効率化や経営の安定化を図るものである。

 厚生労働省によれば、2021年2月12日現在、21法人が都道府県から地域医療連携推進法人として認定されている。地域医療連携推進法人化の取り組みは、名古屋市のような大都市にもあるが、医療界では、人口減少が進む山形県酒田市や過疎化が進む奄美大島(鹿児島県奄美市ほか)の取り組みが注目されている。【1】

 経営学では、企業規模が大きくなると、経営効率が高まると考えられている。これが「規模の経済」と呼ばれる現象である。病院についても企業と同様、規模が大きすぎては問題もあるが、規模が小さければ、薬剤や医療材料の購入、医師、看護師、事務職の採用にデメリットがある。

 日本の人口10万人あたりの医療機関の数は、2018年10月時点で141.6と諸外国に比べて多い。医療機関が多ければ、患者の医療機関へのアクセスが良くなる半面、医療機関の経営にはマイナスになる。日本は人口が減少しており、医療機関、とりわけ病院はその数を減らしていかなければならない。

 人を救うことを使命とする医療機関は、収益を必ずしも最優先にはしていない。日本で生活困窮者医療を先駆的に手掛けてきた恩賜財団済世会は、診療船で離島を回る巡回診療などの僻地医療にも力を注いでいるが、僻地医療のような不採算部門を全体の収益で吸収している。

 民間病院でも、創始者の徳田虎雄医師が「生命だけは平等だ」という理念を掲げた徳州会グループのように、不採算の僻地医療をグループ全体の収益でカバーしているところがある。こうした取り組みは、規模が小さければ成り立たず、規模が大きいからこそできることである。

 このような視点からみると、地域医療連携推進法人制度には制度そのものに問題があることが分かる。それは医療機関の集約化を地域内に限定していることであり、地域を限定すれば集約化にも限りがある。現状、僻地医療の担い手となってる恩賜財団済生会や徳洲会グループのような「規模の経済」を働かせることはできないのだ。

 しかしながら、地域内に限定しても規模を大きくするメリットは少なくない。例えば、日本海総合病院や日本海酒田リハビリテーション病院、酒田地区医師会十全堂などを傘下に収める地域医療連携推進法人、日本海ヘルスケアネットによる地域医療の効率化、経営安定化の成果は大きい。【2】

 その日本海ヘルスケアネットでは、法人内で共通のフォーミュラリーをつくっている。フォーミュラリーは、「疾患の診断、予防、治療、健康増進などの臨床的判断に必要であり、継続的にアップデートされる薬のリストと関連情報」のことを指すが、ここでは簡単に処方薬を標準化した薬剤リストと考えてもらっていい。

 これまでフォーミュラリーは個々の病院で作られてきた。このため、病院によって薬剤が異なり、フォーミュラリーが地域に広がらないという問題があった。しかし、地域医療連携推進法人でフォーミュラリーをつくれば、複数の医療機関のフォーミュラリーが共通になり、それが地域全体に広がることにもつながってくる。

 国民皆保険制度の費用を負担する国民健康保険らが薬剤の標準化、費用の低減を進められない現状において、医療機関が薬剤を共通化、効率化しようというのである。これはアメリカにおける保険者主導のフォーミュラリーと異なり、日本独自のものである。医療機関ひいては国民皆保険の経営改善策として、この取り組みの今後に期待したい。

 

 まの・としき 1961年、愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒。米国コーネル大学医学部研究員、昭和大学医学部講師、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授を経て、中央大学大学院戦略経営研究科教授。内科専門医。京大博士(経済学)。

 

【1】地域医療連携推進法人の広がり、看護 特集2、2021年3月

【2】地域医療連携推進法人、日本海ヘルスケアネットには、現在、山形県・酒田市病院機構、酒田地区医師会十全堂、酒田地区歯科医師会、酒田地区薬剤師会、健友会、山容会、宏友会、光風会、かたばみ会、正覚会の10法人が参加する。

【3】Am J Health-Syst Pharm 2008;65:1272-83

 

(写真:AFP/アフロ)

 

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