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第3回 2012年、欧州危機をめぐる3つのポイント(12年1月5日)

現状は「小康状態」にすぎない

 年末年始、欧州情勢は一旦落ち着いたように見える。しかし実際には、クリスマス休暇に入り、EU・ECBなどの当局者と市場関係者が共に、目立った動きを示さなかったにすぎない。

 注目された年末のイタリア国債の入札は一応波乱なく終了したものの、同国債の利回りは現在も7%前後で推移している。

 このような現状から、2012年の冒頭、欧州危機の行方を考える上でポイントとなる点を、以下通り3点に分けて述べることにしたい。

ポイント@:財政危機と金融危機の悪循環は止まるか

 昨年後半、欧州ではギリシャ・イタリアを中心とした財政への懸念が一段と深まり、欧州の国債市場、ひいては株式・為替市場の不安定化につながった。

 さらに問題国の国債を多額に保有する欧州の銀行に対し、国有化ないし公的資金の注入が行われ、欧州各国政府の財政支出が増加することになるという見方につながった。

 このような財政危機と金融危機の悪循環を払しょくするため、12月8日・9日に開催されたEU首脳会議では、各国の財政規律を強化する方策が決定された。同時に、2012年半ばにかけ、銀行の自己資本比率を9%まで高め、恒久的なセーフティーネットとして欧州安定メカニズム(ESM)を1年間前倒しすることなどが決定された。しかしその後に市場の反応を見ても、以上の方策は、財政危機と金融危機の悪循環を止めるには力不足といわざるを得ない。

 年明け以降、EUレベルでみた次のイベントは1月30日に開催されるEU首脳会議である。

 1-3月期に欧州では国債などの大量償還が予想され、2月に予定されるギリシャの総選挙が予定通り実施されるか、あるいは延期されるかといった政治の波乱要因も想定される。

 現在はドイツ・フランスを中心に各国首脳間で協議が行われている。しかし、ドイツがユーロ共同債に否定的な建前を崩していない以上、協議の内容が、昨年12月のEU首脳会議の内容を具体化する議論にとどまる可能性が高いのではないか。

 また、ユーロのような単一の通貨圏では、競争力の強い国の産業ないし企業により地域内の分業が進みやすいといえる。そのため、「強い国はより強く、弱い国はより弱くなる」というメカニズムが働き、対GDP比などでみた経常収支の格差拡大につながる。

 現状のように金融市場が不安定で資金フローが円滑でない場合、経常収支の赤字国に対する資金のファイナンスが深刻な問題となりやすい面(※)には注意が必要だろう。

 ※この点に関し、岩田一政の万理一空「ユーロ圏の決済不均衡問題―解消が明示されない限り、ユーロ共同債導入は困難」(12月27日)参照。

ポイントA:ECBとドイツの「対立の構図」は続くか

 それでは、今後どのような形で危機への対処が行われることになるだろうか。

 現状、欧州金融安定化ファシリティー(EFSF)の役割が資金調達面の制約などから限定的とならざるを得ない以上、少なくとも今年7月のESM設立までは、今後もECBを中心に危機対応を行わざるを得ないのではないか。

 昨年12月8日に開催されたECB政策理事会では、政策金利は1.25%から0.25%引き下げられた。一方、市場が期待する無制限の国債買い取りは決定されず、資金供給策の期間が13カ月から3年間に延長された。

 この背景として、EU首脳会議と日程が重なったため、ECBが慎重になった可能性がある。

 その後、12月19日にドラギECB総裁がEU議会で行った証言は、欧州のクリスマス休暇に入る直前に、ECBの基本姿勢を語ったものとして重要だ。

 この証言は、欧州国債の買い入れに慎重な姿勢を示した内容と理解された。しかし2012年第1四半期に国債などの大量償還を控え、金融市場の不透明性が高まっているとして、期間3年の資金供給など、ECBが決定した金融政策の「非伝統的手法」を強調する内容となっている。

 同時にドラギ総裁は、財政規律を高めることに主眼を置いた12月のEU首脳会議の決定内容を前向きに評価している。

 こうした点からも、ECBは1月12日の次回政策理事会では、月末の首脳会議に向けたEUの議論をにらみながら、必要に応じ非伝統的な金融政策を拡充する姿勢を維持するのではないか。

 このように、EU主力国であるドイツが、財政規律の維持という観点から今後もユーロ共同債に反対し続けるとすれば、ECBが危機対応の中心を担う役割を担わざるを得ないだろう。

 一方、本年第1四半期の国債などの大量償還を、ECBを中心とした現在の政策対応によって乗り切った場合でも、やや長めに政治日程を視野に入れた場合には、状況がやや異なってくるのではないか。

 ここでは特にフランスの大統領選が注目される。現職のサルコジ大統領が不利とされている中、4月下旬の第1回投票から5月初めの決選投票にかけての時期、フランスについて、政治情勢の不透明化が懸念され、景気動向の悪化が注目されやすい展開になるだろう。

 この場合、フランス国債の格下げ懸念が再浮上する可能性がある。昨年1年間を振り返っても、ギリシャなどから危機が波及する先の国として、当初はスペインが挙げられていた。

 しかしその後、年後半にかけイタリアに対する懸念が急速に高まった。この背景には、ベルルスコーニ首相の指導力と資質が問われたという政治的な要因が大きかったと思われる。

 EUを主導するフランスに対する懸念が現実となった場合、ユーロ共同債など抜本的な支援策に消極的だったドイツが、より柔軟な姿勢に転じざるを得ない局面があり得るだろう。

ポイントB:ユーロの下落は続くか

 最後に市場動向に目を転じると、年末年始はユーロの下落傾向が一段と強まった。年初以降、ユーロの対円レートは、100円の大台を割り込む展開となっている。

 欧州危機の状況が今後も当面予断を許さず、グローバルな市場の不安定化要因になり続ける場合、ユーロに対する下落圧力に加え、円高圧力が今後も持続しやすいと考えられる。

 一方、ユーロの対ドルレートについては、年末にかけ投機的な資金がユーロ売り・ドル買いを大幅に進めてきた傾向が確認できる。

 そのため、ユーロが1.30ドルを割り込んだ現在の水準から、一旦急反発するリスクには留意する必要があるだろう。

 欧州内で危機対応を巡る議論が進捗せず、各国の景気下振れ感が強い中で、ユーロの急反発が起きた場合、国内産業・企業が脆弱な欧州内の小国に対する懸念が、一段と高まるのではないか。

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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)


(特任研究員 林秀毅)


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