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小峰隆夫の地域から見る日本経済

2011年10月17日 「デスティネーション・マネジメント」を実践せよ

 日本では今後も人口減少が続くことは避けられない。かつては地域の発展計画というと、最初に人口の展望があり、その人口がある程度増えるような見通しを想定することが常だった。しかし、今となっては、そんな計画は誰が見ても非現実的なものとなる。どの地域も、ある程度人口が減ることを前提に計画を立てる必要があるのだ。

 しかし、地域の人口が減ることは、どうしてもその地域の活力が失われることにつながりやすいし、元気が出にくいことも事実だ。そこで登場するのが「交流人口」を増やすことだ。定住人口は減っても、訪れてくる人が増えれば地域の活力は維持されやすい。こうした観点から、交流人口の増大を目標に掲げる地域が多くなっている。その手段としては、別荘地の開発、観光の促進、コンベンションや教育機関の誘致などが主なものである。

 私はかねてから、こうした交流人口の促進政策をもう少し体系的に整理できないものだろうかと考えていたのだが、そこで出会ったのが「デスティネーション・マネジメント」という考え方である。これは、目的地(デスティネーション)を自分の地域にしてもらうにはどんな政策が必要かという考え方で、欧米では既に1990年代から盛んに取り入れられているということだ。アジアにおいても、シンガポールや香港では、このデスティネーション・マネジメントに基づいて、観光組織、マーケティング、観光政策などが立案されているという。私もまだ学習中だが、その考え方はおおむね次のようなものである。

競争優位を通じた交流人口増加

 デスティネーション・マネジメントの基本は競争である。例えば、観光について言えば、観光客はどこかの地に行こうと考え、いろいろな要素を考慮して選択を行う。他方で、観光地を有する地域は、「選択される側」となるから、自分の地域と他の地域とのデスティネーション(目的地)をめぐる競争となる。

 自地域が選択されるためには、何らかの比較優位を持たなければならない。その比較優位を確保するためにはどのような戦略を持ち、それをどう政策的に実現していくか。そうした政策立案の枠組みを提供しようとするのがデスティネーション・マネジメントである。

 観光を例にしてデスティネーション・マネジメントの考え方を説明しよう。観光資源は「中核的な資源」と「補完的な資源」に分けることができる。

 中核的な観光資源というのは、その地域が人を引き付ける上でのコアとなる資源である。これには、自然、風土、気候、文化・歴史、イベント、エンターテイメントなどさまざまなものが考えられる。

 堺屋太一氏は、しばしば観光を振興する上での「アトラクティブス(人を引き付けるもの)」として、次の6つを指摘する。それは、「歴史(遺跡や史実の現場となったところ)」、「フィクション(物語や映画の舞台になったところ)」、「リズム&テイスト(音楽があり、おいしい食事が楽しめるところ)」、「ガール&ギャンブル(きれいな女性がいてゲーム性のあるところ)」、「サイト・シーイング(景色や気候のいいところ)」、「ショッピング(安くて品揃えが豊富なところ)」という6つである。

 デスティネーション・マネジメントの観点からは、こうした6つの要素は、いずれも中核的資源に当たる。

 補完的な資源というのは、中核的な資源の存在が、実際に人を引き付けるように機能する上で重要な役割を果たす資源である。ホテルなどの宿泊施設、交通インフラ(アクセスの容易さ)、ホスピタリティ(地域の人々の歓迎する気持ち)、企業活動(企業が中核資源を生かして活力を発揮しやすい環境)、政治的意思(地域の政治的指導者が本気で観光振興を考えているか)、治安といったものがそれである。

 補完的資源だけがあっても観光客は来ない(便利な飛行場があるからというだけでは人は集まらない)。また、立派な中核的資源があっても、補完的資源がこれをサポートしないとやはり観光客は来ないのである。

デスティネーション・マネジメントに基づく観光政策

 こうした概念に基づいて、競争力のあるデスティネーション力を実現させるための方策を検討していくことになるのだが、そのためのフレームワークとしては、図のようなものがある。これは、デスティネーション政策は、「デスティネーション力を高めるための計画」、「デスティネーションのマーケッティング」、「デスティネーションのマネジメント」という3つの柱からなるという考え方である。

 この図は、2007年にオーストラリアで開かれた”National Framework for Best Practice Destination Management Planning”というコンファランスに提出されたペーパーに基づいている。当時、オーストラリアの国内観光業には、国際競争力を失いつつあるという危機感があった。要するに、人々がオーストラリア国内観光ではなく、海外観光に出かけてしまうようになったのである。そこで何とかしようということになり、デスティネーション・マネジメントの考え方で観光振興策を練り上げようということになったのである。



 3つの柱の内容を説明しよう。「デスティネーション力を高めるための計画」としては、まず、観光地として観光客に認識させる地域を設定した上で(これをデスティネーション・エリアという)、@中核的資源が持つ潜在力についての評価、A全てのステークホルダー(政府、企業、住民など)とのコラボレーション、B補完的資源を充実させるためのインフラ投資、C地域における雇用創出に応えられるような人材の確保、D長期的な戦略の確定などが必要としている。

 「デスティネーション・マーケッティング」としては、@ターゲットとする顧客層の絞り込み、A地域ブランドの確立、Bターゲット市場層に対する働きかけ(PR)などが必要としている。

 最後に「デスティネーション・マネジメント」としては、@デスティネーション力の源となっている中核的資源の保全を図ること、A訪問者の体験の質を高めること、B地域における観光産業を育成することなどが必要としている。

 ざっと調べた限りでは、デスティネーション・マネジメントの内容はおおよそ以上のようなものである。最後に私の感想を述べておこう。

 第1に、デスティネーション・マネジメントの基本は、要するに「交流人口を増やすために、各ステークホルダーが目的意識を共有し、力を合わせていく必要がある」ということである。その意味では分かりきった結論になるのだが、目新しさがあるとすれば、交流人口増加のための戦略を立てるに際して、概念整理を明確化し、戦略に整合性を持たせるように工夫したことであろう。

 第2に、この点は多くの論者が指摘していることなのだが、デスティネーション・マネジメントの具体的な内容は、地域によって異なるということだ。これは、中核的資源の内容が各地域で独自のものなのだから、ある意味では当然だともいえる。したがって、デスティネーション・マネジメントの一般型のようなものは存在しない。あくまでも緩やかな統一概念に基づいて、各地域が練り上げていくしかないものである。

 第3に、デスティネーション・マネジメントの考え方は、日本においても有効であろう。多くの地域が交流人口の増大を目指した地域づくりを進めている。どうせ進めるのであれば、概念整理を明確化した上で戦略を練ったほうが効率的な促進策が可能となるだろう。

 もちろん、その基本は中核的資源の存在と、それを生かそうとする地域の熱意である。デスティネーション・マネジメントが交流人口増大の特効薬だというわけではないが、大きな手助けになるということは言えそうだと思われる。

(日本経済研究センター 研究顧問)

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