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第4回 ギリシャ債務交渉次第で今春にかけ再び不安定化も(12年2月7日)

対応策が限られる一方、高まるリスク

 欧州情勢は年明けから2月初めにかけ、一旦落ち着いた。

 しかし、EU(欧州連合)・ECB(欧州中央銀行)の議論がこれまでの延長線上にとどまっている一方、ギリシャをはじめとする各国の情勢は不透明感を増している。

 以下、欧州危機の現状と見通しについて、3点に分けて述べることにしたい。

EU財政新条約とECBの「ドラギマジック」の行方

 1月30日、EU首脳会議は、財政規律の強化のための新条約を制定することで合意した。

 英国とチェコを除くEU25カ国により、3月1・2日に開催される次回のEU首脳会議で最終的に署名される見通しである。

 この合意を受け、フィナンシャルタイムズ紙は一面で「メルケルの勝利」という見出しを掲げた。

 今回決定された財政規律の強化の内容は、各国の予算を先ずEUに提出した後、各々の議会に回すことなどを定め、EUの財政統合へ向け一歩を踏み出す内容になっている。

 しかしこれまでの「財政と安定・成長協定」と同様、結局は柔軟に解釈され、有名無実になってしまうのではないかという市場の疑念は払拭されていない。

 問題はEU各国の財政規律が実際に高められる、と市場が信認するかどうかにかかっている。

 そのため、今回の首脳会議では具体的な解決策に踏み込まなかったギリシャの債務削減協議をはじめとする緊急課題の結論が求められている。

 同時に今後の課題として、次回3月のEU首脳会議では今回合意された新条約の調印だけでなく、後述のようにユーロ共同債への取り組み方針などが明示されることが必要になろう。

 一方、ECBは昨年12月に、政策金利を一段と引き下げると同時に、期間3年の資金4890億ユーロを供給した。

 この決定の発表後、年末にかけ市場の混乱は和らぎ、「ドラギ・マジック」と呼ばれた。

 しかし、この背景にはクリスマスの時期と重なり市場が比較的落ち着き、ユーロ売り圧力が和らいだことなどもプラス材料として働いていた。

 そのため、2月9日の次回ECB政策理事会に向け、上記資金供給の金額の増額への期待などが高まっている。

 しかし、ECBはこれまで、EUにおける財政規律を高める議論をにらみながら、自らの追加策を打ち出してきた。

 特に、無制限の国債買い入れには現状でも抵抗があるといえる。

 それでは、今後ECBの追加策としてはどのような方策が考えられるだろうか。

 ここで問題になるのは、銀行の資本充実策との関係だ。欧州の主要銀行は今年6月までに自己資本比率を9%まで高めることを要請されている。

 そのため1月20日に欧州の銀行は資本増強計画を作成し、各国の金融監督当局に提出した。今後、これらの計画の内容が明らかになるにつれ、銀行の資本不足への懸念が高まり、金融危機の火種となる可能性がある。

 そのため現地では、ECBとしてカバードボンドや銀行債を買い入れ対象とすべきという議論が行われている。今後、検討の進む可能性があるといえそうだ。

ギリシャ問題と波及、安全網のあり方

 次に、各国毎にみた最大の懸案事項はギリシャ情勢であり、依然予断を許さない。

 今回のEU首脳会議では、ギリシャ問題を週内に決着させるべきとされた。

 しかしこの頃から、ギリシャ国内では財政赤字削減について反発の声が上がっており、交渉の難航が予想されていた。

 今後、ギリシャ債務削減交渉が妥結し「秩序あるデフォルト」に移行できるかどうかが焦点となる。

 市場ではギリシャは実質的にデフォルト状態にあると考えられている。そのため民間債務の削減率が現状の50%から70〜80%に引き上げられても、大きな混乱にはつながらないだろう。

 一方、現在の事態が収拾されない場合、3月20日に大量償還を抱えるギリシャ自身だけでなく、他国への波及が再び懸念されることになるだろう。

 この場合には、先ずポルトガルへの波及が問題になる。EU首脳会議が開催されている時期もポルトガル国債の金利は上昇が進み、ECBが同国債を買い支えているとも伝えられた。

 ポルトガルは、国の経済規模が小さい上、財政規律が弱く、競争力のある産業を持たないという点でギリシャと類似しており、連想が働きやすい面がある。

 それでは、これらに対処するために安全網は有効に働くだろうか。

 第一に、欧州金融安定基金(EFSF)の役割に限界が生じているといわざるをえない。

 1月のS&P社による仏・伊など主要9カ国の格下げの影響を受け、EFSF自身の格下げも発表され、EFSF債による資金調達の機能が低下していると考えられるためだ。

 一方、恒久的な安全網である欧州安定基金(ESM)は今年7月に前倒しで設立されることが決定されているが、それを待つことなく、どのように危機に対応するかが問題となる。

 そこで第二に、欧州共同債への取り組みが再浮上してくる可能性がある。

 最善のシナリオは、EUレベルの財政規律強化の議論を土台に「質の良いユーロ共同債」(※)の青写真を示すことだ。

 この例としては、ドイツが提案した減債基金債に加え、さらに遡れば2010年末にユンカー・ユーログループ議長とトレモンティ伊経済・財政大臣が提案した欧州政務庁構想が挙げられる。

 これは欧州政務庁を設立し、EU各国が発行する国債の最大50%まで各国債務を肩代わりする形で欧州共通債を発行することなどを内容としていた。

 財政規律の強化に裏付けられた案であれば、ユーロ共同債について最大のネックとなっているドイツの意向に沿うもので、実現に一歩近付く可能性もあるだろう。

(※)詳細は、岩田一政の万理一空「ユーロ圏の国債格下げと質の良いユーロ共同債の発行」(1月18日)参照。

ユーロの反発上昇余地は限定的に

 以上のようなEU・ECB、及びギリシャをはじめとする欧州各国の動向は、市場にどのような影響を与えているだろうか。

 前回1月5日の「欧州債務危機リポート」では、ユーロについて、年末年始に下落傾向が強まった後、急反発するリスクに留意が必要であると述べた。

 その後、ユーロはECBの大量資金供給などを背景に対円では100円台、対ドルでは1.30ドル台の水準に復帰した。

 ユーロは現在も従来の下落から一旦調整し反発する局面にあると思われる。

 ただし、今後ギリシャ情勢の混迷が続き、他国への波及が進んだ場合などには、上昇余力は限定的にならざるを得ないのではないか。

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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)


(特任研究員 林秀毅)


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