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小峰隆夫の地域から見る日本経済

2010年2月15日 女性の就業と出生率

 少子化に伴う労働力制約を少しでも弱めるためには、女性の就業率の上昇が必要だ。一方、出生率そのものを高めていくことも必要だ。ところが、女性の就業率の上昇は子育てを犠牲にして実現する可能性があり、その場合は、「女性の就業率を引き上げる」という目標と「出生率を高める」という目標がトレードオフとなってしまう。

女性の就業率と出生率は正の相関

 一般に、女性の社会進出が進むと出生率は下がるものと考えられる。これは次のように説明される。すなわち、女性は結婚して家事・育児に専念するものだという前提の世の中では、女性も自分自身の人生はそういうものだと考えているから、実際に家事・育児に専念するようになっても、特に犠牲は払っていない。つまり子育ての機会費用はゼロである。しかし、女性も男性と同じように高い教育水準を得て、男性と同じような所得を稼ぐようになると、その仕事を捨てて、家事・育児に専念することは、大きな犠牲を伴うことになる。子育ての機会費用が大きくなるのである。これが、所得水準が上がるにつれて出生率が下がる傾向があることの理由である。

 では、実際に両者の関係を見るとどうなっているか。出生率と女性の就業率の関係について法政大学大学院政策創造研究科の岡田恵子教授が分析している。詳しい図表の紹介は省略するが、経済協力開発機構(OECD)諸国について縦軸に出生率、横軸に女性の就業率を取ってプロットしてみると、1980年には右下がりだった両者の関係が、2006年には右上がりに変化していることが分かる(岡田恵子「『子ども手当』より必要な両立支援策」日経ビジネス・オンライン、09年10月16日)。つまり、かつては先進諸国では、女性の就業率が高いほど出生率は低いという関係があったのだが、近年では、逆に、女性の就業率の高い国の方が出生率も高いのである。

 なぜ両者の関係は逆転したのか。これは一般には、先進国において女性の就業と子育ての両立を促すような施策が展開され、これによって女性の子育ての機会費用が小さくなったからだとされる。では、日本の場合はどうか。図1は、都道府県別に出生率と女性有業率(25歳から44歳まで)の関係をプロットしたものである。すると、02年についても07年についても両者の関係は右上がりとなる。




三世代同居に代わる両立策を

 しかし、日本で先進的な子育てと女性の就業との両立環境が整っているということは常識的に見ても考えられない。ではなぜ日本では、先進欧米型の「出生率と女性の就業率がプラス」という関係が表われているのだろうか。

 この点についての、岡田教授の分析はこうである。まず、縦軸に都道府県別の出生率、横軸に「末子が6歳未満の世帯に占める妻が仕事を持っている世帯の割合」を取ってプロットする。すると、右上がりの関係が表われる。次に、今度は縦軸に「末子が6歳未満の世帯に占める妻が仕事を持っている世帯の割合」を取り、横軸に「末子が6歳未満で妻が働いている世帯に占める3世代同居世帯の割合」を取ってプロットしてみる。するとこれも右上がりの関係となる(図2)。そしていずれも右上方向には、島根、山形、福井などの地方部の県が位置する。




 要するにこの分析から分かることは、地方部では三世代同居によって、祖父母が子供の面倒を見ることができるため、母親は安心して働きに出ることができる。だから、女性の就業率と出生率が正の相関を持っている、ということである。

 単純化すると以下のようなことになる。都市型の地域では、女性の就業意欲は強いが、子育てと就業の両立が難しいため、就業継続をあきらめるか、子供をあきらめるかのどちらかになりやすい。すると、女性の就業率も出生率も低くなる。一方、地方型の地域では、三世帯同居がまだ多いため、子供を持った女性が就業を続けることが可能となる。したがって、女性の就業率は高く、出生率も相対的に高い。

 しかし、将来を考えると、伝統的な三世帯同居は減少しつつあるから、日本全体が現在の都市地域的な方向に進むだろう。すると、女性の就業と子育ての両立は難しくなり、出生率はさらに下がる。このように考えてくると、今後は、都市的な地域において、三世代同居に代替しうるほど強力な就業と子育て両立策を講じていくことが必要だということになる。

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(日本経済研究センター 主任研究員)



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