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財政

財政クイズ 日本の財政再建、どうしたら良いですか?

明治大学教授 田中秀明

2019/07/03

財政クイズ 日本の財政再建、どうしたら良いですか?

 日本の財政は、先進諸国中最悪であり、財政再建を急がなければ破綻すると言われてきたが、今日までそのような事態にはなっていない。財政再建論者、あるいは財政再建の必要性を唱えてきた財務省が「狼少年」と言われる所以である。

 最近では、「日本の債務は問題なく財政再建は不要である」といった議論さえ出てきた。「現代貨幣理論」(Modern Money Theory、MMT)と呼ばれる理論で、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が提唱している。

 ケルトン教授は、インタビューで「日本政府と日銀は MMT を実証してきた。日銀による日本国債の保有割合は、全体の 40% 以上だ。長期金利が抑制され、国債増発がなかったかのような現象になる。財政赤字が問題ならインフレになるはずだ 。債務の 国内総生産(GDP) 比がよく問題視されるが、240% という数字に意味があると思わない」(日本経済新聞朝刊2019年4月13日付)と説明している。狼少年はいないと言うのだが、本当だろうか。

 

問1 借金で歳出を増やしたり減税したりしても、景気が回復すれば税収が増えます。経済成長こそが財政再建に必要ではないでしょうか。

 

 ケルトン教授は、「景気が弱含んで失業率が上昇すれば、MMT による財政支出を使って公共部門で雇用する。財政赤字はしばらく増加するが、景気が回復すれば、雇用は公共セクターから民間セクターに移り、財政赤字は縮小するだろう」と主張する。彼女は、日本を具体例に米国でも財政支出を増やすべきだと言っているのだが、こうした論調は、これまでの日本でも多い。

 最初に、理論的な整理をしよう。経済成長と財政の関係について、「ドーマーの定理」がある。この定理は、

 

 

 で表される。左辺は、債務残残高の対GDP比の増減を示すので、右辺がマイナスであれば、債務残高の対GDP比は徐々に減少し、プラスであれば、増大する。右辺の2つ目は、「基礎的財政収支」(プライマリーバランス)であり、過去の債務に関わる元利払い以外の支出と、公債発行などを除いた収入との収支を示す。プライマリーバランスが均衡している場合(右辺第2項がゼロ)、利子率より成長率が大きければ、右辺はマイナスとなり、債務残高は対GDP比で減少する。

 個人が住宅ローンなどで借金する場合、年収に応じて借りることができる金額が決まるように、政府レベルでも、経済規模であるGDP比が重要である。日本の財政はプライマリーバランスがマイナスなので(2017年度で対GDP比マイナス2.4%)、たとえ成長率が利子率より上回っていても、財政が持続可能とは言えない。

 多くのOECD諸国で、リーマンショック後に対GDP比債務残高が増大したが、足元では、それは減少あるいは横ばいで、一貫して増大しているのは、日本だけである。(図1)

 さて、理論はともかく、現実の財政ではどうなのか。これまで諸外国の「成功した財政再建」を調べると、たしかに経済成長は重要であるものの、成長だけに頼って成功したとは言えない。【1】 

 1989年に誕生したブッシュ政権は、90年に向こう5年間にわたる増税と歳出の削減や新しい財政ルールの改革を含む、90年包括財政調整法(Omnibus Budget Reconciliation Act of 1990、OBRA90)を成立させた。増税については、個人所得税の最高税率を28%から31%に引き上げ、税率構造を2段階から3段階に変更した。

 また歳出削減について、メディケア(高齢者等医療保険)や農業補助金等の義務的経費や、国防費を中心とする裁量的経費を対象とした。同時に、OBRA90では、予算執行法(BEA)として、裁量的経費の上限を定めるキャップ原則と、新たな支出や減税には財源の確保を義務付けるpay-as-you-go原則を導入した。

 ブッシュ政権の次のクリントン政権も、こうした取り組みを強化し、財政ルールの適用期限を98年度まで延長するOBRA93を導入し、国防費や社会保障関係費の削減、所得税の最高税率の引き上げ(39.6%)を行った。【2】こうした努力により、米国の財政は1998年度に黒字に転換した。

 米国では90年代に景気拡大が続いたが、税率引き上げなどの増税をしたからこそ、税収が増えたのだ。

 2012年12月に誕生した第2次安倍政権では、経済が上向き、税収も増えているが、歳出も増えている。図2は、一般会計当初予算の推移を示している。2012年度から2018年度の間に、税収総額は16.7兆円増えたが、国債発行額は10.6兆円減っただけだった。

 また、図3は、一般会計予算の補正追加額の推移を示している。2013・14・15・18年度は、税収が1兆~2兆円増えたものの、国債発行額の減少幅は、5000千億円から1兆円であり、18年度は国債発行額が1.7兆円も増えている。

 プライマリーバランスを均衡させるという財政再建目標の達成期限は従来の2020年度から2025年度に延期されている。税収が増えたものの、財政再建目標を達成できなかったのは、成長だけでは財政再建できないことの証左だろう。【3】

 

問2 日本の財政赤字は先進諸国で最悪といいます。財政赤字の原因は何ですか。それは政治家の責任ですか、それとも官僚の責任ですか。

 

 財政赤字の原因については、専門家が様々な分析を行っているが、大きく分けると、政治家等のプレーヤーの行動に関するモデルと政治や予算等の制度に関するモデルが提唱されている。前者の例としては、「財政錯覚」がある。【4】

 選挙になると、政治家は、国民に対してバラマキを連呼する。有権者は、税負担がなく、そうしたバラマキの恩恵を受けられる、言い換えれば、バラマキを「フリーランチ」と「錯覚」するのだ。これは、日本にも該当する現象だろう。

 後者の例としては、共有資源問題がある。政府部門においては、特定の公共政策から恩恵を受ける人がその政策コストを負担するわけではない。彼らは全費用の一部しか負担しない。そうした状況のもとでは、政治家や官僚は、できるだけ支出を増やそうとするわけである。また、近年では、予算編成過程や予算制度に財政赤字の原因を求める理論や実証分析も発展している。各国の財政赤字の相違は経済状態だけでは説明できず、意思決定が集権化されているか、予算の透明性が高いか、前述のように規律ある財政ルールが備わっているかによって説明できるとする。

 筆者自身、諸外国の予算制度を研究しており、財政再建における予算制度の重要性を提唱している。政府部門には、歳出と歳入を一致させるメカニズムが働かず、利己的な政治家・官僚の合理的な行動の結果、財政赤字が拡大する。歳出と歳入を一致させるメカニズムが働かない状況のもとで、財政赤字の拡大を抑制するためには、予算制度・予算編成過程を戦略的に見直し、プレーヤーのインセンティブを変えることが不可欠だからである。

 具体的には、第1に意思決定を集権化すべきである。英国では、財務大臣が3人いる。一人目の財務大臣は首相であり、二人目は一般的な意味での財務大臣、三人目は予算担当大臣(財務省副大臣に相当するが、閣議にも出席できる)であり、各省の予算要求に対して、3人の財務大臣と議論しなければならない。ドイツでは、予算を決める閣議において財務大臣の拒否権が認められている。

 日本の財務大臣は、過去には強い権限があったかもしれないが、現在では必ずしもそうとは言えない。例えば、第2次以降の安倍政権では、消費増税が2度延期されたが、麻生副総理兼財務相には十分な相談がなかった。【5】 もしも、日本の財務相が強い権限をもっていたら、現在のような財政赤字や債務残高にはならなかったはずである。

 第2に、予算や財政の透明性を高めるべきである。これについても、日本は問題がある。表1は、主要先進諸国において、予算や財政にかかわる情報が、政府が国会に提出する文書に含まれているかを比較分析したものである。ここでは20の情報を取り上げて比較しており、もし、全ての情報が政府文書に掲載されていれば、満点の20点になる。日本は、欧米諸国と比べて、明らかに透明性が低い。

 例えば、近年、諸外国で導入が進んでいるのが、独立財政機関である。どこの国でも経済や財政の見通しは楽観的になりやすい。高い経済成長率を前提にすれば、税収が増え、使える予算も増える。統計的な分析で、楽観的な成長率を前提とする国ほど、財政赤字が大きいことがわかっている。

 そこで、経済見通しについては政治的な影響力を極力排除するため、会計検査院のような高い独立性を有する機関を設置し、専門家が作成した経済見通しを予算編成で使うようにするのである。

 筆者の試算によれば、日本政府の経済見通しは、例えば、政府見通しが3%であれば、実際は2%になるように、平均1%ポイント楽観的になっている。第2次安倍政権においては、名目3%、実質2%を前提としており、極めて楽観的である。経済協力開発機構(OECD)は日本に対して独立財政機関の設置を提言しており、その設置が急がれる。

 

問3 ギリシャなど財政破綻した国と異なり、日本には巨額の貯蓄があります。海外から借金する必要はないので、心配はいらないのでは。

 

 財政収支と経常収支の関係は重要である。一言で言えば、国内の投資貯蓄差額は経常収支と一致する。

 国内の投資貯蓄差額は、家計部門、企業部門、政府部門のそれぞれの差額に分解できる。内閣府「平成29年度国民経済計算年次推計」をみると、家計部門(民間非営利団体を含む)は対GDP比2.2%の黒字、企業部門は4.8%の黒字、政府部門は2.7%の赤字であり、海外部門は4.1%の赤字である。つまり、国内の貯蓄超過が経常収支の黒字になっているのだ。

 さて、経済危機に陥った国の2つの収支を見てみよう。図4は、リーマンショック直後の2009年における、2つの収支の関係を示したものである。円の大きさは、債務残高の対GDP比を示している。これを見ると、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン(頭文字をとって、PIGSと呼ばれた)は、財政収支と経常収支が赤字で、さらに債務残高も他国に比べて大きい。つまり、国内の貯蓄不足を海外からの投資で賄っているのである。

 経済危機に陥った国は、2つの赤字を抱えていた。ただし、2つの赤字を抱えているからといって危機になるとは限らない。アメリカがその代表例である。経常収支の赤字は、直ちに危機を意味するわけではない。

 さて、現在の日本は貯蓄超過だとしても、将来も貯蓄超過を持続できるとは言えない。日本は急速に高齢化しており、一般に高齢化に伴い貯蓄は減少、あるいは伸びが鈍化すると見込まれるからである。大和総研「超高齢日本の30年展望」(2018年5月改訂)によれば、2025年度にグロスの政府債務がネットの家計金融資産を上回り、2039年度にネットの政府債務がネットの家計金融資産を上回るという。

 政府部門の赤字を国内貯蓄でファイナスできなくなり、経常収支が赤字になったとしても、直ちに危機になるわけではない。海外の投資家が、日本の成長を期待して、投資するかである。あるいは、低金利で資金を日本に貸してくれるかである。

 政府部門の赤字は、企業や家計とは性質が異なる。将来の投資につながるものであれば、赤字も許容され経済成長に寄与する。しかし、現実には予算を通じた資源配分は非効率になりがちだ。無駄な公共投資やバラマキ施策は需要の先食いに過ぎず、むしろ経済全体の効率性を低下させるのだ。

 英国の歴史学者でハーバード大学教授のニーアル・ファーガソンは、その著書『劣化国家』(2013年、東洋経済新報社)において、「いちばん目につく不調は、ここ数十年で雪だるま式に膨れ上がった、巨額の債務だ。(中略)問題の核心は、公的債務というしくみのおかげで、現世代の有権者が、投票権を持たない若者やまだ生まれていない人たちのお金を使って生きていけることにある。(中略)わたしがここでいたいのは、世代間の社会契約をいかに回復するかが、成熟した民主主義社会が取り組まねばならない最大の課題だということだ」と述べ、現行の無責任なやり方を続ければ、ある時点で、ギリシャのように財政の死のスパイラルに陥ると指摘する。

 さらに、現在の日本や米国のように「債務は増大し続けるが、デフレ懸念と中央銀行による国債買入、そして安全資産への逃避により、政府の借入コストは歴史的水準にとどまり、数十年にわたるゼロ成長が帰結となる。」と言う。日本が直ぐに危機に陥るとは考えにくいが、ゆでガエル状態が続くのである。

 

 たなか・ひであき 1960年、東京都生まれ。東工大院修了、旧大蔵省(現財務省)へ入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官を経て、明治大学公共政策大学院教授。政策研究大学院大博士。

 

 

 

 

 

 

(写真:AFP/アフロ)

 

【1】詳細は拙著『日本の財政』(中公新書)を参照されたい。

【2】内閣府『世界経済の潮流』(2004)より適宜抜粋。

【3】経済財政諮問会議(2018年3月)が公表した経済・財政一体改革推進委員会「経済・財政一体改革の中間評価のポイント」においても、2018年度のプライマリーバランスが、2015年7月試算の△1.7%から2018年1月試算の△2.9%に悪化した理由として、補正予算、成長率低下に伴う税収低下、消費増税延期の影響を挙げている。

【4】ブキャナン・ワーグナー『赤字財政の政治経済学』(文真堂)を参照されたい。

【5】詳細は拙著『官僚たちの冬』(小学館新書)を参照されたい。