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林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

2017年10月11日 ドイツ総選挙後、欧州の主役は誰か−国内外のリスク・カタルーニャ独立・ECBとユーロ

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ドイツは「ジャマイカ連立」へ:プラス面にも注目すべき

 前回9月の本レポート(ドイツ総選挙・ECBの政策変更・ブレグジット)では、ドイツ総選挙後の連立政権のありかたについて、以下のように述べた。

「ジャマイカ連立は、CDU/CSUへの支持が予想ほど伸びず、且つSPDが今後をにらみ、大連立を組むよりあえて野に下った方がよいと考える、非常に限られた選択肢と言えるのではないか。」

 実際の選挙結果は、ここで述べた「非常に限られた選択肢」の道を歩みつつある。即ち今回の選挙では、既存の二大政党が勢力を落とし、新興勢力の極右の「ドイツのための選択肢(Alternativ für Deutschland, AfD)」を始めとする中小政党が健闘した。

 メルケル首相率いるCDU/CSUは、第1党の座を維持したが支持率を約8.6%下げ、社会民主党(SPD)もまた支持率を約5.2%下げる敗北を喫した。この結果により、SPDが連立に加わらない「ジャマイカ連立」の可能性が急速に高まった、と考えられる。

 即ち、SPDは4年間にわたる大連立によりCDU/CSUとの間で政策の差別化が難しくなったとの反省から元々、再び大連立を組もうという雰囲気に乏しかった。

 さらに、今回の総選挙の結果を受けて、SPDとしては、自らが大連立に参加せず野に下れば、CDU/CSUが嫌がる「ジャマイカ連立」に追い込むことができることになった。この意味でもSPDにとって、大連立を組まず野に下ることは最良の選択となるはずだ。

 それでは、CDU/CSUがジャマイカ連立を嫌がる理由は何か。、前月のレポートでは、「選挙の数少ない争点であるディ−ゼル車規制問題をめぐる対立が、連立政権内で表面化する可能性が高い」などと述べた。

 この点にかぎらず、環境政党である緑の党と企業よりの政策を採る自由民主党(FDP)には、元々、政策面で相容れない点が多い。自動車の取り扱いについても、緑の党が環境への負荷が小さい電気自動車(EV)への早期移行を主張する一方、FDPはドイツ自動車産業が強みを持つディーゼル・エンジン車を擁護する立場に立っている。CDU/CSUも、国内の雇用維持につながることもあり、ディーゼル・エンジン車を保護する立場だ。

 9月末、独フランクフルター・アルゲマイネ紙に、BMV社は「ディーゼル・エンジンの効率性を高め、CO2排出の削減に取り組んでいる」旨の全面広告を出した。不祥事を起こした同業他社との違いを示す意味もあるようだが、長期的に電気自動車への移行という大きな変化にどう対応するかということも同様に重要だ。

 以上のようなドイツ選挙の結果と今後の展開について、選挙後、都内でドイツ人2名と日本人1名による討論会が開催された。ドイツ人は2名共、ドイツ有力メディアのアジア特派員であり、日本人はドイツ駐在経験の豊富なジャーナリストだった。

 この場で筆者は、自動車規制の問題について「緑の党が政権に参加することによって、国内企業の既得権益を守るディ−ゼル車への保護政策から電気自動車への取り組みに転換する、という良い面もあるのではないか」と問題提起し、参加者から賛同が得られた。

 一方、選挙全般に対する評価としては、(1)4期目を目指すメルケル首相への国民への飽きがあり、必ずしも外国人比率の高くない旧東独地域を中心にAfDへの支持が高まった、(2)しかしAfDは第3党・94議席といっても十分に組織化されていない、(3)緑の党とFDPは確かに犬猿の仲だが、CDU/CSUを中心とした3党は全て市場主義・親EU・親ユーロである、といったことが言及された。

 CDU/CSUとしては、ショイブレ財務相が連邦議会議長に転じ、重要ポストを他二党に配分することにより、「ジャマイカ連立」を年末迄に成立させることが現実的な選択肢になる。以上のような政治環境が整い、メルケル首相によるリーダーシップが維持されれば、「ジャマイカ連立」であっても、連立政権は徐々に安定化に向かうのではないか。

 一方、この交渉が不首尾に終わった場合、リスクシナリオとして、大連立の復活という案も浮上するが、その可能性は高くないだろう。「ジャマイカ連立」さえ実現できない場合、CDU/CSUはかなりの程度、SPDに譲歩を余儀なくされるためだ。そのため、CDU/CSUは一旦「ジャマイカ連立」に取り掛かれば、これを何とか実現しようとするはずだ。

マクロン改革とブレグジット:共に「胸突き八丁」の段階に

 次に、ドイツ以外の欧州主要国に目を向けると、フランスのマクロン政権が、国内の補助金削減や労働法改革の「胸突き八丁」にあり、支持率は急低下している。この点、海外のメディアでは、やや悲観的な報道が目立つ。

 この点、フランス国内のフィガロなど主力紙では、これらの政策について連日取り上げられているものの、マクロン政権自体への危機感は意外に感じられない。

 さらにマクロン氏は、国内だけでなくEU・ユーロ圏の改革について、難民対策やユーロ圏共通予算・ユーロ圏財務相の創設へ向け、9月29日にエストニアで開催されたEU首脳会議でも取り組みへの積極姿勢を示した。

 しかし、メルケル氏の率いるCDU/CSUが今回の選挙で支持率を大きく下げたことにより、「独仏枢軸」の再構築を図るという道筋は、ドイツの連立政権が固まる年明け以降に先送りにせざるを得ない。当面、EU・ユーロ改革については、トゥスクEU大統領・ユンケルEU委員長がボールを預かり検討を続けていくことになるだろう。

 一方、現在のブレグジット交渉のポイントは、貿易交渉に早期に入りたい英国と、英国からの離脱交渉、特に清算金の金額を確定したいEUとの間の綱引きにある。

 この点、9月22日、英メイ首相がフィレンツェで演説を行い、2019・20年の2年間で約200億ユーロを支払うと約束したことはトゥスクEU大統領などから好意的に受け止められた。自由貿易の利益を受けるのは英国・EU双方であり、EUも本音では、貿易交渉が時間切れとなり「クリフエッジ」状態に陥ることは望んでいないはずだ。

 10月4日の党大会におけるメイ首相の演説は、以上のようにEUとの交渉を進捗させるための足掛かりとなるはずだった。しかしコメディアンが解雇通知を示す「P45」と書かれた紙をメイ首相に渡したり(反対派のジョンソン氏の差し金とも言われる)、背後に貼ってあった会議を示す文字が突然剥がれ下に落ちた上、メイ首相の咳のため演説が何度か中断された。この演説は、行われた場所から「マンチェスター・スピーチ」と呼ばれるが、以上の経緯から「悪夢(nightmare)のスピーチ」とも名付けられている。

 現在、メイ首相が続投している背景は、現在の対抗馬として現地紙に挙げられている、同じ保守党内のジョンソン外相、労働党のコービン党首などの人気が今一つであり、本人たちも「火中の栗」を拾うことに乗り気でないことがありそうだ。

 一方、10月19・20日のEU首脳会議では、離脱交渉に「十分な進展」があったと認められ英国との貿易交渉が始まる可能性は低くなっている。EUからこのような判断が下されたとき、英国内政の微妙なバランスが崩れ、「想定外」の展開にならないか、留意する必要があるだろう。

カタルーニャ州の独立問題:問題収拾にはEUの介入が不可欠

 10月1日に実施されたカタルーニャ州の独立を問う住民投票について、スペイン政府が住民投票を違憲であるとして認めなかっただけでなく、警察を動員し運動を強制的に鎮静化しようとしたことが住民の反発を招き、問題を一段と難しくしている。

 カタルーニャ州は、マドリッドを中心とするスペイン国内では、経済的に豊かな先進工業地域である上、民族や言語・気質まで異質な存在であり、歴史的に見ても、独立の気運は強かった。しかしこれまでは、流血の事態やテロには至らなかった。

 今回、スペイン政府のラホイ首相は、保守派である上、政権基盤も強くないため、国内政治の不安定化を恐れ、強硬な姿勢を取っている。

 以上に関し、英エコノミスト誌は、「もしカタルーニャ州の独立が認められれば、(より強硬な)バスク自治州にすぐに飛び火するだろう」と述べている。この場合、かつて英国でスコットランドの独立投票が行われた時などと比較しても、欧州大陸でベルギー北部、イタリア北部などへ波及する可能性はより高いだろう。そう考えると、流血の事態から今回の独立宣言へと発展した現状は、もはやスペインの国内問題ではなく、EUによる介入が不可欠な状態にある。トゥスクEU大統領を中心にメルケル首相が動きにくい中、隣国フランスのマクロン大統領らが協力する形で、どこまで問題に踏み込めるかが焦点になるだろう。

 筆者は、カタルーニャ州は経済的に比較的豊かといっても、独立国としてさまざまなコストを負担するよりも、今回の住民投票をきっかけに、徴税を含む自治権を拡大することが着地点になるだろうと考えている。

 10日、カタルーニャ州のプチデモン首相は、独立宣言を当面凍結するという考えを州議会で示し、やや柔軟な姿勢に転じた。しかしそれでもなお、現状では仲介者なしには事態は進展しえないと思われる。

ECB:為替水準への言及

 9月8日の政策理事会後、記者会見の冒頭スピーチでは、ドラギ総裁は市場予想通り、この秋(this autumn)に、量的緩和縮小の大筋を示すと明言した。

 この点に加え、今回、「為替レートのボラティリティが不確実性の源泉になっており、これをモニターする必要がある」と述べた。さらにその後の質疑では、
「スタッフによる経済見通しの前提となる水準」としてではあるが、1ユーロ=1.18ドルという具体的な水準に言及し、「これに対し現在は1.20ドルという(割高な)水準にある、とまでコメントしている。

 今回の発言の意味は、「この秋」が意味する10月26日の政策理事会を控え、量的緩和の縮小ペースに対する市場の過度な期待を和らげるため、一段ギヤを上げたもの、と考えるべきだろう。

 この点、今回の発言は、今年6月、同じドラギ総裁によってなされたシントラ・スピーチと同様の意味合いを持つ。その後公表された同理事会の議事要旨からも、量的緩和縮小のスケジュールは、為替レート経由の影響を含むユーロ圏の物価上昇率と、買い取り対象となる国債の流動性の状況を見ながら、緩やかに段階的に実施されることが明らかになったといえる。

 先に述べた欧州の政治的なリスクが時々刻々ユーロの為替レートに反映されること、及び量的緩和の縮小ペースは緩やかなものになるであろうことを考えると、メルケルという「欧州の主役」が当面不在となる中で、ドラギ総裁の率いるECBが、当面リスクに対処する主役になりそうだ。


(2017年10月11日)


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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅
2017年は、欧州各国で選挙が相次ぐ「政治の年」です。一方、年後半にかけてECBの金融政策の変更への期待が一段と高まると考えられます。 本レポートでは、欧州政治・経済の展望をバランス良く展望していきます。(毎月1回 10日頃掲載予定)。
※本コラムのバックナンバーはサイト右上から、「欧州債務危機リポート」(13年3月まで)こちらからご覧いただけます。


(特任研究員 林秀毅)

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