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小峰隆夫の地域から見る日本経済

2010年7月8日 中心市街地再生に医療機関の誘致を―地域から見た医療問題(その3)

 今回も、総合研究開発機構の「まちなか集積医療」研究会での議論が素材となっている。この研究会は、地方都市の中心部に医療施設を立地させることにより、医療サービスの効率的供給と中心市街地の活性化を同時解決しようという提案をしているのだが、その研究会で中川雅之日本大学教授から、経済学的に中心市街地の空洞化問題を解き明かす説明を聞いた。中川教授の許可を得て、今回はこのときの説明に基づいて中心市街地の空洞化問題を考えてみたい。

副都心誕生で都心に未利用地が発生

 ここで使用するのはエッジ・シティの理論である。図に基づいて説明しよう。図は横軸に都心からの距離、縦軸に土地に対する付け値(需要者が払っても良いと考える地代)を取ったものである。初期時点から考えると、RC0は商店の付け値を示す線(需要曲線と考えればよい)で、都心に近いほど高く、ある程度距離が離れるとゼロとなる。都心部は商店が立地する上で高く評価され、ある程度離れると立地する商店はなくなるということである。



 RH0は家計の付け値を示す。これも都心に近いほど高く、ある程度離れるとゼロとなる。都心部に近い住宅ほど便利な分高く評価され、ある程度離れると住む人はいなくなるということである。ただし、家計の線の傾きは商店よりは緩やかで、より遠くに伸びている。これは、都心部を高く評価する度合いは商店の方が大きく、都心から離れることによって評価が下がる度合いもまた商店のほうが大きいことを示している。

 商店の付け値線と家計の付け値線はAで交わっている。するとAより左の地域は、商店の付け値が家計の付け値を上回るから商店が立地し、Aより右側は家計の付け値が上回るので住宅が立地することになる。こうして、都心部には商店が立地し、その周辺に住宅が立地するという市街構造が形成されることになる。

 ここで右端の0'の地点に副都心が建設されたとする。すると、副都心を中心として、同じように商店と家計の付け値線が描かれる。それに伴って、副都心に一部の需要が取られてしまうため、従来の都心を中心とした付け値線は下方にシフトする。今度はCで商店と家計の付け値が交わる。Cから左は従来どおり商店が立地し、Aの右も従来通り住宅が立地する。理論どおりに進めば、AとCの間は商店から住宅への転用が進むはずである。

 しかしこの転換は完全には進まない。転換費用がかかるからだ。商店の建物にそのまま人が住むわけにはいかないから、建て直しが必要となるためだ。すると、AからCの一部は未利用地となってしまう。これが副都心の誕生によって、従来の都心の近くに未利用地が発生することを説明するエッジ・シティの理論である。

地方では郊外商業施設が副都心化

 以上のようなエッジ・シティの理論を中心市街地空洞化問題に応用してみよう。日本の地方都市では、中心市街地の空洞化が深刻な問題となっている。確かに、地方都市に行くと駅前のアーケード型の商店街が櫛の歯が抜けたようにさびれてしまっていることが多い。その理由としては、人口そのものが減少していることに加えて、モータリゼーションの進展で多くの顧客が郊外の大規模店にシフトしていることが考えられる。

 こうした状況は、前述のエッジ・シティの状況と同じである。すなわち、郊外に大型商業施設ができたために、従来の中心地付近での商店の付け値線が下方にシフトしたのだが、その転用が進まず中心地近くに空白地帯が生じる。その空白が空洞化した商店街だということである。

 これに対して多くの地域では、出て行った顧客を再び呼び戻して、中心部の商業施設を再活性化しようとしている。しかし、ここまでの議論からも分かるように、商業施設としての需要曲線が下方シフトしたから空洞化したことを考えると、再びかつてのような商業施設を中心地に呼び戻すことは難しい。かといって、住宅への転用が難しいために空白になっているのだから、住宅地としての再生も困難である。

 すると、商業施設以外の施設を誘致、建設してはどうかという考えにたどり着く。その施設として医療機関を考えてはどうかというのが、「まちなか集積医療」の提案なのである。

 私は、既に私が所属する大学院の授業でも、本欄で述べたように、エッジ・シティの議論を紹介した上で、中心市街地空洞化対策について考える講義を行ったことがある。私の所属する大学院は必ずしも経済学の素養がある人ばかりではない(むしろ少ない)ので、当初は「どれだけ興味を示すか」と疑問だった。だが、多くの院生たちが驚くほどの強い関心を示したので、私の方が驚いてしまったほどだ。これは、私にとっても、ある程度の理論を踏まえた政策提案がいかに有効で大切かを改めて知る良い機会となったのである。

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(日本経済研究センター 研究顧問)


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