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年金

社会保障クイズ 年金財政は大丈夫?

明治大学教授 田中秀明

2019/02/13

社会保障クイズ 年金財政は大丈夫?

 今回は、年金財政について考えたい。公的年金は、現役世代が支払った保険料を、その時点の高齢者の年金給付に充当する仕組みである。周知のように、日本では、世界で類を見ないスピードで少子高齢化が進んでおり、現在そして将来の年金財政は大丈夫か、疑問に思うからである。次の質問への答えを考えていただきたい。

 

問1 国民年金の保険料の未納者、免除者は全体の3%に過ぎず、未納者が増えても問題はない?

 公的年金に加入していない人や保険料を納めていない人が増えているという報道があるが、これに対して、厚生労働省は公的年金の未納者、免除者(以下、未納者)は全体の約3%に過ぎないと説明している。

 この3%の根拠を説明しよう。厚労省は、全国民が基礎年金に加入し、第1号(自営業者)、第2号(企業や政府に勤める被用者)、第3号(主婦など第2号の配偶者)のいずれかに該当すると説明する。この第1号から第3号までの被保険者を分母とすれば、未納者は約3%になるわけである。

 これは正しくない。実は、「基礎年金」という年金制度はなく、年金制度はあくまで国民年金、厚生年金、共済年金とそれぞれ別立ての制度である。未納者が多いのは、国民年金であり、国民年金の被保険者の合計を分母とすれば、未納者の割合は全体の約半分に達する(図1)。

 国民年金の未納者問題は、国会でも取り上げられるなど、政治的な問題になっており、国民の関心が高い。厚労省は、未納者の割合が高くなると困るので、彼らの都合が良いように計算している。

 実際、保険料の納付があった月数を納付すべき月数で除した国民年金の納付率は2017年度で66.3%になっており、先程の約3%とは全く異なる数字である。納付率は国内景気の復調を反映して6年連続で改善しているが、この数字は保険料の全額免除者や納付猶予者を除いて計算したものであり、これらを含めた実質的な納付率は40.3%にとどまる。

 また、筆者は、厚労省の説明会で次のように言われたことがある。「皆さんは未納・未加入の問題を強調するが、それは誤解である。保険料を払わなければ、その分だけ年金給付が減るので、年金財政に影響はない」。これは正しい説明とはいえない。

 これからの保険料の支払いと給付については、保険料を払わなければ給付もないので、年金財政に影響はない。しかし、過去に拠出された保険料に対応する年金給付(過去勤務債務)は違う。過去勤務債務を賄うための財源は国民年金の積立金では不足するので、厚生年金や共済年金の積立金で補っている。

 基礎年金という概念は、「年金制度」ではなく、国民年金の財政を厚生年金、共済年金が支援するための仕組みなのである。

 厚労省が2014年6月に発表した「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し-平成26年財政検証結果」では、異なる納付率の前提を置いて将来推計を行っているが、驚くべきことは、国民年金の納付率が低くなればなるほど、厚生年金、共済年金の支援で国民年金の財政が改善し、逆に納付率が高まると、国民年金の財政は苦しくなるのだ。

 厚労省は、「年金は世代間の助け合いだからこそ、賦課方式である」と説明する。賦課方式は、現役世代が払った保険料が、その時点の高齢者の年金給付に充当される仕組みである。保険料を納める者が減れば、助け合いが苦しくなるのは当然だが、厚労省は「違う」と言っているのだ。

 加入者が保険料を払わない方が年金財政が改善するということ自体、おかしな話ではないか。なぜそうなるかというと、国民年金と厚生年金、共済年金が別々の年金制度で後者から前者へ財政補填をしているからである。

 

問2 マクロ経済スライドにより、年金財政は100年間、安心できるか?

 「マクロ経済スライド」は、2004年に導入された近年では最も大きな年金制度改革である。同じ年の法改正で現役世代の保険料負担が重くなりすぎないように保険料の上限を定めており、平均余命が上昇したり、高齢化率が進んだりすれば、給付を削減する必要がある。この給付水準を調整する仕組みが「マクロ経済スライド」である。

 もともと年金支給額は、賃金や物価が上昇すると増える仕組みになっているが、マクロ経済スライドは、賃金や物価が上昇するほどには支給額を増やさず、長期的に年金財政を安定化させるものである。この長期的な期間が「おおむね100年」となっている。

 具体的には、年金支給額の伸びから「スライド調整率」を差し引いて、年金支給額を改定する。例えば、賃金(物価)上昇率が1.5%で、スライド調整率が0.9%の場合、実際の年金支給額の改定率は0.6%になる。ここで、スライド調整率は以下の式で計算する。

 スライド調整率=公的年金全体の被保険者の減少率+平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)

 

 スライド調整率は年度ごとに異なるが、2014年財政検証に基づく2015年から2040年までの見込みは年平均1.2%~1.3%となっている。制度の説明が長くなったが、「100年安泰」かと言うと、今のところそうではない。

 マクロ経済スライドを導入したものの、賃金や物価の上昇率がマイナスになるデフレ経済が続き、物価・賃金が上昇した2014年の翌年(2015年)になって初めて発動された。被保険者数の減少(0.6%)と平均余命の伸び(0.3%)の合計0.9%の年金支給額が削減された。

 そして、2019年度に二度目が発動される。これは2018年の消費者物価上昇率が対前年比1.0%、賃金上昇率が同0.6%だったことを受け、上昇幅が小さい賃金上昇率を基準にマクロ経済スライドを適用し、年金支給額の上昇を0.1%に抑える。

 時間は戻るが、2016年12月に年金関連法が改正され、2021年4月からは、物価の下落だけでなく、賃金が下落した場合も年金支給額を減らす新しいルールが実施されるので、仮にマクロ経済スライドが100%発動されると、別の問題が生じてくる。

 人口の将来推計によると、貧困高齢者が増えると予想されている。生涯未婚率が上昇して単身高齢者が増えていること、女性は夫と死別する可能性が高いこと、就職氷河期世代のように年金保険料を十分納められなかった人が増えていること――などが原因である。マクロ経済スライドが規定通り発動されると、基礎年金の支給額は向こう100年間で約3割削減される。マクロ経済スライドの発動は、高齢者の貧困問題に拍車をかけるだろう。

 

問3 基礎年金の財源の半分は国庫負担。これで国民負担は抑制できるのか?

 基礎年金が1985年に始まった当時、その給付に要する費用の1/3を国庫負担で賄うことになっていた。2004年の制度改正により、この割合を1/3から段階的に引き上げて2009年度までに1/2に引き上げることになった。その際、厚労省は「国庫負担を1/2に引き上げることは、年金制度を持続可能なものとするために必要である」と説明していたが、そんなことはない。

 そもそも「国庫負担」は政府が負担するものではなく、国民が負担するものである。税、社会保険料と名称は違っても負担するのは国民である。年金保険料が軽減されても、国庫負担が増えて税金が増税されるので、国民負担は抑制されない。お金を徴収する主体が厚労省から国税庁に変わるだけである。

 基礎年金への一般財源の投入は、被保険者の所得の多寡にかかわらず行われる。上場企業の役員の厚生年金にも税金は投入されている。問題は、一般財源の投入が不公平をもたらすことである。

 例えば、低所得の非正規雇用者は、第1号の保険料を負担しないと年金支給額は減額あるいは無年金になるが、彼らが支払う消費税は、一般財源として年金給付に使われる。他方、高所得者の年金給付も税により補填されるが、厳しい財政状況の中で、税金の公平な使い方とは言えないだろう。

 たなか・ひであき 1960年、東京都生まれ。東工大院修了、旧大蔵省(現財務省)へ入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官を経て、明治大学公共政策大学院教授。政策研究大学院大博士。

 

(写真:AFP/アフロ)