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小峰隆夫の地域から見る日本経済

2010年3月8日 成長戦略とガバメント・リーチ

 私の役人時代の最後の仕事が、全国総合開発計画を所管する国土交通省の国土計画局長であったことは既に述べた(連載第1回)。この全国総合開発計画(以下「全総」)の栄枯盛衰は、日本全体の姿を象徴しているようにも思われる。

衰えていった全総の威力

 全国総合開発計画は、表に示したように、1962年以降全部で5回策定されている。87年に策定された「第四次全総」のあたりまでは世間的にも大いに注目され、どんな内容になるかについて活発な議論が行われた。



 例えば、83年9月から開始された四全総の策定作業を振り返ってみよう。当初、国土庁(現国土交通省)は、四全総では地域の自立を重視し、地域間の競争を促すことを考えたが、これに対して各地域から凄まじい巻き返しの動きがあった。特に大きな問題になったのが東京一極集中問題である。これを「積極的に推進すべきもの」とするか「分散させるべきもの」とするかで、東京対その他地方の意見の食い違いが鮮明になった。86年11月にまとめられた中間報告は、東京圏を世界の中枢都市の一つとして積極的に位置付けるものだった。これに対して東京以外の地方自治体、経済団体から反発の声が相次いだ。この結果、87年5月に決定された最終案では、東京重視色は大幅に後退し、東京一極集中の是正、多極分散型国土の形成が強調されるようになった。

 要するに、この頃までの全国総合開発計画は注目度が高く、地域問題について圧倒的な影響力を持っていたということである。

 しかし、98年に策定された最後の全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」になると、注目度、影響力は格段に低下した。その後、05年3月に国土総合開発法が改正されて、全総そのものが廃止されるに至った。これに代わって登場したのが「国土形成計画」なのだが、注目されないという点では全総と同じである。08年8月には最初の「国土形成計画」が策定されているのだが、その存在さえ知らない人が多いのではないか。

政策の裏付け欠き、関心低下

 ではなぜ、全総の影響力は次第に衰えていったのか。その理由としては、一般には、@国が方針を示し、地方が従う時代から、地方が主体的に行動する時代になった、A環境問題の高まり、社会の成熟化などの中で「開発」という考え方そのものが世間に受け入れられなくなった、B国の財政が厳しくなり、大規模な公共投資などを期待できなくなった、といったことが指摘されている。

 ここではこれを「ガバメント・リーチ」という視点から考えてみたい。ガバメント・リーチというのは、「政府ができる範囲」という意味である。市場を基本とする日本経済の中で、政府が国土全体の姿をコントロールできる範囲は限られている。政府はガバメント・リーチの範囲内で政策を考え、全体の経済社会を方向付けていくことが必要となる。

 実はこの点は、最初の国土開発計画のときから意識されている問題である。このガバメント・リーチという考え方を適用すると、当初の全総には政府ができる範囲での政策が盛り込まれていた。例えば、最初の全総では、「拠点開発構想」という考え方が盛り込まれているのだが、これを実現化したのが、62年制定の「新産業都市」、64年制定の「工業整備特別地域」であった。これは全国でいくつかの地域を指定し、そこに社会資本整備などの政策手段を重点投入しようとするものだ。この指定をめぐって猛烈な各地からの陳情合戦が繰り広げられたことは有名である。

 二全総以降、政府の投資規模が明示されたことの影響力も大きかった。政府投資はまさにガバメント・リーチの範囲にある。その投資規模と大まかな分野別の配分計画が示されたのだから、関係者が強い関心を示し、少しでも自分の関連分野に有利な数字を引き出そうとしたのは当然である。

 しかし、四全総の頃から、ガバメント・リーチの範囲内の政策が出てこなくなる。四全総では投資額の示し方が民間分を含めたものになっているのがその象徴だ。最後の計画「国土のグランドデザイン」になると、投資規模そのものが消えてしまった。こうして、計画は作ったものの、政府そのものが何をするのかが良く分からなくなっていった。これでは、世間の関心が低下していくのは当然であろう。

 09年12月に政府は「新成長戦略(基本方針)」を決定した。この中には、「2020年度の名目GDP650兆円」「環境・エネルギー分野で新規市場50兆円、新規雇用140万人」といった威勢の良い言葉が並んでいる。しかし、こうした目標がガバメント・リーチの中でのどのような政策に裏付けられているのかは不明である。現代の成長戦略の立案者たちは、62年当時の全総立案者たちが意識したガバメント・リーチの考え方をどの程度受け継いでいるのだろうか。それがないとすると、成長戦略の多くの目標は単なる「掛け声」に終わってしまうのではないか。

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(日本経済研究センター 主任研究員)


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