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深尾光洋の金融経済を読み解く

2009年4月1日 マイナス金利政策を検討せよ

 世界的な金融危機の影響を受けて日本経済は急激に冷え込んでおり、不況が長引く場合には、日本経済が危機的な状況に陥る可能性もある。

 金融政策面からは、日銀は量的緩和や企業債務の直接買い入れを行うことで、現状以上の景気下支えがある程度可能であるが、効果は限定的である。巨額の赤字を抱える財政にも景気を支える余力はあまり残っていない。為替相場の円安誘導についても、海外からは近隣窮乏化政策として強い非難を浴びる可能性が高く、採用は無理であろう。

 それでは、全く打つ手はないのか。金利をマイナスにできれば、景気を刺激できるはずだ。しかし単に日銀がマイナス金利で銀行や企業にお金を貸し出しても、効果はあまりない。これは現金という、ゼロ金利のきわめて安全な資産が大量にあるからだ。日銀からマイナス2%でお金を借りられるのであれば、銀行は借りられるだけ借金をして現金で積んで置くだけで、努力無しに2%の利ざやが確実に得られる。

 しかし課税をうまく使うことで、実質的に金利をマイナスにすることは可能であり、以下では「マイナス金利政策」と呼ぶ。

金融資産課税によるマイナス金利

 マイナス金利を実現するためには、政府が価値を保証している金融資産に対して、デフレによる実質価値上昇分を課税すればよい。たとえば、10年4月1日時点で、国債、預金、現金などに対して、2%の税率で課税するのだ。同じ金額の現金を持っていても、デフレにより購入できる財やサービスの量が増加するので、その増加分を担税力と見なして課税するのだ。政府は将来デフレが続く限り、たとえば2年ごとにデフレ幅に見合った課税をすると宣言する必要がある。

 課税対象は日本政府が直接、間接に元本を保証する円建ての金融資産であり、国債、地方債、預金、現金などである。現金は、色を変えるなどして新券を印刷し、旧券と交換するとき手数料を取ればよい。現在流通している大量の銀行券を短期間で入れ替えるにはコストも高く時間もかかるため、新券として10万円札と5万円札を導入することで、銀行券の物量を減量してはどうか。銀行券製造費、鑑査費用、運搬費用、金庫スペースなどを考慮すると、高額券を導入することは、日銀の業務の合理化とコスト削減にも有用だ。コインに対する課税は、手間がかかるため課税から除外するのが合理的だろう。その場合には比較的高額の500円コインが課税逃れのために退蔵される可能性があるが、税率が低ければ退蔵は限定的だと考えられる。

 このようなマイナス金利政策を国レベルで実施したことは例がないため、政治的にも実現には大きな困難が伴う。しかし大恐慌以来の厳しい不況が現実のものとなる場合には、いわばデフレ退治の劇薬であるマイナス金利政策が必要になるだろう。

 マイナス金利政策を実施すれば、課税対象の安全資産から、株式、社債、外貨預金、耐久消費財、不動産などのリスクを伴う資産へと資金がシフトし、円安、株高を招いて景気は刺激される。政府が「デフレが続く限り繰り返し課税を行う」と明確に発表すれば、将来予想される安全資産の利回りがマイナスになるため、日銀が市場金利をマイナスにするのと同等の効果が期待される。たとえば、デフレが年率1%であれば、名目金利をマイナス1%に誘導するのに近い消費や投資を拡大する景気刺激効果をもつと考えられる。

 マイナス金利政策は、銀行による貸し出しや企業間信用の拡大を刺激する効果もある。銀行は課税される日銀当座預金の保有を減らして貸し出しを増加するだろう。また企業は売掛金を回収して預金で保有すると課税されるため、売掛金の回収を先延ばしするので、企業間信用の拡大による金融緩和効果も期待できる。

 予想される税収は、税率2%で約30兆円と巨額である。この税金は、安全資産を保有する金融機関や法人、個人に対して課される。個人資産の保有高は、一般に所得分配よりも不平等度が高いため、所得税以上に累進的な課税になる。しかし老後の資金として多額の貯蓄を持つ退職した高齢者にも重い負担になるという問題点がある。また多額の国債を保有する銀行や保険会社にも大きな負担となる。このため、税収の相当部分を、マイナス金利政策に伴う副作用の除去に用いる必要がある。

政策の副作用を除去

 小額の財産に課税される個人に対する対策としては、預金や国債の保有額が500万円以下の国民には税負担がなくなるように、合法的に日本に居住する人全てに10万円の給付金を支給してはどうか。この場合に必要な財政支出は13兆円程度である。なお金額が大きいため支給漏れや二重払いは大きな問題になる。そこで納税者番号を導入して銀行口座の登録を義務づけてはどうか。高齢者に対しては、基礎年金を一時的に上乗せして給付することが考えられる。

 実績配当の投資信託については、特別な措置は必要ない。しかし銀行、生命保険会社については、保有国債に対する残高課税は非常に大きな負担になる。こうした金融機関に対しては、預金保険料や保険契約者保護機構への拠出金を割り引くとともに、割引額相当分を資産課税による税収から預金保険機構などに払い込んではどうか。しかし金融機関に対して貸し出し増加を促すためには、課税を帳消しにするような割引措置を導入してはならない。
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(日本経済研究センター理事長)

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