一覧へ戻る
医療

病院の混雑解消、フリーアクセスを見直して質とコストを改善しよう

明治大学教授 田中秀明

2018/11/14

病院の混雑解消、フリーアクセスを見直して質とコストを改善しよう

 厚生労働省『国民医療費統計』によれば、健康保険を使った医療費の合計額(国民医療費)は、2016年度で約42.1兆円だった。2016年度こそ前年度比0.5%減となったが、平成に入ってからこれまで年平均2.85%増えている。これは国内総生産(GDP)の同じ期間の年平均伸び率0.96%を大幅に上回っており、国民医療費の対GDP比は同じ期間に1.65倍に膨らんでいる。

 もちろん、医療費の多寡が直ちに問題ではない。医療は国民の命に関わるものであり、治療に必要なものであれば、お金がかかってもよい。問題は、費用対効果のある医療、あるいは効率的・効果的な医療になっているか、である。

 日本の医療費は、これまで経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均を下回り、平均寿命の長さを考えると、費用対効果が高いとされてきた。しかし、OECDが指標とする保健医療支出は2015年、対GDP比11.4%に上昇し、アメリカ・スイスに次いで3位になった。

 次に、日本の医療の特質を理解するため、医療資源に関する指標について、OECDのデータで比較する。しばしば指摘されるのが、人口に比べて日本は医師の数が少ないことである。確かに、日本の医師の数は対人口比でOECD平均の7割弱にとどまるが、薬剤師の数は2倍である。歯科医も多い。日本の医師の数についてしばしば指摘される問題は、地域による偏在と診療科による偏在である。

 日本の医師1人当たりの年間診療回数は、OECD平均の2倍を超える。国民一人当たりの年間診療回数も2倍に近い。看護婦の数は対人口比でOECD平均を上回る。MRIやCTは、人口比でOECD平均の3~4倍であり、病床数は2倍を超える。平均入院日数は近年、減ってはいるものの、OECD平均と比べると、2倍を超えている。

 医療の質を計測することは容易ではないが、OECDでは、検査率、特定のがんの生存率、ワクチン接種率など23のデータを医療の質を表すデータと定義している。

 これらを見ると、日本は死亡率が低い一方、検査率が低く、OECDが定義する医療の質について評価が相反する結果になっている。

 供給体制にも問題がある。しばしば、救急患者のたらい回しや救急病院の不足、小児科医や産婦人科医の不足、地域の自治体病院の閉鎖などである。また、需要面にも問題がある。患者は風邪でも病院を利用し、同じ病気で複数の病院を掛け持ちで受診する場合もある。

 これらの問題の根源は、日本の医療の供給体制が私立の病院や診療所が中心であるため、医療機関の連携や情報の共有・活用が難しいことにある。都道府県が、かろうじて病床数を規制している程度であって、諸外国にみるような規制や管理は極めて弱い。

 OECDは2010年公表の調査報告書の中で、日本の医療制度の特徴として①私的供給が中心で医療供給の量的拡大を促すインセンティブがある②政府による価格統制が強い③患者は自由に選択できるが、価格や質に関する情報が乏しい④急性期病院へのアクセスを制限するゲートキーピングがない⑤病院が高齢者の長期療養施設になっている⑥一つの疾患が治癒・寛解するまでの診療回数が多い――などを挙げている。

 これらは医療システムの構造に起因する。日本の医療制度は、医療サービスが絶対量として不足していたときの供給拡大モデルであり、病院や診療所の開業や診療科目選択の自由、病床や医療機器のコントロールがない(あるいは規制が弱い)こと、フリーアクセス、出来高払いがまさにそれを表している。

 また、医療情報が不足しているため、質とコストを踏まえたサービスの費用対効果を検証することが難しく、そもそも、供給拡大が主目的であったので、そうしたことは不要であったといえる。

 こうした医療サービスの供給拡大モデルが、高齢化を背景に様々な矛盾と問題をもたらしている。今日では、若年者の病気の治癒=キュアから高齢者の介護=ケアに重点が移っているが、医療教育は相変わらずキュアが中心で高齢者のプライマリーケアや地域における多職種の連携は不十分である。

 医療においては、コスト、質、アクセスの3つはトレードオフの関係にあると言われている。多くの国では、アクセスを制限し、コストと質のバランスを図っている。しかし、日本ではアクセスが最も重視され、コストと質が二の次にされている。

 前述のように、従来のOECD統計では、日本の医療は比較的コストがかからないとされてきたが、最近の統計では、OECD加盟国のトップグループに属している。

 医療関係者がその重要性を指摘するフリーアクセスは、医療サービスの受給者である国民の問題でもある。

 健康保険に加入していれば、どこの病院でも診療を受けられる。風邪でも大病院に行く。フリーアクセスの弊害で病院や診療所が混雑すれば、本来、医療サービスが必要な患者にサービスが行き届かないことにもなりかねない。それでは、患者自身にとっても困ることになる。我々は、医療のフリーアクセスが本当に必要なのか、それを考える時が来ている。

 たなか・ひであき 1960年、東京都生まれ。東工大院修了、旧大蔵省(現財務省)へ入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官を経て、明治大学公共政策大学院教授。政策研究大学院大博士。

(写真:AFP/アフロ)

 

バックナンバー

2018/11/28

介護職の採用に1人60万円、残念な介護報酬の使われ方

日本経済研究センター主任研究員 小林健一

2018/11/21

地域医療構想、医療の計画経済化がもたらす死角

中央大学教授 真野俊樹

2018/11/14

病院の混雑解消、フリーアクセスを見直して質とコストを改善しよう

明治大学教授 田中秀明

2018/11/07

社会保障、ヒューマン・サービス給付の体制整備がカギに

神奈川県立保健福祉大学名誉教授 河幹夫

2018/10/31

介護保険の制度的人材難、抜本改革なくして解消せず

鹿児島大学教授 伊藤周平

2018/10/24

診療報酬制度の影、医療機関の独自性を損なう

中央大学教授 真野俊樹

2018/10/17

社会保障の2040年問題、現役1.5人が高齢者1人を支える困難さ

中央大学教授 宮本太郎