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齋藤潤の経済バーズアイ

2017年11月24日 民営化によってどれほど「民営化」しているのか

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日本経済研究センター研究顧問 齋藤潤
【民営化の諸段階】
 1980年代半ば以降、それまでは公社などの形態をとりながら政府が直接運営してきた事業について、民営化が進められてきました。1985年4月の日本電信電話公社の民営化に始まり、1987年4月には日本国有鉄道の民営化が行われました。最近の事例としては、2007年10月の郵政三事業の民営化が挙げられます。

 しかし、ひとことで「民営化」といっても、実はそこには株式の保有状況や事業運営の自由度からみて、様々な段階のものが含まれているように思います。あえて私なりに分類してみると、株式会社化、部分民営化、完全民営化、一般民間会社化といった段階のものが、ひとくくりに「民営化」と称されているように思われます(図表参照)。そこで、以下では、これらの諸段階の特徴と、その存在理由について考えてみたいと思います。



【株式会社化の段階】
 民営化の場合、最終的にどのような段階まで進むにしても、必ず通らなければならないのが「株式会社化」の段階です。国有事業を株式会社に再編成することがその内容です。通常、この株式会社化にあたっては、特別法が制定されるので、こうした会社は「特殊会社」とも呼ばれます。

 株式会社化の場合、当該企業の株式が民間に保有されているわけではありません。むしろ、基本的には政府によってその株式の100%が保有されているような状態にあります。ここには、特別法では全ての株式を保有する必要はないにもかかわらず(例えば二分の一以上、あるいは三分の一超の保有があれば良い)、とりあえず100%保有されている特殊会社が含まれます。これに該当するのは、日本政策投資銀行や中日本、東日本、西日本の高速道路株式会社などです。

 しかし、同時に、特別法によって株式の100%が政府よって保有されることが求められているような会社もあります。日本政策金融公庫、国際協力銀行などがその例です。

 仮にその株式が100%政府によって保有されているにしても、効率化の観点からは国有事業であるよりも好ましい状態にあると言えます。特に株式会社になると財務諸表を現金主義ではなく発生主義で作成しなければならなくなります。財務状況の透明性や効率化へのインセンティブという意味では利点があります。

 しかし、他方で、100%国有だと、様々な問題が生じる可能性があります。例えば、最終的には政府が救済してくれるという甘えが生じると、経営規律にゆるみが出てきます(モラルハザード)。また、競争条件からすると、それが競合他社と同一になっていない(イコールフッティングになっていない)という懸念も生じます。やはり、民営化のメリットは、株式が民間に売却されて初めてフルに発揮されることになると考えられます。

【部分民営化の段階】
 次の段階は、「部分民営化」です。これは、株式の一部は民間に売却されているものの、政府がまだ残りの株式を保有しているような段階を指します。

 ここには、特別法によって政府にその一部の保有が義務付けられていて(例えば、二分の一以上、あるいは三分の一超)、実際にその最低限だけを保有している場合が含まれます。例えば、日本電信電話株式会社(NTT)や日本たばこ株式会社(JT)がこれにあたります。また、民間への株式売却が始まっているものの、まだ政府が必要最低限を上回る株式を保有している場合も含まれます。これに該当するのは、日本郵政株式会社(JP)です。

 部分民営化であっても、民間の株式保有者から効率化インセンティブが与えられるはずです。しかし、政府が二分の一以上の株式を保有していれば、株主総会で普通決議を阻止できます。また政府が三分の一超の株式を保有していれば、株主総会で特別決議を阻止できます。したがって、民間の株式保有者の意思だけで経営の内容を決定することはできず、効率化という点ではまだ制約があることになります。

【完全民営化の段階】
 第3の段階は、「完全民営化」です。これは、株式の100%が民間に売却され、政府の保有がなくなった状態です。

 この段階まで進んだ例としては、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、東海旅客鉄道株式会社(JR東海)、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)の他、日本航空株式会社(JAL)があります。これらの会社については、設立根拠となった法律の適用対象からはずされたり(JR各社の場合)、法律そのものが廃止されたりしています(JALの場合)。

 この段階までくると、民間株主は当該会社の経営について自由な意思決定をすることができます。株式保有という観点からすれば、民営化の究極の姿だと言えます。

 ただし、完全民営化された企業であっても、多くの場合、当該事業分野を対象にした個別事業法の下で、料金規制などの規制を受けています。その意味では、完全民営化された企業であっても、完全に自由に事業活動ができるわけではありません。その意味で、次の段階とは区別されます。

【一般民間会社化の段階】
 最後の段階である「一般民間会社化」に含まれるのは、100%民間保有の株式会社になっているうえに、料金規制の対象にもなっていないような企業です。

 殖産興業時代に創業した官営八幡製鐵所や富岡製糸場が払い下げられた以降の状態は、この段階に対応していると考えられます。また最近でいうと、東北開発株式会社などが数少ない例のひとつとして挙げられます。

【政府はなぜ株式を保有する必要があるのか】
 完全民営化に至っていない特殊会社については、政府が全部あるいは一部の株式を保有していることは既に見た通りです。

 そうした特殊会社のうち、根拠法に定められた最低限度の比率を上回る株式を保有している場合には、基本的には売却が予定されていると考えることができます。もちろん、売却の時期については、株式市場の動向などを勘案して決定される必要があります。売却収入が最大化されることは財政上は好ましいわけですが、売却額がしばしば多額になるので、株式市場を混乱させないようにする必要もあります。実際、日本郵政株式会社の株式など、時間をかけて徐々に売却されてきています(なお、政府が必要最低限度以上に保有している株式については、2018年度中に全額売却されることが決まったとの報道が先日ありました)。

 しかし、そもそも、根拠法でなぜ一定の株式保有を政府に義務付けているのでしょうか。

 政府系金融機関の場合には、100%の株式所有を義務付けていることは既に見た通りですが、これは、政府系金融機関を通じて、融資額や貸付金利に影響を与え、一定の政策目的を追求することを可能にするためだと考えることができます。

 また、日本郵政株式会社の場合には、政府が株式の三分の一超を保有することを義務づけられています。また、実は日本郵政株式会社は持株会社であって、その傘下には日本郵便株式会社がありますが、日本郵政株式会社は、この日本郵便株式会社の株式を100%保有することも義務付けられています。他方、同じく傘下にある株式会社ゆうちょ銀行と株式会社かんぽ生命保険の株式については、保有義務がありません。現在保有している株式も、いずれ売却されることが予定されています。

 同様に、日本電信電話株式会社(NTT)も持株会社であって、その傘下にある東日本電信電話株式会社(NTT東日本)と西日本電信電話株式会社(NTT西日本)の株式を100%保有することを義務付けられていますが、同じく傘下にある株式会社NTTドコモの株式を保有する義務はありません(ただし、NTTはNTTドコモの株式を依然として保有してはいます)。

 政府がこのように特殊会社の株式を保有しているのは、全国にあまねくサービスを行き渡らせるというユニバーサルサービスを確保する必要があるためだと考えられます。郵便や電話のようなユニバーサルサービスは、コストがかかるわりには利益にならないので、収益性の観点からすると、放棄される可能性があります。政府が株式を保有するのは、そのユニバーサルサービスの確保を担保するためだと考えられます。

【なぜ料金規制が必要なのか】
 それでは、なぜ完全民営化された場合にも、料金規制が課されるのでしょうか。

 政府の料金規制が行われているような分野は、しばしば「公益事業」と呼ばれています。そして、その公益事業に対して料金規制が行われているのは、経済学的に考えると、その産業では平均費用が逓減し、最終的には自然独占に至ってしまうような性格を有しているからです。独占の弊害を最小化するために、政府が料金規制を課す必要があるわけです。そうであれば、完全民営化したといっても、そうした分野で事業を行う以上は、料金規制が課されるのは止むを得ないことになります。

 他方、東北地方の開発を目的に設立された東北開発株式会社のように、事業分野が必ずしも自然独占的な性格を持っているわけではない場合もあります。その場合、完全民営化すると、料金規制の対象にはならないことになります。実際、東北開発株式会社の場合には、料金規制の対象にはならず、最終的には民間企業と合併し、その使命を終えました。

【民営化概念への新たな挑戦】
 以上、民営化の諸段階を見てきました。ひとことで「民営化」といっても、かなり性格の異なる段階が含まれていることが理解頂けたのではないかと思います。

 ところで、ここでは、政府と民間企業の関係のなかで民営化企業を位置づけてきました。しかし、最近になって、それでは片付かない、新たな次元の問題が登場してきました。日本銀行による株式保有です。

 日本銀行は、2013年に開始した量的・質的金融緩和の一環として、ETF(Exchange Traded Funds:上場投資信託)の購入を続けています。その結果、日本銀行は、相当数の企業の大株主になってきています。

 しかし、考えてみますと、日本銀行は、政府が55%の出資をしている公的金融機関です。したがって、日本銀行が大株主になっている企業は、間接的に政府の所有になっているという見方もできます。

 このような企業をどのように位置付けるのか。日本銀行としては、これにどのように対応すべきなのか。こうした問題に対する解答を出すのが、政策当局者に課された新たな宿題であるように思います。

(2017年11月24日)


(日本経済研究センター研究顧問)


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