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竹中平蔵のポリシー・スクール

2013年2月20日 政策のイノベーション―“成長戦略”の要件A

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日本経済研究センター研究顧問 竹中平蔵
 前回は、アベノミクスの中核を担わねばならない「成長戦略」について、基本的な要件を議論した。成長戦略の基本はマクロ経済政策を整備し、良好なマクロ環境を作り出すことだ。そのうえで、成長戦略に“打ち出の小槌”は存在せず、政府は民間部門に、より多くの自由を与え、可能な限り税負担を低く保つことであると述べた。またそれとの関連で、中国・ロシアなどの国家資本主義とどう向き合うのか、という指摘も行った。

 今回は過去の論議を例にとって、成長戦略についてさらに議論を深めたい。

7年7つの成長戦略

 前回、筆者が経済財政政策担当であった時代、「成長戦略は作らなかった」と指摘した。成長戦略が明示的に議論されるようになったのは、2006年経済産業省が「新経済成長戦略」を作成して以降のことだ。これは同年7月に、「新経済成長戦略大綱」として閣議決定される。2008年には、そのフォローアップと改定が行われ、「新経済戦略大綱2008年改訂版」として閣議決定された。なおこの間2007年4月には、成長戦略とは呼ばないものの経済財政諮問会議において「成長力加速プログラム」が決定され、同年の骨太方針に織り込まれている。2009年の総選挙で政権交代がなされたが、民主党政権でも同年12月に「新成長戦略基本方針」が決められ、翌2010年6月には「新成長戦略」として公表された。2011年1月には、同戦略を実現するためのプロセスを詳しく示すための「新成長戦略実現」が、同じく閣議決定されている。そして最近では野田内閣が、2012年7月に「日本再生戦略」を公表している。

 要するに、基本方針やフォローアップ、改定などを含めると、過去7年に7つの成長戦略が公表されてきたことになる。にもかかわらず、日本経済の地盤沈下は一貫して続いてきた。この間、リーマン・ショックや東日本大震災があったことを割り引くとしても、やはり従来の成長戦略が決して十分なものでなかったことは否定できない。

いくつかの工夫は評価

 しかしながら従来の経済成長戦略を読むと、それなりに工夫が凝らされている点は評価する必要がある。例えば最初の2006年新経済成長戦略大綱では、マクロ経済の成長とミクロ政策の関係を明確に示している。今後10年間で年率2.2%以上の実質経済成長を視野に、技術革新を通じた競争力強化、生産性向上等により成長率は0.2%程度以上上昇。IT革新を通じた経営力強化・コンテンツ市場拡大等により0.4%程度以上、サービス産業の革新を通じた生産性向上・重点サービス市場拡大等により0.4%程度以上 、若者・女性・高齢者の労働参加率上昇、人材の質の向上等により0.4%程度以上、それぞれ成長引き上げ効果があることを明らかにしている。

 2008年改訂版は、プランをさらに詳細なものとしたものであり、その結果分量自体が100ページを超すボリュームとなっている。注目されるのは、行程表を明確にし、かつ5年、8年、10年後にいたる具体的な行程を示していることだ。

 また民主党政権下の2010年新成長戦略でも、一つの明確な工夫がなされている。それは、7つの戦略分野について、数値目標を明確にしていることだ。例えば、「ライフ・イノベーションによる健康大国戦略」を一つの分野として掲げているが、2020 年までの目標として、『医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出、新規市場約50 兆円、新規雇用284 万人』を明確にしている。また「農林水産分野の成長産業化」を掲げるに当たっては、2020 年までの目標として『食料自給率50%』、『木材自給率50%以上』、『農林水産物・食品の輸出額を2.2 倍の1兆円』(2017 年まで)などを示している。その計算根拠はともかくとして、いずれも野心的に目指すところを明確化しようとしている。さらに、進捗をチェックするシステムとして、きめ細かい工程表を作っている。戦略公表後、1年・3年・10年の工程を明確にし、さらに翌年の「新成長戦略実現2011」では21の国家戦略プロジェクトごとに進捗と課題をチェックする作業を行っているのだ。にもかかわらず、日本の経済を成長させるという目的を達してはいないのである。

「画期的な政策」が必要

 今回の安倍内閣における成長戦略に期待がかかっているが、以上のような点を踏まえると、成果を残せるような成長戦略を描き公表するのは容易なことではない。明確な目標を示し、そのための政策を議論し、工程表を明確にして進捗をチェックする―。こうしたことは、過去の成長戦略においてもなされていたのである。結局重要なのは、従来なされてこなかったような「画期的な政策」を行えるかどうかにかかっている。

 画期的な政策とは、たとえば郵政民営化のように理論上多くのメリットがあると分かっていながら、利害関係者の強力な反対があるためにできない政策である。農業でいうなら、農地集約による生産性の大幅上昇を可能にするような抜本措置(株式会社の自由な参入など)、イノベーションに関しては独立行政法人への運営交付金に思い切った競争原理を導入する(競争的研究資金への切り替え)などが挙げられる。こうした政策は、民間委員の間でさえ容易に合意は得られない性格のものだ。特に日本の審議会のような場合、直接の利害関係者(補助金の受給者など当事者)を民間委員に含めるため、合意を得ることは困難だ。結局のところ、少数意見でも必要なものは採用して突破するという、政治的リーダーシップが必要になる。

 農業の議論も長くなされている。その成長力を高め自立への道を明確にしない限り、環太平洋経済連携協定(TPP)などに関係なく日本農業は衰退する一方だ。しかし、明るい兆候もある。最近になって第6次産業(1+2+3次産業)という表現があるが、これは2002年の特区導入などで株式会社が農業(第1次産業)に接近するチャンスを得、それが加工(2次)、流通・外食(3次)へと広がっていったからだ。その意味で、「特区」という政策上のイノベーションが、今日の可能性を開いた。

 有効な成長戦略を作成し実行するには、まず何より政治の強いコミットメントが求められる。その上で、かつての特区で突破口を開いたように、政策つくりにおける新しい試み=イノベーションが求められる。

(2013年2月20日)


(日本経済研究センター 研究顧問)

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