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林秀毅の欧州経済・金融リポート3.0

2018年2月9日 ユーロ高のゆくえ−短期より中期に死角あり−

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 年明け以降、1ユーロ=1.25ドル前後の水準までユーロ高が進み、1月25日のECB政策理事会後の記者会見でドラギ総裁が非常に強い口調でユーロ高をけん制した。

 ドラギの怒りの背景は、米国のムニューシン財務長官が「通貨安競争は行わない」という主要国間の合意を破る、ドル安誘導と取れる発言をしたことにある。その後、トランプ大統領がこれを打ち消したことも、米政府の組織姿勢への不信につながり、火に油を注いだ。

 一方、当面ユーロに対しては、内外両面の環境から見て、今後も上昇圧力は強い。ユーロ圏経済は全体として、依然、成長率・雇用の両面から見て好調だ。

 次回、金融政策についての決定が行われる3月8日のECB政策理事会では、政策の方針を示すフォワードガイダンスの内容は、ユーロ圏景気の一層の改善を想定した内容に修正されるだろう。その結果、市場は量的緩和終了後、早期に金利引き上げに入るという期待が再び高まるはずだ。

 しかしこのような市場の期待が高まり、為替市場でユーロ高が進んだ場合、改めて、ECBがどのような姿勢を示すか、という点が注目されることになる。

 先ず、3月8日のECB政策理事会では、資産買い入れの期限を「今年9月末まで、あるいは必要な場合には、それ以降も(until the end of September 2018 or beyond, if necessary)」延期し得るという政策の選択肢を自ら捨てることはないだろう。

 一方、最近、米国長期金利の上昇が進み、米国債の債券バブルが崩壊するという見方も出ている一方、欧州の長期金利の上昇は比較的安定している。

 その理由としては、ドイツを中心に財政が比較的健全であること、インフレ率の伸びが鈍いこと、域内の政治不安などが指摘されている。

 しかしそれらに加えて、ECBが市場とのコミュニケーションを円滑に行っており、ユーロ高・金利高が進んだ場合でも、ECBがこれに対するけん制を行えば市場が反応する状態になっていることが大きいのではないか。

 一方、中長期的にみれば、ユーロ高が進む可能性は一層高まらざるを得ないだろう。

 第一に、時間の経過と共に、量的緩和縮小の道筋が次第に明らかになると同時に、その後の利上げについては慎重な姿勢を維持するため、ECBが口先介入や政策変更により市場に影響を与える余地が少なくなる。

 第二に、欧州域内の政治情勢は現状不透明な状態にあるものが多いが、1年程度のスパンでみれば、徐々に今後の方向性が見えてくるため、この点からのユーロ安圧力が弱まるだろう。

 ブレグジットについて最大の問題点は、本レポートで従来から述べているように、メイ首相以下、英国側の体制に交渉の当事者能力がないことである。

 この点に関し、先般、英ガーディアン紙は、英国内の各地で再国民投票を求める声が高まっていることを、実際のアンケート結果に基き、見開き2ページで大きく紹介している。

 この点、政治アナリストのイアン・ブレマー氏は、今年の10大リスクの中で、「メイ続投(May survives)55%、メイ交代30%、早期総選挙15%」という予測を挙げている。このように事態が動けば、英国内は混乱しポンド下落につながるが、EU側は一貫した姿勢で交渉に臨んでおり、むしろ交渉の進捗につながりプラスという見方になるはずだ。

 イタリアの総選挙はポピュリスト、中道右派、中道左派の三つ巴となり選挙後の連立工作は長引くが、イタリアにとってはこれが通常の状態だ。この間、仮に難民の流入や銀行危機が深刻化するが、マクロンを中心としたEU首脳やECBの関与により、対策が講じられるだろう。

 ドイツの連立交渉も、最終的な体制については、依然いくつかの選択肢があるものの、「メルケル首相率いる大連立」という基本的な方向性については固まりつつある、と言ってよいだろう。

 第三に、2019年秋のECB総裁交代をにらんだ、次期総裁への思惑だ。

 筆者自身は、ワイトマン独連銀総裁が2019年秋からECBの次期総裁に就任する可能性は、現在の市場が予想しているほど、可能性は高くないと考えている。

 これは、欧州レベルでドイツ次期政権の影響力の相対的な低下だけでなく、ECB総裁には、市場との柔軟な対話が求められ、先に述べたように、時にはハト派的発言も行うしたたかさが必要だと考えるためだ。

 ユーロ圏内にはさまざまな経済状態にある国があり、必ずしもユーロ圏全体の経済が好調だからタカ派的な人物が適当である、と考えるべきではない。

 しかし、現状、本命はタカ派のワイトマン氏という見方が大多数であるとすれば、このような市場の期待が総裁交代の時期が近付くにつれ、この点がユーロを一段と押し上げる方向に働くことは十分考えられる。

 最後に、世界の政治経済情勢である。今後、トランプ政権による自国第一主義による保護貿易政策は行き詰まる可能性が高く、この点が企業業績及び消費者の利益双方でマイナスに働くと同時に、市場全般の不安定化につながる。

 ここで、日本の金融政策が量的緩和に強くコミットし続け、欧米との姿勢の違いを鮮明にするならば、以前の危機時のような「安全な通貨としての円への資金流入」に代えて、米国からの資金は欧州に向かうことになる。

 以上のように考えると、当面、短期的にはユーロの為替レートは、ECBの口先介入や政策変更によりコントロール可能だが、2019年秋頃までといった中期的な視点でみれば、ユーロに対する上昇圧力が強まり、1ユーロは対ドル1.30ドル、対円150円を目指す展開となろう。

(2018年2月9日)


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日本経済研究センター特任研究員 林秀毅
2018年は、ブレグジット交渉が正念場を迎える一方、ECBによる量的緩和政策の修正は一段と進むと考えられます。本レポートでは、欧州政治・経済の展望をバランス良く展望していきます。(毎月1回 10日頃掲載予定)。
※本コラムのバックナンバーはサイト右上から、「欧州債務危機リポート」(13年3月まで)こちらからご覧いただけます。


(特任研究員 林秀毅)

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