トップ » 林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

2018年1月10日 2018年・欧州が直面する政治経済の課題−ドイツ・英国・イタリア・ユーロ圏−

  • Tweet this articl

 2018年に入っても、欧州の政治経済を巡る話題がメディアを賑わせている。そこで今回は、2018年の1年間を展望し、政治(独の政権体制、ブレグジットの進捗と影響、中東欧の政局、イタリア総選挙)、経済(ユーロ圏・欧州の制度改革、欧州経済と欧州中銀の対応)の各分野で、6つの課題について述べる。

 これらの課題は、その多くが、2017年中に問題として浮上したいわば「積み残し案件」であると同時に、問題の最終的な解決は2019年に持ち越されることになるだろう。

 しかし2018年に限って見れば、以下に見る通り、3月から4月にかけての春と、9月から10月にかけての秋の時期に、問題のリスクが表面化しやすい。その時々に適切な手段が採られるかどうかが、欧州の今後にとって大きな分岐点となるだろう。

(1)ドイツ連立政権の行方−春までに「ジレンマ状況」回避へ

 先ず、2018年、欧州の政治動向は、主要国で政治イベントが相次いだ2017年の影響を受け継ぎながら、新たなリスクを加える展開になる。

 1月7日、ドイツのキリスト教・民主社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の正式な連立協議が始まった。

 現時点で考えられる政権体制の選択肢は、@両者の大連立、ACDU/CSUによる少数単独政権、Bによる閣外協力の3つである。
 
 これらのシナリオの可能性を考える上でのポイントは、SPDが党内の議論をふまえどのような提案を行うか、これを受けCDU/CSUがどのような条件を提示するかにある。

 第一に、大連立については、選挙前と変わらない体制であり、そもそもSPD党内で「大連立によって政策の独自性を打ち出せなくなり、総選挙で敗北した」という意見が強いため、SPDが簡単に応じることはないだろう。

 第二に、少数単独政権については、政治の安定性を好むドイツの有権者の意向に沿わないこと、仮に連立交渉が決裂すればCDU/CSUは再選挙に踏み切る可能性が高いことを考慮すると、この方向に進む可能性は低い。

 第三に、SPDによる閣外協力については、SPDにとって上に述べた大連立のデメリットを避けながら政策への影響力を確保できるため、今後可能性が高まると思われる。さらに、閣外協力と大連立の中間的な形として、現在協議中の連立協議書による政策合意を減らし、それ以外の政策については是々非々で協議する「部分連合」という折衷案が浮上している。

 以上のように、現在進んでいる連立協議書の進捗次第で今後の両党の関係が決まり、現状では流動的な面が強い。具体的には、二週間ほどの連立協議を経て、1月下旬以降、シュルツ氏が協議内容を持ち帰った後、SPDの党大会で党員たちがどこまで反発し、党内でどのような形で議論が収束するかという点が大きな節目になるだろう。

 連立協議が行われる現段階では、両党の政策の違いに目が向きがちだ。しかしEU加盟国が財政規律を重視すべきこと、難民のドイツへの流入に一定の歯止めをかけるべきことなど、最重要の課題について、程度の違いはあるものの両者の方向性が正反対という訳ではないため、互いに譲歩する余地があるはずだ。

 さらに交渉が決裂した場合、現状では、国民から「交渉に応じず、政治の不安定化をもたらした」として、SPD側が批判される可能性がより高いはずだ。さらに、交渉が決裂し再選挙となった場合、両党の議員が落選リスクを負うという意味で、双方にとって不利益な「ジレンマ状況」に陥るが、現在の党勢を考えればSPDの議員にとってより深刻な脅威となるはずだ。

 以上のように考えると、連立協議書にどこまでが盛り込まれるかという点には幅があるものの、最終的に協議書の作成ができず決裂の事態に陥る可能性は低いはずだ。

(2)ブレグジットの通商協議−今年春と秋に転換点が

 次に、ブレグジットについては、昨年12月14・15日のEUサミットで、年明けから「第2段階」の通商協議に入ることで合意がなされた。

 但し、アイルランド国境の管理及び清算金の問題については、実質的に先送りとなった。特に合意に至る過程では、アイルランド問題を巡る論争が紛糾した。

 しかし英国の一部である北アイルランドとEU加盟国であるアイルランドとの密接な経済関係は、双方にとってメリットである。英国がEUから離脱するにもかかわらず、現状のような自由な通行を維持することは確かに異例なことだが、この点については双方の利害が一致している以上、結局は最終的な合意に至るべき問題であるはずだ。
 
 一方、清算金の問題は今後、具体的な金額が明らかになるにつれ、英国議会でメイ首相の政治基盤に悪影響を与えるリスクがある。

 さらに現状カナダ方式により、一旦、単一市場から切り離された上で、自由貿易交渉を行う可能性が高まる中、英国のデービスEU離脱担当相が言う「カナダ、プラス、プラス」はまさに「いいとこ取り」の発想であり、EU側として、現時点では決して認めることはできない。

 この状況では、1月から「第二段階」の通商協議開始後、一定の時間の経過を経て、3月に予定される次回EUサミットにおいて、交渉の進捗状況がチェックされる。この時点で大きな進捗がないことが明らかになり、本来であればメイ首相に対する辞任圧力が再び高まるはずだ。しかし「火中の栗」を拾う者がいないため、メイの「ゾンビ状態」が続く可能性が高い。

 以上を受け、3月以降、英政府内で交渉を実務的に支えるために、各種法案等を具体化する体制を整えることができるかどうかという点が、「実質的な交渉期限」とされる今年秋に向けた大きなカギとなるだろう。

 但し、以上のように、仮に今年3月、さらに9〜10月に十分な交渉の進捗が認められなかった場合でも、今年のいずれかのタイミングで2年間の移行期間について合意がなされ、両者にとって不利益となる2019年3月時点の「クリフエッジ」は回避されることになるだろう。

(3)中東欧の政局不安定化

 第三に、中東欧各国でも、政治リスクが高まっている。昨年12月15日、オーストリアでは、31歳のクルツ党首率いる国民党と極右の自由党が、連立政権を組むと発表した。両党とも難民の受け入れなどに否定的な点で一致していることが背景だが、新政権は反EUではない点にはあいまいさもあり、今後の政権のかじ取りが注目される。

 チェコではEUからの難民政策などに批判的な現職のゼマン大統領が続投し、同氏と近い関係にある、昨年10月の総選挙で勝利した「チェコのトランプ」と呼ばれる実業家出身のバビシュ氏を中心とした政権が樹立される可能性が高まっている。

 但し、中東欧の加盟国は、経済・産業面で西側に依存した発展途上の国々である。ハンガリー、ポーランドに続きチェコが反EU色を一層強めた場合、EUは地域振興の基金を手厚くするなどEUの一体性を損なわない方策が採られることにより、これらの国々の「英国に続くEU離脱」といった事態には至らないだろう。

(4)イタリア総選挙後の政局混迷

 今年3月4日に予定されるイタリアの総選挙については、現状ポピュリズム政党・5つ星運動の勢いが増しつつあり、新たなリスクとして留意が必要だ。

 現状の背景には、EU外からの難民流入が、従来の主なルートだったトルコ・ギリシャ経由でドイツに至るルートが実質的に閉鎖され、現在、北アフリカから地中海経由でイタリアに流入するルートが中心になり、国民の不満が高まっていることが挙げられる。

 最近の支持率調査では、ポピュリスト政党である「5つ星運動」に加え、ベルルスコーニ元首相の率いる「フォルツァ・イタリア」に「北イタリア同盟」などを加えた右派の勢力が力を増している。

 一方、レンツィ前首相の率いる民主党を中心とした中道左派も追加的な財政支出案などで巻き返しを図っており、各会派の獲得議席が拮抗する可能性が高まっている。

 こうした状況で、イタリア国内の声によれば、仮に「5つ星運動」が最大勢力になった場合でも、連立相手がいないため、反EU政権が誕生する可能性は低い。しかし連立政権の組成に時間がかかり、政治的な混乱につながりかねない点には留意が必要だ。

 この場合、イタリア国内で、銀行セクター再編問題に加え、難民の大量流入に歯止めがかからなければ、欧州の危機再燃につながるリスク要因となるだろう。

 この場合、隣国フランスのマクロン大統領が中心となり、EUレベルでイタリアへの難民集中を抑える手段等を講じる必要が生じると思われる。

 以上と比べれば、カタロニア独立問題は、スペイン政府による強硬な姿勢の下に、スペインの国内問題として独立は実現しない方向で事態は収束していくだろう。

(5)ユーロ圏・欧州の制度改革

 昨年12月に欧州委員会から発表されたユーロ圏の改革ロードマップは、@欧州通貨基金(EMF)を、ユーロ危機時に設立した欧州安定化基金(ESM)を発展させる形で設立する、A財政規律を定めた「財政と安定・成長協定」をより柔軟なものにする、B各国の財政政策を支援するEUが保証するローンなど追加的な手段を設ける、C「欧州経済・財務相」を任命し、ユーログループの議長と欧州委員会の副委員長を兼務させる、という内容を骨子としていた。

 昨年9月に行われたマクロン仏大統領演説は、EU全般を対象とした壮大な改革案だったが、今回のロードマップはユーロ圏改革に的を絞った案といえる。

 本ロードマップは今年6月のEUサミットで議論される予定である。しかし4つのポイントの内、@欧州通貨基金とC欧州経済・財務相については、ドイツなどからの反発も予想され、欧州委員会も実現時期を2019年以降としており、先送りされる可能性が高い、Bについては2018年半ばに具体案を提示するとされており、2018年時点でみた成果はこの点にとどまり、限定的ではないか。

(6)欧州経済とECBの金融政策・9月の資産買い入れ終了は延期も

 最後にユーロ圏経済については、ECB(欧州中央銀行)などの見通し通り、2019年、実質GDPは個人消費及び住宅を中心とした投資に支えられ2%台前半で堅調に推移するが、賃金及びエネルギー価格の伸びは今後も鈍く、インフレ率は1%台半ばの推移にとどまると想定される。

 ECBは事前アナウンス通り2018年初から資産買い入れ額を月300億ユーロに半減させる措置を続けるが、仮に米国株式市場の下落を始めとする外部リスクが表面化すれば、躊躇なく2018年9月の資産買い入れ終了を延期させるだろう。

 ユーロ圏経済の好調さから年末以来、ECBの早期買い入れ終了への期待が高まってきたが、インフレ率が低めに推移すれば、ECBとしては不測の事態に柔軟に対応する政策の幅が広がることになるだろう。

 一方、市場では、2018年もユーロ圏経済が堅調に推移し、ECBの量的緩和の縮小もスケジュール通り実施されることを受け、金融市場ではユーロ高圧力が高まりやすい展開が続くだろう。

 しかし2018年の欧州金融市場における最大のリスクは、高止まりしている米株式市場の下落という外部要因ではないか。

 これらのリスクによって、為替市場で1ユーロ=1.2ドルを超える水準では、これまで通り、ECBのドラギ総裁が、早いタイミングで牽制発言を行うなどの手段が採られると思われる。

 以上のように政治・経済両面で2018年の課題を検討すると、冒頭述べた通り春と秋に重要な局面が集中しているものの、個別の課題毎にみれば何とか難局を切り抜けていくと思われる。しかし問題は、これらの時期に、複数の課題について、悪材料が重なり市場の懸念が深まる場合ではないか。

(2018年1月10日)


---

日本経済研究センター特任研究員 林秀毅
2018年は、ブレグジット交渉が正念場を迎える一方、ECBによる量的緩和政策の修正は一段と進むと考えられます。本レポートでは、欧州政治・経済の展望をバランス良く展望していきます。(毎月1回 10日頃掲載予定)。
※本コラムのバックナンバーはサイト右上から、「欧州債務危機リポート」(13年3月まで)こちらからご覧いただけます。


(特任研究員 林秀毅)

△このページのトップへ