トップ » 欧州債務危機リポート

第14回 「4つの柱」・年明けに向けた展開―キーワードは「財政対応力」(12年12月12日)

青写真から工程表へ

 欧州危機が転機を迎えている。

 11月下旬、合意されたギリシャの追加支援策は、過剰な財政赤字の是正を実質2年先送りする面が強かった。スペインのカタロニア州選挙の結果も、スペインの政治安定性への懸念を深めた。さらに欧州中央銀行(ECB)は来年のユーロ圏成長見通しをマイナスに引き下げ、マイナス金利の導入にも含みを持たせた。しかしこれらの動きにもかかわらず、市場は冷静な反応を示した。ECBによる無制限の国債買取りへのコミットなどに支えられ、欧州連合(EU)・ユーロ圏による今後の制度構築に関心が向き始めている。

 今般ファンロンパイ欧州理事会議長が「真の経済通貨統合へ向けて」という工程表案を明らかにした。10月に同議長による「中間報告」を受け、11月下旬にはEU委員会から「青写真」が発表されていた。

 これまでの「青写真」と今回の案は、諸方策の実現タイミングを三段階に分けている点では共通している。一方、政策の実現目標タイミングは今回大幅に前倒しされ、@2013年まで、A2014年まで(表現がややあいまいだが各々年末を指すと思われる)、Bそれ以降に大きく分けられている。

 今後、12月13・14日のEU首脳会議でこの「工程表」が決定され、来年年明け以降に向けた具体的なスケジュールが示されることになろう。ここで政策の内容については、銀行危機・財政危機・景気の悪化という「3つの悪循環」への対策に加え、「民主主義の正当性と信頼性」という政治面を加えた4つの分野への取り組みが示されている。以下、これらの各点について検討したい。

「銀行同盟」の実現スケジュール

 まず「銀行同盟」の内、ECBによる単一の銀行監督(SSM)の実現は、従来から最優先課題と位置付けられている。2013年初めまでに必要な法的枠組みが決定され、同3月末までに欧州安定メカニズム(ESM)が銀行に対する直接の資金注入が可能となる。

 遅くとも2014年1月から単一の銀行監督がフル稼働する大枠が示されている。これに備え2013年末までに、自己資本規制を含む共通の規則が定められる。この点については、大手銀行と中小銀行の取扱いに差がないか(ECBによる直接の監督対象になるか、各国監督機関の所管になるか等)という点が注目される。

 次に、「銀行同盟」の残る二つの要素である銀行破綻整理基金と預金保険についてはどうか。従来、これらについては具体的な組織のあり方や実現タイミングは必ずしも明確ではなかった。

 今回の案は、単一の銀行監督には単一の銀行破綻整理メカニズムが必要であると強調する一方、各国の預金保険のメカニズムは調和されるべきと述べるにとどまっている。また単一の銀行破綻整理メカニズムは2013年中に実現するべきとしているが、預金保険についてそのような期限は設定されていない。

 それでは具体的に、銀行破綻整理の組織はどのような形になるのか。従来から、単一の監督者となるECBが、さまざまな利害の絡む銀行破綻整理を同時に行うことには問題があるという見方が多い。また今回の案では、欧州安定メカニズム(ESM)が単一の破綻整理機関に資金を提供する可能性を指摘している。

 以上から、今回銀行の破綻整理のため新たな組織が設立され、ECBと密接に連携することが想定されているのではないか。今後具体的にどのような形で議論が進むか、さらに注視すべきだろう。

「財政対応力(Fiscal Capacity)」が最大の焦点に

 次に、財政統合への取り組みはどうなっているだろうか。この点については、二段階のシナリオが想定されている。

 まず2013年中に実施される短期的な課題として、各国の財政規律を一段と高める取り組みが挙げられている。この点は、従来からEU加盟国間の財政協約(Fiscal Compact)などの形で合意されてきた。今後さらに、ユーロ導入国の財政計画について、立案の段階から相互チェックを行う規則(“Two-Pack”と名付けられている)を定めるとしている。ただしこれらの案は、各国ごとの財政政策を前提としている従来の枠組みの延長線上にあるにすぎず、財政統合に向けた新たな取り組みということは難しい。

 一方、2014年以降の中期的な課題として、今回「財政対応力(Fiscal Capacityを仮訳)」という考え方が提案された。その特徴は第一に、既存のESMなどが危機対応を目的にしているのとは対照的に、危機に対し予防的な対処する仕組みを作ろうとしている点にある。この背景には、従来、危機対応が市場の動きに対し後追いになってきたことを反省し、危機に対し早期に対応することにより、ESMなどへの負担を緩和する狙いがあると考えられる。

 第二の特徴は、この考え方が、ユーロ圏の特定国に対する無条件・無制限の資金移転を念頭に置いているのではない、と強調している点にある。ドイツが従来からユーロ共同債の導入がギリシャなどの財政規律を体化させてきたと反発してきたことを念頭に置いたものだろう。

 それでは、「財政対応力」を念頭に置いた具体的な制度設計は、どのようなものになるか。そこでは新たな基金の設立(*)が想定されている。第一に、資金は各国の景気変動などマクロ的要因か、あるいは失業保険などミクロ的な要因のどちらに応じて供給されるか、という問題がある。第二に資金規模と財源について、ユーロ圏各国から集めるか、独自に調達するか、という問題がある。今回の提案は以上の点について、折詳細な検討が必要としており、2014年に向けた一層の議論が注目される。

*岩田一政の万里一空「ユーロ加盟国の国債格下げと質の良いユーロ共同債の発行」(2012年1月)で紹介されているドイツによる「減債基金」の提案が、今回案のたたき台になっているといえる。

「経済政策の統合」と「民主主義の正当性と信頼性」

 以上のような銀行同盟と財政統合への取り組みと比較すると、残る二つの分野の取り組みは後回しになっていると言わざるを得ない。

 まず経済政策の統合は、財政統合への取り組み次第という面が強い。言い換えれば、財政統合の進展がないままに、経済政策の相互サーベイランスなどを行っても、実効性のある取り組みにはつながらない。当面は財政協約に基いた経済政策の協調、中期的には上に述べた危機予防のための新たな基金設立に応じた形で議論が進められていくものと思われる。

 一方、政治面では、EU議会の権限強化を今後も持続的に行っていくことが主な内容になっている。欧州危機が深まり、危機対応について直接選出されたEU議会の発言力が依然弱いことに市民の不満が強まっている可能性がある。

 EU市民の最大の関心事は雇用の回復にある。銀行同盟と財政統合を軸に、各国の経済政策の協調などにより雇用の回復が実現するまで、依然遠い道のりと言わなければならないだろう。

---

日本経済研究センター特任研究員 林秀毅

ギリシャを始めとした欧州債務危機は、世界的な金融危機に発展しつつあります。1990年代以降、欧州ウォッチを続けてきた長年の経験に基き、最近のグローバルな金融市場動向も踏まえながら、欧州情勢について冷静かつ的確な展望をご提供したいと考えています。
(毎月1回 7日頃掲載予定)


(特任研究員 林秀毅)


△このページのトップへ