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齋藤潤の経済バーズアイ

2013年9月18日 超高齢社会が開催するオリンピック

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日本経済研究センター研究顧問 齋藤潤
 2020年に東京でオリンピック及びパラリンピックが開催されることが決まりました。1964年に開催されて以来、56年振りに開催される夏季オリンピックとなります。

 前回のオリンピックは、日本経済の大きな曲がり角に当たる時期での開催でした。今度のオリンピックはどのような時期に開催されることになるのでしょうか、またその機会をどのように活かすべきでしょうか。今回は、そのことを考えてみたいと思います。

【1964年という年】

 東京オリンピックが開催された1964年という年は、日本経済が高度経済成長を遂げる中で蓄えた経済力を背景に、先進国としての地位を国際社会において固めた年でした。この年の4月に日本は先進国クラブである経済協力開発機構(OECD)への加盟を果たしました。また同じく4月には、国際通貨基金(IMF)の8条国(経常取引に対する為替管理の撤廃等)に移行し、外国為替予算制度を廃止しました。また、海外旅行が自由化されたのもこの年です。これらを受けて、9月には東京でIMF・世銀の年次総会を開催しました。

 他方、1964年という年は、日本経済にとっては大きな転換点でもありました。オリンピック直後から日本経済は、「(昭和)40年不況」、「構造不況」「典型期」と呼ばれることになる不況(1964年10月から1965年10月)に陥ります。この不況期間中、山一証券や山陽特殊鋼が破綻し、日銀が戦後初めて特別融資を行いました。また、証券不況に対応するため、株式買取機関が設立されました。そして、この年、初めて国債(1965年度は特例国債)が発行され、それ以降、国債発行(1966年度から建設国債、1975年度から建設国債)が常態化することになります。

 この不況も1年で終息し、1966年以降になると、高度成長期の第二期に入っていきます。この第二期は、第一期が「投資が投資を呼ぶ」内需主導型であったのに対して、外需主導型の高度成長でした。これ以降、いわゆる「国際収支の天井」から解放され、経常収支が黒字化するとともに、外貨準備が増加し始めることになります。

 このように、戦後復興から高度成長を果たして先進国の仲間入りをするという日本経済の一つの頂点の時期であるとともに、国債発行と外需主導型経済成長という、現在直面する大きな問題につながるような現象が初めて現出するようになった端緒の時期でもあったのが、1964年という年だったのです。

【2020年という年】

 それでは、2020年はどのような年になりそうでしょうか。

 政府は成長戦略を通して、デフレから脱却し、経済成長率を2%台に高めるとともに、物価上昇率も2%に安定化させるシナリオを描いています。また、財政面でも、2020年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化し、それ以降、政府債務残高のGDP比率を次第に引き下げていくとしています。

 このように、日本経済が「正常化」するなかで、オリンピックが開催されるとしたら、1964年のオリンピックと同じように、大きな課題を果たした後の晴れがましい気分で迎えることができるでしょう。また、それが契機となって、新しい飛躍につながっていくかもしれません。

 しかし、いうまでもなく、そのような状況を実現することは容易なことではありません。成長戦略の中身もまだ流動的ですし、すでに決まったものも、これから法制化されるのを待っています。また、2020年を目標年次とする財政再建のためには、今回の消費税率の引き上げだけでは十分ではなく、追加的な措置が取られる必要がありますが、それについては議論も始まっていないのが現状です。そうした中、長年黒字を続けてきた経常収支も、2020年頃には赤字化する可能性があります(当センター第39回中期予測を参照)。

 実際には多くの課題を抱えながらオリンピックを迎えることになりそうです。この点は、前回のオリンピック開催時とは大きく異なる点です。

【超高齢社会での2020年オリンピック】

 加えて、1964年と2020年とで大きく異なるのは、人口構造です。

 1964年の総人口は9718万人で、そのうち0〜14歳が26.3%、15〜64歳が67.5%で、65歳以上は6.2%でした。仮に5万人の収容能力を持つ国立競技場に年齢別に入場したとすると、この年には14歳以下が1万3150人であるのに対して、65歳以上は3100人しかいなかったことになります。

 しかし、将来人口推計によると、2020年の総人口は1億2410万人で、そのうち0〜14歳が11.7%、15〜64歳が59.2%、65歳以上は29.1%になっていると見込まれています。仮に8万人の新国立競技場に年齢別で入場したとすると、14歳以下が約9360人であるのに対して、65歳以上は約2万3280人にも達することになります。国立競技場の収容能力が1.5倍以上になるのに対して、14歳以下の子供が3割近く減ることになるのです。

 このような超高齢社会(65歳以上人口の総人口に対する比率である高齢化率が21%以上の社会のこと)で「若人の祭典」オリンピックを開催するのはもちろん初めてです。前回のオリンピックを開催した英国でさえ高齢化率は、2010年で16.4%でした。

【次世代のためにオリンピックを役立てるには】

 オリンピックはもちろん人種、性別、年齢を超えた全ての人たちのためのものです。しかし、折角の2020年の東京オリンピックを、「超高齢社会」にありながら、若い人たちの将来のために活かすためには、どのようにすればいいのでしょうか。選手を育成することはもちろんですが、ここでは特に選手以外の若い人たちのことを念頭に考えてみましょう。

 第1に、これを機会に積極的に外国人を日本に呼び込むことです。「外に出る」国際化は海外旅行の自由化や円高を契機に進みましたが、「内に入れる」国際化にはまだ余地があります。日本に呼び込まれた外国人の中には、日本の魅力に改めて気づき、日本で経済活動をしようとする人材も出てくるかもしれません。

 ここでいう日本の魅力には、文化面や社会面だけではなく、経済面の魅力も含まれます。日本には他国に見られない経済面での特徴があるからです。これを私は、日本のビジネス環境の”PQRST”と言っています。PQRSTとは、Punctuality(時間的正確さ)、 Quality(品質の良さ)、 Reliability(契約の信頼性)、 Safety(生活・製品の安全性)、そしてTransparency(経済取引の透明性)の頭文字をとったものです。こうした特徴を併せ持った日本は、外国人にもビジネスを安心して行う絶好の環境を提供する場だと思います。

 第2に、日本の若者に、日本を訪れる外国人と積極的に交流する機会を与え、マインドを外向きにすることです。最近の若者はよく「内向き」だと言いますが、留学や海外赴任をしなければ「外向き」ではない、ということにはならないと思います。訪日外国人との交流を促進することで、日本に居ながらにして「外向き」になることもできるはずです。

 そのためには、訪日外国人を職場(インターンシップ)、学校(留学)、地域(ボランティア)に招き入れ、若者が異文化に触れる機会を増やすことを考えるべきです。また、そうした試みの一環として、例えばオリンピック関連の諸行事には年齢枠(「若者優先枠」)を設けるなどして、若い人たちに積極的に交流の場を提供する方法を工夫すべきだと思います。

 第3に、外国人と交流する際に活かすためにも、若い人が世界に関する知識や国際化のためのノウハウを蓄積できるよう、意識的に努めることです。学校を中心に、職場や地域でも、こうした努力をするべきです。オリンピックというまたとない教材とインセンティブがあるわけで、これを活かさないでおく手はないと思います。

 こうした努力を積み重ねていく中で、日本の若者の吸収力、発信力や創造力が一段と高まっていけば、日本は世界の中で孤立する老大国としてではなく、世界の人材、資金、技術が躍動的に行き交うハブとして発展する途が拓けてくるのではないでしょうか。2020年の東京オリンピックをそのような場として位置付けられればと思っています。

(2013年9月18日)


(日本経済研究センター研究顧問)

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