一覧へ戻る
財政

財政クイズ 消費税、所得税…。増税は本当に必要ですか?

明治大学教授 田中秀明

2019/05/15

財政クイズ 消費税、所得税…。増税は本当に必要ですか?

 増税は誰もが避けたいのが本音であろう。選挙では、政治家は減税を訴えても、増税を訴えることはほとんどない。

 菅直人首相は2013年夏の参院選で例外的に消費増税を訴えたが、大敗した。2012年12月に発足した第2次安倍内閣は消費増税を2度にわたり延期している。近年、税収は回復基調にあるが、その総額は30年前の水準と変わらない。

 景気低迷も一因だが、政治が増税を回避してきた結果と言えよう。財政再建が目的ではないが、年金・医療、育児・教育などの公的サービスを安定的に供給するためには財源を確保する必要がある。

 では、財源を確保するために、どの税金を引き上げればよいのか。税金についてクイズ形式で質問を示し、その回答を通じて日本の税制のあるべき姿を考えたい。

 

問1 消費税は、低所得者ほど負担が大きくなります。消費増税は避けるべきではないですか。

 

 低所得者ほど負担が大きいというのは、所得に対する税負担が低所得者ほど高いことを意味し、一般に「逆進的」と言われる。それはどのくらいなのか。

 財務省の資料に基づき計算すると、消費税の負担割合は、年収200万~300万円世帯で6.7%、年収500万~550万円世帯で4.5%、年収1000万~1250万円世帯で3.4%になる。(表1)高所得者は消費税の負担額は大きいが、所得に対する負担の割合は小さい。

 こうした数字を見れば、消費税は不公平な税と言えるかもしれないが、先進国では、消費課税は税収全体の中で大きなウェイトを占めている。消費課税には、財・サービス全般に課税する税と特定の財・サービスに課税する税の2種類あり、前者に付加価値税(Value Added Taxes、VAT)、売上税、後者に物品税、関税がある。

 経済協力開発機構(OECD)全体で見ると、消費課税の税収全体に対する割合は、1980年以降、2016年までほぼ30%で安定している(OECD Revenue Statistics 2018)。これは、2016年時点で、個人所得税(約20%)、社会保険料(約20%)、法人所得税(約10%)を上回る。

 消費課税のうち、特定の財・サービスに課税する税は、過去50年間で大きく減少し、VATの割合が高まっている(図1)。1960年代 にVATを導入している国は約10ヶ国だったが、2018年には、日本を含む168ヶ国になっている(図2)。

 VATの標準税率は、OECD諸国平均で19.3%(OECD Revenue Statistics 2018)で、大半の欧州諸国は20%を超えている。(図3)平均を下回る国は、カナダ(5%)、日本(8%)など10ヶ国に過ぎない。

 多くの国が消費課税を重視する理由として、第1に安定した税収を確保できることが挙げられる。個人所得税や法人税は景気変動で大きく増減するが、消費課税は増減幅が小さい。景気が悪くなって、ぜいたく品の消費は抑えるとしても、生活必需品の消費は変わらないからである。

 第2に、経済活動へのマイナスの効果が相対的に小さいことである。あらゆる税は、経済活動にマイナスの影響を与えるが、消費課税のマイナス効果は個人所得税などに比べて小さい。(この点については、問3で改めて論じる)

 第3に、世代間の不公平を是正することである。高齢者は、所得税や社会保険料の負担が低い一方、年金や医療・介護など公的サービスを多く受益している。若年世代はその逆である。消費課税は高齢者も負担するので、不公平は是正される。

 こうしたメリットがあるからと言って、消費課税の逆進性は放置すべきものではない。それは、他の税目や歳出で是正することができる。

 識者が提言するのは「給付付き税額控除」である。所得税を納める人に所得税から一定額の税金を差し引く税額控除を付与し、控除しきれなかったり、課税最低額を下回ったりした場合、納税者に現金を給付する。カナダ(1991年導入)やシンガポール(2007年導入)が導入したGSTクレジットである。

 食料品に対するVATは多くの国で軽減税率が適用されており、これも逆進性対策の1つではある。ただし、軽減税率は消費課税が多い高所得者ほど軽減の恩恵を受けることになり、逆進性対策の効果は限定的である。先に紹介した財務省の資料でもそれは明確に示されている。(表1)

 

問2 お金持ちからもっと税金を取ってはいけませんか。金融資産への課税や相続税などの資産課税を強化しないのはなぜですか。

 

 所得税の最高税率は、1986年分以降、段階的な引き下げと調整があり、現在(2015年分以降)は45%で個人住民税の10%と合わせると55%になっている。所得税は労働意欲を阻害するといった問題があり、経済成長を促す観点から引き下げられてきたからである。

 所得税の最高税率引き下げは、日本に限らず、主要先進国に共通する動きである。所得税の最高税率引き下げによる税収減を補うため、近年は所得控除の見直しや相続税の増税が行われている。

 所得控除の見直しについては、年少扶養親族(~15歳)に対する扶養控除(38万円)の廃止(2011年分から適用)、給与所得控除の上限額が適用される給与収入の引下げ(従来の1200万円から2017年分の1000万円、2020年分の850万円へ)などが行われている。

 相続税については、2015年1月以降、定額控除の引下げ(従来の5000万円から3000万円へ)、法定相続人に関する比例控除の引下げ(従来の1000万円から600万円へ)、税率の引上げ(最高税率は、従来の3億円超の50%から6億円超の55%へなど)が行われた。

 この結果、年間死亡者に占める課税件数の割合は、2014年までの約4%から2015年の約8%に上昇し、相続税収も2010年度の約1.3兆円から2017年度の約2.2兆円まで増えている(ただし、バブル期の1993年の約2.9兆円には及ばない)

 このように高所得者への課税を強化する一方、住宅ローン減税の拡充など、減税も行われている。毎年の税制改正については、自民党税制調査会が大きな力をもっており、整合性のある税体系をつくることは難しい。

 今後の課題として、高所得者ほど恩恵が大きくなる所得控除から税額控除への転換、金融所得課税における申告分離課税の税率の主要先進国並みの30%への引き上げなどが考えられるが、資産課税は国の基幹税にはならない。

 税収総額に対する資産課税の割合は日本で約8%、OECD諸国平均で約6%である。金融所得課税を他国より高い水準に設定すると、金融資産は海外へ流出し、日本の国内投資に回らなくなる。

 高所得者への課税強化は望ましいかもしれないが、過度に強化すると、潜在的な投資資金を海外へ追い出すことにもなりかねない。

 

問3 企業には過去の利益を蓄積した内部留保があります。個人より法人へ課税を増やした方が良いのではないですか。

 

 財務省『法人企業統計』によれば、企業が得た利益から株主への配当金などを差し引いた利益剰余金(金融業、保険業を除く)は、2017年度に約446兆円だった。これは6年連続の増加であり、第2次安倍政権が発足する直前の2011度末に比べて約164兆円増えた計算になる。

 こうした数字を見れば、法人はもっと税を負担すべきということになる。しかし、法人税の引き上げは、配当や給与の引き下げや販売価格の引き上げにもつながる可能性がある。増税分を誰かが負担することになるため、単純に引き上げればよいというわけにはいかない。

 また、経済活動がグローバル化する中、各国が法人税の引き下げ競争を行っている。過去20年間、ほとんどの先進国が法人税率を引き下げており、日本だけが高い法人税率を維持することは難しい。(図4)

 実際、日本においても2012年までは30%だった法人税の基本税率が段階的に引き下げられ、2018年には23.2%(地方法人税を併せると29.74%)になった。

 もっとも、法人税率の引き下げは致し方ないとしても、租税特別措置などの優遇措置は極力廃止して、課税ベースを引き上げるべきだろう。

 租税特別措置は、投資促進など特定の政策目的を実現するために税の優遇措置を与えるものである。このうち法人税にかかわる租税特別措置による減収額は、2012年度の10,003億円から2014年度の20,587億円へと安倍政権になってから約2倍に膨れ上がっている。効果の薄いものや既得権益化しているものもあり、抜本的に見直す必要がある。

 最後に、増税の経済的効果について整理する。経済成長にマイナスの影響を与えるのは、個人所得税、法人所得税、社会保険料などである。他方、マイナスの影響が相対的に小さいのは、消費課税や資産課税などである。

 他方、公平性の観点からは、個人所得課税や資産課税は優れている一方、消費課税は問題がある。経済成長と公平性の間にはトレードオフがあるため、両者をどのようにバランスさせて税体系をつくるかがカギになる。

 税収の構成を日本とOECD諸国平均で比べると、日本は社会保険料の割合が突出して高く、消費課税の割合が低いという特徴がある。(図5)単純にOECD諸国平均と比べることはできないが、社会保険料の引き下げと消費課税負担の引き上げには、一定の合理性がある。

 税の構成は社会保障の在り方にも関係する。急速に進む少子高齢化や家族、雇用などの変化を踏まえて、税のあり方を考える必要がある。

 たなか・ひであき 1960年、東京都生まれ。東工大院修了、旧大蔵省(現財務省)へ入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官を経て、明治大学公共政策大学院教授。政策研究大学院大博士。

 

 

 

 

 

 

 

(写真:AFP/アフロ)

バックナンバー

2019/06/12

病気にかからない身体づくり、遺伝子・免疫治療の可能性

中央大学教授 真野俊樹

2019/06/05

所得階層の移動促進、社会全体の損失回避を

岡山大学教授 岡本章

2019/05/22

医師の世俗化、これからの医業の活路

中央大学教授 真野俊樹

2019/05/15

財政クイズ 消費税、所得税…。増税は本当に必要ですか?

明治大学教授 田中秀明

2019/05/01

臨時財政対策債、急増する自治体財政の禁じ手

弘前大学准教授 金目哲郎

2019/04/24

財政クイズ 日本の財政、本当に大変ですか?

明治大学教授 田中秀明

2019/04/17

財政再建 VS 積極財政 平成時代における財政再建への挑戦

日本経済研究センター理事・研究顧問、大正大学教授 小峰隆夫