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2013年6月24日 久々の「骨太方針」をどう読むか?

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日本経済研究センター研究顧問 竹中平蔵
 6月14日、「経済財政運営の基本方針」、いわゆる骨太の方針が決定された。骨太方針は、2001年に小泉内閣で始まった試みであり、その後2009年まで毎年続けられたが、民主党政権の過去3年間は作られなかった。その意味で4年ぶりの骨太方針である。ただし今回は以前のものといくつか違う点もある。久々の骨太方針をどう読むべきか、検討しよう。

骨太の意義:「大所高所」プラス「詳細」も

 2001年というのは、日本の政策決定過程を考えるうえで大変重要な転機の年だった。橋本行革において、中央省庁の再編が決定されたが、それが実行に移されたのが2001年1月のことだった。経済官庁に関して言えば、これをきっかけに大蔵省が財務省と金融庁に分かれ、経済企画庁などが新たな「内閣府」として生まれ変わった。そして、総理主導の政策決定を可能にする仕組みとして、内閣府設置法において「経済財政諮問会議」が必置の会議として設けられることになった。

 この年に小泉内閣が発足し、5年5カ月の長期政権を築くが、発足は4月26日のことである。したがって経済財政諮問会議は、すでにその3カ月前にスタートしていたのである。この時期、つまり森内閣末期の経済財政諮問会議で、当時の財務大臣宮沢喜一氏が次のような趣旨の発言をしたことが議事録に残されている。

「予算の詳細は我々財務省が担うので、この諮問会議では大所高所からの議論、つまり骨太な議論をして頂きたい。」

 経済財政諮問会議が発足した当初、それまで予算編成を通して大きな影響力を行使してきた財務省(旧大蔵省)がどこまで力をもち続けるか、総理主導がどこまで実現できるか、大きな関心事だった。宮沢氏の発言には、諮問会議に予算の詳細に立ち入らせないという財務省的な考えが滲む。その意味で骨太方針という言葉は、当初、あまり政策の細部に立ち入らないというネガティブな意味が込められていた。とにかく小泉内閣発足の時点で諮問会議は、「夏に骨太方針を発表する」ということだけが決められていた。

 これを受けて小泉内閣では、骨太方針という器を残したまま、その中身を変えるという行動をとった。大所高所の議論はするが、加えて政策の詳細についてもここで議論することとしたのだ。政策決定のプロセスは、時間の経緯の中で各プレーヤーの思惑や行動が積み重なり、次第にできあがっていく。従って、決して当初から想定されていたわけではないが、骨太方針の決定によって経済政策に関し次のような効果が見られるようになった。

 第1は、予算編成と政策論議が切り離され、オープンな政策論議ができるようになったことだ。

 すべての政策には何らかの予算措置が要る。したがってそれ以前はどうしても、予算編成と同時に政策も決まる、予算編成のドサクサの中で政策が決まる、ということになった。しかし骨太の方針を予算とは切り離して夏に決めること、かつオープンな経済財政諮問会議で議論することで、より透明な政策論議が可能になった。

 第2は、それ以前は予算を担当する大蔵省が必然的に政策面でも大きな力を持ったが、それを総理主導に変えたことだ。総理が議長を務める諮問会議で議論し、最終的に総理指示が出せる仕組みが機能するようになったのだ。

今回の方針:見えない財政再建シナリオ

 それでは以上のような経緯を踏まえて、今回の骨太方針をどう読めばいいのか。最大のポイントは、とにかく骨太が閣議決定されたこと、4年ぶりに復活した、ということだろう。民主党政権も、骨太方針の重要性を理解していなかった訳ではない。経済財政諮問会議よりも強い機能と権限を持つ国家戦略局を設ける、という構想があった。しかし現実に、様々な事情からこうしたことは実現しなかった。結果的に政権の経済政策は混乱し、かつ終盤は極めて官僚主導の強いものとなったのだ。その意味で今回、4年ぶりに骨太方針を復活させた(これは安倍総理が自民党総裁選で公約したことでもある)ことの意義は大きい。

 しかし今回の骨太は、従来のものと違う性格を持っている。特徴として今回の文書は、ページにして36ページと極めて短い(以前は、その時々で異なるが60-100ページ)。従来の骨太の機能が分散されているからだ。これが第2のポイントである。その理由の一つは、構造改革に関する部分の多くが「成長戦略」という形で骨太方針の枠外で決められたことだ。逆にこの成長戦略では、各省にまたがる多くの問題が取り上げられ、報告書も94ページにのぼる。したがって評価に当たっては、骨太方針と成長戦略を併せて評価する必要がある。その意味で骨太本体は、経済と財政のマクロ運営に絞られているが、実はその割に踏み込んだ記述が少ない。特に、注目される財政再建のシナリオについては、これまでと同様のおおまかなシナリオ(2020年度に基礎的財政収支黒字化)と、社会保障の見直しを謳っていることが目立つ程度だ。詳細のシナリオは、参院選後に「中期財政計画」として公表することを約束するに留まっている。

 ここで一点、細部ながらも気になる点がある。それは、骨太に示された唯一の数値目標、実質2%・名目3%成長という値についてである。言うまでもなくこれは、GDPデフレーターの伸びを1%と想定している。一方で日銀との間では、物価(消費者物価)上昇率目標を2%としている。デフレ下においてGDPデフレーターの伸びはCPIを下回る傾向があるが、それにしても1%の差を説明することができるのか。ましてや、デフレは徐々に克服されていくというシナリオだったはずだ。バブル崩壊以前はGDPデフレーターとCPIはほとんど同じ動きをしており、今回のようなかい離について十分な説明がなされねばならない。

 これまでの様々な試算から、名目GDPが高く伸びれば税の自然増収が進み、増税の必要性は一気に低下することが明かになっている。景気回復期における租税弾性値は3ないし4という高い値になるからだ。名目GDPをあえて低く見せることによって増税の必要性を強調しようという、財政当局の強い意志が背後で働いているのだろうか。もしもそうであるなら、せっかくの骨太復活で政治主導を回復して欲しいという期待に、早くも背くことになってしまう。

(2013年6月24日)


(日本経済研究センター 研究顧問)

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