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竹内淳一郎の景気公論

2010年11月4日 就職戦線異常あり―新卒に多くのライバル

 大方の企業は、10月1日に内定式を催す。昼間は大手町界隈で初々しいスーツ姿を、夜は神田付近で懇談会らしき盛り上がりの様子を見かけた。この間、なお相当数の4年生が内定を得られず、就職活動(就活)を続けている。政府によると、今年3月に卒業した未就職者数は、前年の1.7倍の約7.5万人にも上る(高卒・大卒計)。また、就職をせずに留年した大学生は、11.7万人と前年から1.8万人(いわゆる“就職留年”者の近似値)も増加した。

“就職戦線” 薄日射すか?

 来春の就職戦線では、その1年先の2012年に入社する学生が対象となる。企業の採用人数は、本来、安定的かつ計画的に決められるべき事柄である。

 もっとも、本邦企業の採用計画は、多分に目先の景況感に左右される。このため、採用人数は景気循環にやや遅れつつ、大きく振幅する。よって、学生側からみれば、わずか数年の卒業時期の違いによって、就職活動の“風景” がかなり異なる。このことは、毎日コミュニケーションズが「あなたの就職活動を漢字1文字で表すと?」という各年のアンケート調査結果からも見て取れる。04年(卒業は05年春)〜08年までは「楽」がトップであったが、09年と10年は「苦」が1位となった。再び、「氷河期」を迎えていることが示されている。数十社も受けて、内定を得られなければ、自信を喪失し、社会への不信感を募らせることが容易に想像される。

 さて、来春の市場はどうか。わが国では、少子高齢化が確実に進展する。企業が労働力確保に走ってもよさそうなものである。残念ながら、国内の成長期待が低下しているほか、企業の雇用過剰感が根強いうえに、景気の先行き不透明感も増している。こうしてみると、企業の採用計画は引き続き慎重(=前年並み)となる可能性が高い。このように採用枠が細る中で、新卒生にとっては、次に見るようなライバルの出現が、“狭き門” をさらに狭めかねない。

新卒にますます環境厳しく

(1)高齢者
 企業は近年、行政の働きかけなどもあり、高齢者の活用を進めている。給与水準だけを比較すれば、再雇用者の給与水準が現役時に比べ大幅に引き下げられても、新卒を上回る。もっとも、高齢者の有する技能は即戦力であり、生産性対比でみて、高齢者の賃金が新卒より高いとは言えない。加えて、再雇用者の予想される延長期間は、最大5年と割り切れる。解雇法制が厳しいわが国では、新卒には、40年近い雇用保証が必要となる。海外シフトの本格化を視野に入れる企業にとって、当座の生産活動の担い手として、高齢者は魅力的に映る。

(2)外国人(留学生)
 企業は、外国人の採用も積極化しつつある。企業は生き残りをかけ、製造業、非製造業を問わず海外進出を急いでいる。このことは、企業の人材ポートフォリオにおける“国際化” を否応なしに押し進める。成長著しいいくつかの企業が、英語の社内公用語化を打ち出したことは、今年のビジネス界の話題の一つである。採用自体も、外国人を増やすのは、自然な流れであろう。 外国人留学生の本邦企業などへの就職を目的とした在留資格変更許可数をみると、08年で1.1万人と絶対数として少数ではあるが、過去5年で倍増している。

(3)既卒者
 菅直人首相は、新卒者雇用・特命チームを組成し、新卒者支援対策の強化を打ち出した。その結果、卒業後3年以内の既卒者を新卒扱いとするよう企業に働きかけつつ、奨励金の支給を決めた(今年度予算の予備費を充当)。なお、大企業はかねて学卒未就職者の採用に慎重であり、今回の対策の効果には疑問が残る。とは言え、来春の就職戦線には、現在の3年生に加え、就職留年者と3年以内の既卒者が加わる。供給圧力が一段と増すことは、確かであろう。

(4)パート主婦
 来年度の税制改正議論に当たり、配偶者控除の扱いに再び焦点が当たっている。詳細は割愛するが、配偶者控除制度は、妻の給与収入を103万円以下に抑制するインセンティブを有する。当該制度は、主婦の労働供給を抑制し、ワークシェアリングとして機能してきた側面がある。仮に、これが撤廃されると、主婦等の勤務時間に制約がなくなり、時間という意味での労働供給が増す。実は、既卒者に比べ、学生にとって手ごわいのは、こちらかもしれない。

社会全体で考え直す時期

 就職ないし採用戦線のあり方には、かねて様々な批判的見解が寄せられている。「早期の青田買いは、学業への妨げとなる」、「企業本位の短期の採用試験では、人物本位の採用が行われず、理不尽だ」などである。

 この問題は、採用という「入口」、卒業という「出口」だけの問題としてとらえては本質を見誤る。今なお続く終身雇用制度(=厳しい解雇規制)や昇進の年次運用、「大学で何をやってきたかではなく、どこの大学を出たので、何ができそうか」という地頭重視の採用基準などの歴史的産物である。よって、その改革は容易でない。ただ、言えることは、再び「ロストジェネレーション」を生み出さないという“大人側” の意思ではないか。年金制度の維持、少子高齢化の加速防止などの観点からみても、彼等を社会に受け入れることをまず優先すべきだ。現役世代の過剰労働(有給未消化)に手をつけ、企業内に“座布団” を少し空ける工夫が必要であろう。そこで初めて、学生に「もっと本質的な勉強をしなさい」と言うことができよう。

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(日本経済研究センター 短期経済予測主査、主任研究員)

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