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小峰隆夫の地域から見る日本経済

2012年4月25日 地域から見る人口問題―大阪府人口減少社会白書から

日本経済研究センター研究顧問 小峰隆夫
 人口問題は、これからの地域の経済社会にとって最重要の課題となる。そこで「地域からの目線で人口問題への対応を考える」ということが必要になる。

 これを行ったのが、大阪府の「人口減少社会白書」である。これは大阪府が独自の手法で将来の人口を推計し、人口構造の変化の中で、大阪府が直面することになる課題と、それへの対応のあり方をまとめたものだ。私が知る限りでは、地方政府が独自に人口白書を出したのはこれが初めてではないかと思われる。

 人口問題への取り組みは、国、地方政府、企業、そして国民の一人ひとりが総力を挙げて取り組むべき課題だ。そうした意味からも、今回の大阪府の人口白書は先駆的な試みとして高く評価されるべきものだと思う。

 一読して、いろいろ考えさせられることも多かったのだが、その主なものを紹介しよう。

大阪における人口変化の特徴

 地域の人口変化は、都市部と地方部でその姿が異なる。地方部は出生率は都市部よりは高いのだが、就学、就職の際に都市部への人口移動が生ずるため、都市部に比べて人口減少がより速く進み、このため高齢化も高水準となる。

 しかし都市部においても、これまでに流入した人々の高齢化が進んでくるため、今後は地方部以上に高齢化のテンポが速くなることが予想されている。

 今回の白書によると、その都市部の中でも、大都市圏としては、大阪府は、人口構造の変化が最も先端的に進展することになりそうだ。白書では、大阪府の人口変化を、東京都、愛知県と比較しているのだが、次のようなことが明らかにされている。

 まず、大阪府が最も早く人口減少時代に突入する。すなわち、国立社会保障・人口問題研究所の推計(2007年)によると、人口が減り始めるのは、愛知県は2015年頃、東京都は2020年頃であるのに対して、大阪府は2005年頃とされている。

 高齢化についても、大阪府は急速かつ高レベルである。2035年の高齢者比率は、愛知が29.7%、東京が30.7%であるのに対して、大阪府は35.0%である。

 他方で、大阪の生産年齢人口の割合(人口オーナスの程度を示す)はかなり低下する。2035年の生産年齢人口比率は、東京都が61.4%、愛知県が59.9%であるのに対して、大阪府は55.6%である。

 今後日本全国で人口減少・高齢化、生産年齢人口比率の低下が進むことになるのだが、大都市圏の中では、大阪府が先頭に立ってその変化を経験することになるのである。

人口構成の変化と政策対応

 人口変化は地方政府にとっても大きな課題となる。今回の人口白書では、これまでと今後の大阪府の人口構成の変化が示されており、「団塊の世代」とその子供層にあたる「団塊ジュニア世代」が各年齢層を通過していく様子が描き出されている。これを見ていると、人口構成の変化と地域の経済社会は次のように推移することが考えられる。

 2010年代には団塊ジュニアが子育て期に入る一方で、団塊世代が徐々に退職期に入って行く。すると、保育需要が増え、通勤人口が減って行く可能性がある。

 2020年代には団塊ジュニアの子育てが終わり、団塊世代は全て高齢者となる。すると、女性の労働市場への再参入が始まる一方で、元気な高齢者が急増するだろう。

 2030年代には団塊ジュニアが中年となり、団塊世代は後期高齢者(75歳以上)となっていく。すると、医療、介護への需要が高まり、次第に高齢者の単独世帯が増えてくるだろう。

 2040年代には団塊ジュニアが高齢者入りするが、団塊世代は人生から退出していく。すると、一時的に医療、介護などの需要が減少する局面が来ることになりそうだ。

 地方行政は、こうした人口変化に伴う行政ニーズの変化を見据えて対応していくことが必要となる。

地域の高齢化 メリットとデメリット

 人口構造の変化は地域の経済社会に大きな影響を及ぼす。その影響は負の影響である場合がほとんどである。今回の大阪府の人口白書の大きな特徴は、こうした負の影響を指摘するだけではなく、人口変化を、これまでの大都市大阪が抱えてきた課題を変革する大きなチャンスだと捉えていることだ。その主な考え方を紹介しよう。

 第1は、生活に及ぼす影響である。高齢化の進展は当然ながら、医療・介護需要を増大させるから、それを支える人材を確保し、財源を捻出していかなければならなくなる。

 しかし、この機会を利用して元気な高齢者の社会参加を促せば、地域コミュニティの再生につなげることができるだろうし、就業と子育てが両立しうるような体制を整備していけば、男女共同参画社会の実現につなげていくことができるだろう。
第2は、経済に及ぼす影響である。生産年齢人口の減少は働き手の減少となって経済を制約することになるし、人口の減少は消費市場の縮小を招く。しかし、これを機に、付加価値の高い商品や海外市場を目指した商品の開発を進めたり、積極的に海外から高度な専門人材を呼び込んでいけば・将来の構造変化を先取りした経済へと進んでいくことができるだろう。

 第3は、都市に及ぼす影響である。人口が増加していく時代に形成されてきた都市基盤は、人口減少・高齢化時代にはそぐわない面が出てくるだろう。例えば、鉄道・バスなどの利用者は減少していくだろうから効率が低下する。そうした中で地域住民の移動手段をどう確保するかが問題となるだろう。人口増加に合わせて整備してきた種々の都市インフラも、次第に更新を迫られるようになり、維持費用も継続的に必要となる。住宅についても、人口構造が変わると、需給のミスマッチが多発するだろうし、高齢者用にバリアフリー化が必要になるだろう。

 しかしこれを機に、高齢者が暮らしやすいコンパクトな町づくりを進めれば、今後長期にわたる新時代の都市構造の基盤を整備していくことができるだろう。

 大阪府の人口減少白書からは以上のような課題と対応の方向が浮かび上がってくるのだが、良く考えてみるとが、こうした課題は、程度の差はあれ全国の都市部で共通に生じてくる課題である。都市部の中で人口構造の変化を先端的に受け止めることになる大阪府において、こうした課題への取り組みが行われていけば、それが全国の都市づくりの新モデルとなって行くことが期待される。

(2012年4月25日)

(日本経済研究センター 研究顧問)

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