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深尾光洋の金融経済を読み解く

2014年7月25日 日銀は準備預金への付利を廃止せよ

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日本経済研究センター参与 深尾光洋
補完当座預金制度

 昨年春の黒田日銀総裁就任に伴う金融緩和の強化において、筆者が採用される可能性があると予想していた項目の一つが実施されなかった。それは、金融機関が日銀に保有している当座預金に対する付利の廃止である。

 日銀への当座預金は、2008年10月までは、無利子であった。しかし、補完当座預金制度が08年10月に導入されたことにより、法定準備預金額を超える準備預金の保有(いわゆる超過準備額)に対して、日銀が利息を払うことになった。当初この制度は、08年11月16日から09年4月15日までの臨時の措置であったが、その後延長され、現在でも実施中である。この金利は制度導入の当初、日銀が誘導目標とする翌日物無担保コール金利から0.2%差し引いた水準と規定されていたが、08年12月に誘導目標が0.1%まで引き下げられたため、支払い金利も0.1%と同じ水準に設定されることになった。日銀は銀行などの準備預金制度の対象となっている金融機関(以下では「銀行等」と呼ぶ)が日銀に保有している当座預金のうちの法定準備預金額を超える部分に対して、この制度により年利0.1%の利息を支払っている。

 銀行等は日銀当座預金の毎月の平均残高(毎月16日から翌月15日)が法定準備預金額を下回ると「過怠金」と呼ばれる罰則金利を払う必要があるので、法定準備預金額は最低限、積んでおく必要がある。これに対して超過準備額は、銀行等にとって、デフォルトリスクがない安全な資金運用手段である。この預金はいつでも現金で引き出すことができ、また運用する場合も、日銀ネット経由で極めて容易に支払いに充当できる。このため、銀行等は日銀に当座預金を積んでおくだけで、運用努力なしに0.1%の金利を得ることが可能だ。このような運用手段があるために、金融機関が相互に資金を貸借する短期金融市場の金利は、0.1%以下には下がりにくくなっている。

日銀収益の改善にも寄与

 筆者は、短期市場金利の誘導目標を0.3%以上に引き上げる必要が生ずるまでの期間は、補完当座預金制度の付利を廃止してゼロ%にした方が良いと判断している。なぜなら、(1)この金利をゼロにすることにより、短期金融市場取引を活性化し、同時に市場金利をさらに低下させることが可能になること、(2)日銀が得る通貨発行益を増加させることで、日銀納付金を増加させて、財政赤字を多少なりとも軽減できること、(3)銀行が貸し出しを拡大するインセンティブを多少なりとも強化できること、が挙げられる。

 まず(1)についてみると、現状では、金融機関は日銀に当座預金を積んでおくだけで0.1%の金利を得ることが可能だ。他方、日銀が共通担保を使って行う資金供給金利も0.1%になっており、その間のギャップがゼロになっている。これは、短期金融市場における取引を縮小させる大きな原因となっている。金融機関に余資がある場合は、短期金融市場経由で運用するよりも、日銀に当座預金として預けておけば、短期市場金利と同等の金利をリスクなしで得られるため、市場を使うインセンティブが生じにくい。現在の制度の下では、準備預金制度の対象になっていない証券会社などは、日銀当座預金に資金を置いても利息が得られないため、銀行等にコールローンを出して、銀行に日銀に預金してもらうことで間接的に運用を行っている。これが、コール市場金利が0.1%をやや下回る水準で推移する原因となっているが、日銀が銀行等に対する付利を止めることで、市場金利は0%と0.1%の間を自由に変動するようになり、銀行間の資金取引が再活性化することが予想される。

(2)については、日銀の利払い費がなくなることで、日銀の通貨発行益は大幅に増加する。今年5月の準備預金の積み期間である5月16日から6月15日までの平均残高で見ると、制度で強制される所要準備額8.3兆円には付利されないが、それを超える122兆円には0.1%の金利が払われており、日銀の利払い費用は年間1220億円にも上る。今後、日銀がさらに量的緩和を続けていくことを見込めば、来年度の日銀収益の増加は2000億円を超えるだろう。これは日銀の年間経費に匹敵する金額で非常に大きい。

(3)については、金融市場金利の低下は、金融機関等の貸出を拡大させる効果がある。また、株価や為替相場に対してもある程度のプラスの効果が見込めるだろう。

(2014年7月25日)


(日本経済研究センター参与)

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