日本経済研究センター JCER

西岡幸一の産業脈診

2014年9月26日 ソニーのいないCEATECの秋

日本経済研究センター研究顧問 西岡幸一
 産業や企業の盛衰を示す指標は政府・業界の統計や企業の決算報告など公的・客観的なものから私的・主観的なものまで多くある。各種のビジネスショウや展示会の動向もそのひとつであり、少し長い目で見ると貴重な情報を与えてくれる。出展社数やブースの大きさ、成約数、集客数などは統計で示される事実であり、会場の雰囲気の盛り上がりやメディアの関心度、話題性などは数値化されないが、業界や企業の勢いの方向を捉えている。業界が衰退しはじめるとまず海外からの参加が減り、日本の出展社も減る。無論、プロ、アマ問わず集客力も落ちる。出展を考える企業は国内よりも海外のショウに重点を移し、米国、ドイツ、中国などに向かう。

ゲームやアニメは堅調

 集客力や話題性などでまだ衰えを見せず、海外からの参加者も集めているのはゲームやアニメ、ロボットなどの展示会だ。会場は出展社と子供連れ家族、若者、それに内外のメーカー、起業家、投資家などが交流する異色の場となっている。製造業では精密機器や工作機械などが健闘し、食品は意外に集客力がある。

 日本の産業界を支える2大柱のうち、自動車は新年初めの北米自動車ショウや欧州、中国などの会場に軸足を置き始めているが、国内の展示会でも主力メーカーが勢ぞろいし、まだまだ健在だ。消費者の車離れが言われている中で、車のアクセサリーや代替部品などの展示会も集客力は侮れないものがある。

エレショウの衰退

 これに対して衰退がはっきりしているのはIT、エレクトロニクス関連だ。前身のエレクトロニクスショウ時代から、業界が全員集合で新商品や新技術をお披露目したCEATECの規模が、業界の業績低迷や市場競争力低下を反映してこのところ縮小傾向が止まらない。エレクトロニクス化が進んでいる自動車業界を取り込んでAV、IT、電子部品からカーエレクトロニクスに翼を広げたが再活性化の核にはなっていない。今年10月の同展示会にはソニー、日立製作所、インテルなどが不参加で、毎年お決まりの「秋のCEATEC」が業界の前途を問う「CEATECの秋」になった。

 参加社にしてみれば、限られた宣伝・広報予算の中で、投資効率や情報発信性を考えると海外の展示会に参加した方が有効だ。なにせ顧客は個人でも法人でも、今や国内よりも海外が主力だ。しかも米欧の先進国市場だけでなく中国、東南アジアや南米など新興国市場が急激に拡大しているので、お祭り気分が強い国内の展示会よりも、1月のラスベガスのCES(コンシューマー・エレクトロニクスショウ)や同じ秋ならベルリンのIFAショウを優先。さらに上海、東南アジアなどでのショウに参加した方が社業に直結する、と考える。つまり国内市場の魅力度の低下、国内メーカーの長期不振の悪循環でCEATECの空洞化が進行している。

ウォークマンはいずこ

 とりわけ今年はソニーの参加見送りが象徴的だ。技術の先進性やブランド力さらには情報発信の巧みさで、質、量ともに家電系のエレクトロニクスの展示会をリードしてきたのは実質的にソニーとパナソニックだ。トランジスタラジオの時代からベータマックス、トリニトロン、ウォークマン、DVD、AIBOなど技術革新の節目で耳目を集める話題を提供してきた。

 それがエレクトロニクス事業の構造的な赤字状態にあり、その建て直しのためテレビ事業の分社化、パソコンVAIO事業の売却などリストラを進めている最中。上場以来初の無配に転落する。経費削減の一環であり、危機意識を浸透させる意味でも見送りはやむを得ないかもしれないが、一方で9月のベルリンの国際エレクトロニクスショウIFAには例年通り積極的に参加している。コストパフォーマンスを比較して冷徹に集中と選択を実行した格好だ。

10年前の夢のあと

 10年前のCEATECでは、シャープが仕掛けた亀山ブランド液晶テレビが闊歩し、65インチなど大型化を驀進する液晶テレビ陣営とプラズマテレビ陣営が激しくぶつかった。キヤノンと東芝が共同戦線を組んだ新型の薄型テレビSEDのお披露目、ブルーレイとHDDVDの激突など、坂道を下り始めていたとはいえ、企業体力と技術力で世界市場をうかがう国産メーカーの活力がほとばしっていた。半導体メーカーも顔を出していた。わずか10年で常連だった三洋電機、日本ビクターなどの名前が消え、ソニーや日立も顔を見せない。パナソニックやシャープはまだ病み上がり状態だ。それを埋め合わせる国際化が進んだかといえば、海外勢の取り込みも不十分だ。

 では最大のブースを設営するのはどこか。パナソニックでも東芝でも富士通でもない。三菱電機である。長らく日立、東芝に次ぐ総合電機3位が指定席といわれたが、FA(ファクトリー・オートメーション)、昇降機、電装品、宇宙防衛関連を柱に重電系に事業をシフトし、着実に業績を伸ばしている三菱が家電・IT系の最大の展示会を主導する、いわば意外な事実に、日本のエレクトロニクス業界の実態が反映されている。

存在感高める電子部品

 忘れてはならないのは、セットメーカーの著しい退潮をしり目に、電子部品メーカーの存在感は高まっていることだ。村田製作所、京セラ、TDKをはじめ、部品メーカーの顧客は生産拠点を海外に移転させているが、マザー工場や設計拠点は国内にとどまっていることや人材の確保などから、国内の展示会に注力する姿勢は崩していない。おそらくこの10年、CEATECを活用して最も効果を上げたのは、綱渡りをするロボット「村田セイサク君」で来場者の人気を集めた村田製作所だろう。セイサク君の妹のセイコちゃんもデビューさせてセンサーや制御技術力をアピールした。投資家の間ではよく知られている同社だが、京都が基盤のため首都圏の学生、消費者の間での知名度がいまひとつだった。それが、このところ就職希望者やインターン希望者が大幅に増えたという。 

(2014年9月26日)


(日本経済研究センター研究顧問)