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深尾光洋の金融経済を読み解く

2014年6月25日 改訂国際収支統計の見方

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日本経済研究センター参与 深尾光洋
 国際収支統計は、国民経済計算と並ぶ非常に重要な経済統計であるが、数字の解釈が分かりにくいことでも定評がある。今年初めから、国際収支表が全面改定され、数字の符号まで変化したため、混乱した方も多いと思われる。例えば、従来流出超でマイナスであった直接投資収支が、今年に入ってプラスに表示されており、分析においても注意が必要になっている。本稿では、今回改訂された国際収支表の見方について簡単に解説したい(注1)。

(注1:詳しくは日本銀行国際局、『国際収支関連統計の見直しについて』、2013年10月を参照されたい。)

統計の基本的な考え方

 国際収支統計で把握される取引の範囲や考え方は変化していない。日本に生活の本拠がある自然人と法人(いずれも国籍を問わない)の日本国内の事務所を「居住者」とし、それ以外の「非居住者」との間の取引を複式簿記の原則で記録したものが国際収支表である。基本的に、一定の期間における所有権の移転が発生する取引(フロー)が記録される。このため、日本に住む日本人や日本企業だけでなく日本で働いている外国人労働者や外国法人の日本支社は「居住者」となる。逆に、日本法人の海外支店は「非居住者」となる。例外は大使館と駐留軍であり、日本政府の在外公館は居住者となり、外国政府の在日公館や日本に駐留する米軍は非居住者となる。日本に来ている外国人観光客は、一般に日本に生活の本拠がないため、居住者にはならない。逆に、外国に観光旅行に行っている日本人は日本の居住者になる。

 居住者と非居住者の間の多様な取引を項目に分割して、項目ごとの合計を表示したのが国際収支表になる(図表1参照)。考え方としては、全ての取引を財・サービスの売買である経常取引と、金融資産の売買である金融取引に分割し、次の符号で記録される。


経常収支 = 財サービスの輸出 − 財サービスの輸入          (1)
金融収支 = 資産の増加 − 負債(株式を含む)の増加         (2)

後に述べる資本移転収支と誤差脱漏を除けば、次の恒等式が成立する。

経常収支 − 金融収支 = 0                     (3)

(3)式が成立する理由は、例えば日本企業が輸出してドル代金を受け取ると、輸出が経常収支の黒字と記録され、ドル代金受領による金融資産の増加が同額の金融収支の黒字となるため、符号を考慮した合計はゼロとなるからである。



 なお従来の国際収支表では、現在の金融収支に対応する取引を「資本収支」と「外貨準備増減」に分割し、資産の増加をマイナス、負債の増加をプラスで記録していた。このため、次の式が成立していた。

経常収支+資本収支+外貨準備増減(増加がマイナス)+誤差脱漏 = 0   (4)

 今回の変更により、従来の資本収支と外貨準備増減の符号が、新しい金融収支の符号と逆になっている。例えば、日本企業が外国企業を買収する直接投資の場合には、従来は資本収支にマイナスで記録され資本収支の赤字要因となっていた。しかし新しい統計では、金融収支にプラスで記録される。また新しい金融収支は、外貨準備増減と資本収支を合計した上で符号が逆になり、外貨準備の増加は金融収支の黒字要因となる。しかし金融収支全体にマイナス1を掛けて経常収支と合計されるので、新統計は従来の統計と整合的になっている。

第二次所得収支と資本移転収支

 普通の経済取引は、対価を伴う財・サービスや金融資産の売買であるため、基本的に資金決済と財・サービス、金融資産の受け渡しが同額で対応し、国際収支表の記録は合計がゼロとなる。しかし、日本政府から外国政府に対する食料品などの無償援助や、外国から日本に働きに来ている労働者(居住者)から外国に住んでいるその家族(非居住者)への生活費の送金などは、対価を伴わないため、収支の合計がゼロにならない。これを避けるために、対価を伴わない無償取引に見合う金額を、その性質に応じて第二次所得収支と資本移転等収支に分けて記録している。

 なお従来の国際収支統計では、資本移転は資本収支の内訳項目であったが、新しい統計では、金融収支と並ぶ別項目として表示されるようになった。

例1:日本政府が外国政府に無償で医薬品を輸出する場合は、貿易収支の黒字に記録するともに、第二次所得収支に同額を赤字として計上する。この合計はゼロとなる。

例2:外国人労働者による海外送金の場合は、送金の資金決済に伴う対外資産の減少が金融収支の赤字として記録されると同時に、第二次所得収支に同額を赤字として記録する。金融収支にマイナス1が掛けられて第二次所得収支と合計されるため、合計額はゼロとなる。

例3:日本政府が途上国向け円借款を債務免除する場合には、債務免除に伴う対外資産の減少が金融収支の赤字として記録されると同時に、資本移転等収支が同額の赤字として計上される。この場合も、金融収支の赤字にマイナス1が掛けられて資本移転等収支と合計されるため、合計額はゼロとなる。

 さらに誤差脱漏の値は、次の式の合計がゼロになるように決められる。
経常収支 + 資本移転等収支 − 金融収支 + 誤差脱漏 = 0    (5)

 最後に、過去数年間の国際収支を、新しい表示形式で示しておきたい。


(2014年6月25日)


(日本経済研究センター参与)

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