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年金

社会保障クイズ 日本の年金制度は普通ですか?

明治大学教授 田中秀明

2019/03/06

社会保障クイズ 日本の年金制度は普通ですか?

 これまで2回にわたり年金制度について論じてきた。日本の年金制度が多くの矛盾と問題を抱えていることをご理解いただけたと思う。今回は、なぜそうした矛盾を抱えているのか、日本の年金制度の根本的な問題を考える。そして、問題解決のためにはどうすればよいのか、改革案を提案したい。

 

問1  日本の年金制度は3階建てというのは本当ですか?

 

 厚生労働省の資料を見ると、日本の年金制度は、2階建て、あるいは、3階建ての制度になっていると説明されている1階部分は定額給付の国民年金、2階部分は、報酬比例の厚生年金と共済年金、3階部分は企業年金あるいは個人年金である。

  この資料をよく見ると、この1階部分は、「国民年金(基礎年金)」と書かれている。厚労省は、これは国民すべてが加入する年金と説明するが、括弧の中の「基礎年金」とはどういう意味だろうか。

  年金制度において、国民年金と基礎年金はなぜ違う用語が使われているのか。これを理解している人は少ない。端的に言って、こうした厚労省の説明は、事実と異なるのだ。

  日本の年金制度は、国民年金、厚生年金、共済年金のように、分立している。正確には、図1が正しい姿である。政府機関が作成している統計(例えば「社会保障費用統計」(国立社会保障・人口問題研究所))を見ると、「基礎年金」という年金制度はどこにも出てこない。

 1985年に導入された基礎年金制度は、「年金」ではなく、国民年金の財政破綻を回避するために導入された財政調整制度である。

  自営業者やパート労働者などが加入する国民年金はもともと定額の年金を給付していた。他方、サラリーマンが加入する厚生・共済年金の年金給付は定額部分と報酬比例部分で構成する。

  かつては、両者の定額部分の金額が異なっていたが、1985年の法改正で同額としたのが実態である。そして、厚労省は、老後の生活は国民皆で支えるものだと説明した。国民年金を救済するために、厚生年金、共済年金の保険料を流用すると説明したら、国民が怒るからだ。

 それでは、基礎年金は国民皆で支える制度なのだろうか。1階部分は国民共通と言っているが、その負担のルールは全く違う。国民年金の被保険者(第1号被保険者)の保険料は、原則として所得に関わらず1人1月16,340万円 、厚生・共済年金の被保険者(第2号被保険者)は定額部分と報酬比例部分を合わせて18.3%(労使折半)、第3号被保険者(2号被保険者の被扶養者、主に専業主婦)はゼロである。負担方法のルールは全く異なるが、これで国民皆で支える制度と言えるだろうか。

  この基礎年金部分は財政調整制度であると述べたが、問題はその方法である。基礎年金の給付に要する費用は、総額を各制度の被保険者の数で割って算出するが、第1号については、実際の納付者の数で計算することになっており、国民年金の未納・未加入が増えると会社員や公務員が割を食う仕組みになっている。

  筆者の計算では、現在のサラリーマンの負担は、国民年金の未納・未加入がないという場合に比べて約20%高くなっている。

  財政調整そのものが問題と言っているわけではない。基礎年金は国民全員が能力に応じて負担を分かち合うものでなく、職業によって異なる負担ルールが適用されていることが問題なのである。

  最近の第1号被保険者は、自営業者だけではなく、会社に雇われている人も多い。例えば、非正規雇用の人たちである。なかには所得の多い人もいるが、保険料は一律16,340万円である。

  自営業の場合、夫婦が別々に国民年金の保険料を納めなければならない。一方、夫がサラリーマンである専業主婦は保険料を直接納める必要はない。国民皆で支えると言っているのに、こうした仕組みは不公平ではないか。

 

問2  年金を税方式で運営しているのは、ニュージーランドだけですか?

 

 公的年金の財源は、保険料か税のどちらかであり、税を財源とする仕組みは「税方式」と呼ばれる。厚労省は、税方式の年金制度を導入しているのはニュージーランドだけだと説明している。

 これは明らかに間違いである。年金の財源として税を導入している国は、ニュージーランド以外に、オーストラリア、カナダ、デンマーク、オランダなどがある。

 厚労省は、自分たちの都合で社会保険制度を維持し、税方式は導入したくないので、ニュージーランドしかないと説明しているのである。

 なぜ厚労省は税方式を否定しているのだろうか。厚生労働省「公的年金制度に関する考え方」(第2版)を見ると、税方式の問題として、①個々人の負担の記録もなく、将来の年金額を約束するという税方式では年金支給に必要となる巨額の費用負担について国民の合意が得られるか②受給時の権利性が乏しくないことから、少子高齢化に伴って負担が増大していく過程で、給付水準のカット、所得制限の導入、受給対象者の絞り込みが行われる可能性③これまでの保険料負担をしてきた方々について上乗せの年金を支給する必要--を挙げる。

  しかし、これは都合のよい解釈である。①については、保険料負担がゼロになるからといって、すぐに巨額の費用負担が発生するわけではない。②については、これまで年金給付は一貫して削減されており、社会保険であれば年金が削減されない保障はない。③については、仮に、基礎年金の一般財源を1/2から2/2にする場合、40年以上の経過措置が必要になる。また、現行の基礎年金の半分は税金で賄われているが、半分なら良いのか。説明の根拠はない。

 公的年金制度は大きく分けると、「社会保険」と「税方式」の2つである。この2つの制度は、社会保障の哲学の相違を反映している。

 年金制度は、高齢者が貧困に陥らないために適切な所得を保障することを目的としており①生涯を通して生活水準を維持すること②社会全体の中での妥当な所得を保障することの2つの機能がある。

 ①を重視するのが、ドイツや日本など社会保険に基づく国(ビスマルク型)であり、②を重視するのが、イギリスやオーストラリアなど税方式の国(ビバレッジ型)である。

 社会保険では、年金数理上の公平性を重視し、保険料を多く納めた者が多くの年金給付を受けることができる。つまり納めた保険料と年金給付がリンクする。

 一般に、保険料は所得に連動するので、現役時代の所得格差は老後でも維持される。

 一方、税方式は、所得再分配が重視され平等志向である。しばしば、税方式は、負担なしで年金を受給できる仕組みであると説明されるが、それは間違いである。誰でも、現役時代は、通常、働いて税金を納める。ただし、その税金の額が年金給付にリンクしていないだけである。

 税方式を採用している国の場合、一般に、年金額は基礎年金のように、最低保障程度なので、それ以上の老後の保障のために、企業年金や個人年金などな私的年金制度が発達している。つまり、自助努力が求められるのである。

 逆に、社会保険の国では、老齢期を公的保険でほぼカバーする仕組みなので、ビバレッジ型の国と比べると、私的年金制度は発達していない。

 

第3問   日本の年金制度をどうしたらいいですか?

 

 厚労省は、日本の年金制度は国民全員の加入を義務付けており、国民全員をカバーするので「国民皆年金」であると説明するが、本当だろうか。

 国民年金加入者の約半分は決められた保険料を納めておらず、その分年金額は削減されるので、これは明らかに間違っている。

 世界の公的年金制度は、前述の通り、「社会保険」と「皆年金」(=税方式)の2種類である。前者は、若い時に保険料を払い、その額に応じて年金給付を受ける仕組みである。

 つまり、保険料と年金給付がリンクする。これに対して、後者は、一般に居住要件のみで、国民には誰でも年金を給付するのである。

 両者の違いは何か。保険制度では、いかなる国であっても、保険料を払えない人たちが存在するので、国民全員をカバーすることはできない。通常、保険料を納めることができなかった人には、生活保護で対応する。

 これに対して、皆年金制度は、国民全員を対象とするため、その財源は、必然的に一般財源、すなわち税である。

 誰でも若い時は働いて所得税などの税金を納めるが、それが年金給付に充当される。 

 ただし、払った税金の額に関わらず、一定の年金をもらえる。通常、それだけで老後を支えるものにはなっていない。オーストラリアなど国によっては、所得や資産の額によって、年金額が削減される。

 日本の年金は、社会保険方式で皆年金を達成しようとするものであり、それは論理的に不可能なのだ。できないことをするから、未納、不公平など様々な矛盾が生じている。                     

 私たちは、どちらかを選択しなければならない。日本の年金は、正確に言えば、保険料を払える人には誰にでも制度が提供されていると言う意味での「皆年金」であり、一定の水準の年金について国民誰にでも保障するという、本来の「皆年金」ではない。

 どうすればよいか。筆者は、基礎年金は、もともと予定していたように高齢者のセーフティネットにするべきだと考えている。

 その場合の財源は一般財源になる。税方式にすると、巨額な財源が必要であると指摘されるが、それは誤解である。

 税方式になれば、現在の国民年金の保険料負担や厚生年金の基礎年金相当の保険料負担がゼロになる。また、導入を決めたとしても、明日からそうなるわけではなく、これまで保険料を納めた者との公平を図るため、40年間かけて、新しい制度に移行することになる。

 これまで消費増税などの機会に年金が少ない人の対策としと追加給付が導入されている。つまり老後の保障という意味で、基礎年金以外にも一般財源が投入されているが、それは、基礎年金の一般財源の割合を増やすこととほぼ同じではないか。

 今後、高齢化の進展に伴い、貧困高齢者が増えることが予測される。マクロ経済スライドが発動されると、基礎年金額は約3割も削減されるので、高齢者の貧困問題をさらに悪化させる。

 年金制度とは本来、高齢者の貧困を防ぐためのものであるが、日本の年金制度は、防貧機能がそもそも弱い。 

 私たちは、公的年金の役割とその負担方法について、今、改め考えなければならないのである。

 たなか・ひであき 1960年、東京都生まれ。東工大院修了、旧大蔵省(現財務省)へ入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官を経て、明治大学公共政策大学院教授。政策研究大学院大博士。

 

(写真:AFP/アフロ)