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第1回 混迷するギリシャ情勢、年末に向けた展開―各国財政の統合に結びつく政策示せるかが焦点(11年11月7日)

当面のギリシャ政局の鍵はベニゼロス財務相

 欧州情勢の混乱が続いている。特に11月に入り、ギリシャ国内政局の混乱が深刻化し、懸念材料として浮上している。現在に至る直接の背景は、10月末、パパンドレウ首相が、財政緊縮策を問うため、国民投票を実施すると発表したことにある。

 ギリシャ政府は、10月27日に決定されたEUによる包括救済策を受け、一段の財政支出削減を迫られる一方、市民の間では緊縮政策への不満が高まり、デモや抗議行動が頻発した。パパンドレウは板挟みになった状態から事態の打開を図るため、国民の信を問うという思い切った行動に出たといえる。さらに当初、投票の実施は来年1月と発表されたが、その後、12月4・5日に前倒しされ、事態が一層緊迫化した。

 その後、与野党間の調整が行われ、結果的に国民投票は回避された。ギリシャ議会では、僅差でパパンドレウ首相に対する信任投票が可決された。

 さらに11月6日、パパンドレウ首相が最大野党・新民主主義党との連立に合意し、自らは辞任することが明らかになった。後任の首相にはパパデモス前ECB副総裁の名前が挙がっている。

 当面のギリシャ政局の鍵を握るのは、現政権のベニゼロス財務相だろう。同氏は本来、パパンドレウ首相とは対立する立場にある実力者だが、国民の間で人気が高く、今年前半、財政緊縮計画をめぐり議会が混乱した際に、首相の要請により入閣したという経緯がある。

 一方、連立政権の具体的な体制が固まらず政治的な空白状態が生じ、EU等との交渉が途絶えたまま、年末にかけ同国国債の大量償還を迎えた場合には、欧州全体の危機的な状況は更に悪化することにならざるを得ないだろう。

EU包括救済策の効果は短期的にとどまる

 それでは、以上のようなギリシャの状況に対し、EU等による救済措置はどのように進められてきただろうか。

 先ず、10月26日に発表されたEUによる「包括戦略」の危機対応への効果は、限定的にとどまると考えられる。この決定は、EFSF(欧州金融安定化ファシリティー)の機能拡充、ギリシャ債務の50%削減、欧州銀行の自己資本比率を2012年6月までに9%まで引き上げること、の三点を骨子としている。

 この時期、ギリシャを中心とした欧州各国の債務への懸念が、各国債を多く保有する欧州の金融機関への影響への懸念につながり、債務危機から金融危機に変化しつつあった。そのためEUの包括戦略は、金融市場の環境が一段と悪化することを目的とした、短期的かつ緊急的な合意にならざるを得なかった。

 今後については、先ずギリシャの取り扱いが問題となるだろう。

 ギリシャ債務が50%まで削減された一方、既に述べたようにギリシャ国内の政治的・社会的な混乱が続く現状では、ギリシャは債務不履行(デフォルト)への道を歩まざるを得ないだろう。既に金融市場では、ギリシャがデフォルトになる事態を既に織り込んでおり、デフォルトが生じた場合、金融市場への悪影響を最小限に食い止めるかという点に問題の焦点が移っていると考えられる。

 しかし、現状、ギリシャの「ユーロ離脱シナリオ」は非現実的である。

この場合、独自の通貨ドラクマが市場の信認を得ることができず投機により急落し、ギリシャ国内ではインフレが進む展開も想定される。その一方で、国際的な競争力を持つ有力な企業・産業が存在しない現状では通貨安が輸出の増加につながる見通しも立たない。 この点、ギリシャ国民の本音は、「痛みを伴う財政支出の削減には反対だが、ユーロ圏から離脱するのも嫌だ」ということにある。過去のリーマンショックなどの教訓から、欧州の小国であるギリシャが、EUないしユーロ圏内にとどまることの意義を認識していると言える。以上のように考えると、ギリシャはユーロ圏内にとどまり、引き続きEU主導の救済支援に拠らざるを得ないだろう。

 次の緊急の課題として、ギリシャから他国への波及を如何に防止するかという点が問題になる。当面危惧されているのは経済規模の大きいイタリアであり、EU内外から財政赤字削減策の拡充などの追加的な政策が要求されている。しかし、今年半ば頃までは、同規模の経済を持つスペインに対する市場の懸念が高まっていた。その後、イタリアに対する市場の懸念が高まっている背景には、ベルルスコーニ首相の政治的な指導力と資質が問題とされている面も大きいのではないか。

 今回の10月の包括案発表により、緊急的な対応のみでは、金融市場の反応は好転しないことが明らかになった。悪化した現状への対応は必要だが、今後年末にかけては、ユーロ共同債など、各国財政政策の統合に結びつくような中長期的な対策への具体的な道筋を示せるかどうかが焦点になる。特に、本来救済策の拡充に反発を見せているドイツが、欧州情勢の深刻化を受け、柔軟な姿勢をみせるかどうかという点が注目される。

ECB利下げの「アナウンスメント効果」

 最後に、欧州中銀(ECB)の政策動向について言及したい。11月5日、ECBは政策金利を0.25%引下げ1.25%とした。インフレ抑制を重視するECBがこのタイミングで利下げを実施したことについては、やや意外感があった。

 しかしこの点は、11月1日に就任したドラギECB新総裁が、政治的圧力により政策姿勢を転換したためでなく、欧州の現状の深刻さに危機感を示すというアナウンスメント効果を持っていると考えるべきではないか。

今後もユーロ圏内で危機的な状況が続き、ECBが緩和的な姿勢を持続する可能性は高いと思われる。この点は、金融市場ではユーロ安圧力になり得る。しかし、現状米国の金融政策が緩和姿勢を持続しており、ユーロの対ドルレートの下落余地は限定的となるため、ユーロ安がユーロ圏企業の輸出増加にはつながりにくいのではないか。

※(参考)深尾光洋「欧州ソブリン危機の背景と現状」(10月28日、日本経済研究センター講演資料)

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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)


(特任研究員 林秀毅)


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