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第2回 EU首脳会議後、年末に向けた展開―財政規律強化だけでは、市場の不安定化再燃へ(11年12月7日)

ドル資金供給による「一時的な安定感」

 欧州情勢の混迷が、政治・経済の両面で続いている。

 11月、ギリシャではパパンドレウ前首相が辞任し、暫定の連立政権が発足した。一方、イタリアでは、ベルルスコーニ首相が辞任を余儀なくされ、モンティ新政権が誕生したが、挙国一致の大連立を組むには至らなかった。

 この間、欧州の国債市場は全体として一段と不安定化した。特にイタリアへの懸念が焦点となり、同国債の利回りは、7%を超える水準まで上昇した。

 その後混乱は、イタリアから、ユーロ圏の中軸であるフランス・ドイツ両国まで波及した。

 フランス国債が格下げを巡る報道をきっかけに売られ、下旬にはドイツ国債の札割れが発生するという事態が生じた。

 以上の事態を受け、月末には日米欧の主要6中銀によるドル資金供給が実施されることになった。

 「欧州の財政危機から世界的な金融危機へ」という事態の深刻化を食い止めるため、緊急措置が発動されたと言える。

 その後、金融市場は一旦落ち着きを取り戻したかに見える。しかし、混乱の原因である欧州債務問題に対する根本的な打開策が示されない限り、市場は再び不安定化せざるを得ないだろう。

EU首脳会議とECB理事会の注目点

 それでは、今後、欧州ではどのような対策が打ち出されるだろうか。

 12月8日・9日には、EU首脳会議が開催される。

 EU首脳会議を巡っては、過去にもたびたび、各国間の意見が対立し、紛糾する場面があった。しかし最終的には各国がEU内で協調し、結論の着地点に至るという展開となっていた。

 先月、欧州債券市場で混乱が深まり、フランス・ドイツ両国にまで及んだ局面では、欧州各国の危機感が強まった。そのため、ドイツを含む各国が事態の打開に向け柔軟な姿勢に転じ、抜本的な解決を図る展開も想定できた。

 しかしその後、月末に実施されたドル資金供給により市場が持ち直し、危機感がやや和らいだ。

 これを受け、ドイツが、各国に一段の財政規律を最優先課題として求める姿勢を強めている。

 EU首脳会議前には通常、議論の方向付けのため行ったドイツ・フランスの首脳会議が行われる。従来、両国の意見が食い違うこともたびたびあったが、今回は、財政規律の強化を主張するメルケル首相に、サルコジ大統領が同調する姿勢を示している。

 一方、11月時点のEU委員会案では、ユーロ共同債の検討が盛り込まれていた。EU委員会は、EU首脳会議の議論に向けた議論の叩き台を提供する、いわば事務局としての役割を担っている。今回もEU委員会は、各国債とユーロ共同債を併存させる案など、複数の選択肢を準備した。

 しかしドイツが、債務を抱える国の財政規律の緩みにつながる点を嫌い、今回は議論が見送られる可能性が高まっている。

 以上のように、各国の財政規律を高める方策が決定されるのみで、ユーロ共同債など抜本的な債務救済策が議論されなかった場合には、再び市場の不安定化につながりやすい点には、注意が必要ではないか。市場の期待は、財政規律と債務を抱える国に対する救済策が同時に議論されることにあると考えられるためである。

 2013年半ばに「欧州版IMF」として設立予定である欧州安定メカニズム(ESM)の設立前倒しや、各国間の資金の融通を行うセーフティーネットについて決定されても、政策の即効性という観点から、当面の効果は限定的と理解されるのではないか。

 さらに、財政規律を高めるため条約改正を行う方向で議論が進んでいる点も、今後の火種となりかねない。財政政策のような国家主権の制約に関わる問題について、EU内では小国による反発を招きやすい面がある。

 以上のように、EUで債務を抱える国に対する救済策が議論されず、市場の混迷が深まった場合、結果として欧州中央銀行(ECB)の政策に対する負担が一段と高まることにならざるを得ないだろう。

 今月8日に開催されるECB理事会では、政策金利を現状の1.25%から0.25%引き下げる可能性が高い。

 市場の期待は、これに加え無制限の国債買取りを示唆するような決定あるいは発言があるかどうかということだろう。

 この点についても、ドイツなどからECBの役割は市場に対する流動性供給にとどめるべきであるという反発は強い。

 しかし、ECBについては政策決定に関し独立性が尊重されており、より柔軟な意思決定をする可能性は高いと考えられる。ギリシャ国債の処理が、欧州の金融機関の収益に与える懸念が高まり、来年半ばに向け自己資本比率を9%まで高めることが求められている現状からすれば、市場安定化に対するECBの危機意識は高いと言うべきだろう。

イタリア・ギリシャ情勢が再び焦点に

 EU首脳会議後、年末にかけては、再び欧州各国の政治・財政状態への懸念が高まる可能性があるだろう。

 今月5日には、格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、ドイツ・フランスを含むユーロ圏15ヵ国の国債格付けを引き下げの方向で見直すと発表した。

 この点は、欧州金融安定基金(EFSF)についてだけでなく、各国個別の資金調達についても、直接悪影響を及ぼす可能性がある。

 現状、財政赤字削減策が軌道に乗っているのはアイルランドなどに限られている。

 特に、冒頭述べたような現状からすれば、イタリアが最大の注目点となるだろう。

 従来、前首相の指導者としての政策遂行能力が問われたことが、イタリアの債務に対する懸念を高めてきた。

 この点、モンティ新首相は研究者出身であり、公正な人柄に対する評価は高い。従来、EU内でも要職を務めており、ドイツ・フランスなど主要国との関係が一段と緊密になる可能性が高い。

 一方、政治家出身でなく、国内政治基盤が弱いため財政再建策の実効性が問われやすい面には留意が必要だろう。

 最後に、ギリシャについて、パパデモス新首相が、国民の強い反発を抑え財政赤字削減を実現できるかどうかが問われることになる。

 パパデモス氏は、ECB副総裁時代は発言の少なさで知られており、国内外に対する説明責任が問われる可能性がある。

 今後、年末にかけ欧州市場が不安定化した場合には、ギリシャ国債の償還への懸念が再燃する局面もあり得るだろう。

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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)


(特任研究員 林秀毅)


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