デジタル経済への移行、温暖化ガスは6割減――2050年8割削減には1万円の環境税
排出量ゼロ、大量のCCSが必要に
2019/05/07
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は産業革命以後の地球全体の気温上昇を1.5℃に抑えないと健康や農作物へ大きな影響があるとしている。政府はパリ協定長期成長戦略案を公表し、50年までに温暖化ガス(主にCO2)の8割削減(2℃目標)、さらに1.5℃目標(排出ゼロ)への貢献も謳っている。当センターは、人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながるIoT、ビッグデータが広く深く普及した第4次産業革命後のデジタル経済を想定、2050年度に13年度 比8割削減した場合の経済構造や削減コストを試算した。現状で想定できるデジタル経済へ全面的に移行すれば、エネルギー消費量は6割減少し、さらに1万円/㌧・CO2(t-CO2)の環境税(炭素税)を課税すれば8割削減は可能、との結果が得られた。1.5℃目標の達成には税率を2.1万円超にするほか、脱原発に移行するならば、CO2を地中埋設するCCS(CO2の回収・貯留)が必要になる。デジタル経済への移行が生産性向上につながる経済改革だけでなく、結果的に温暖化ガス削減にも貢献し、排出量ゼロも可能性があると判断できる。
※5月15日にデジタル経済を想定した2050年の産業連関表作成、CO2削減に関するCGEモデルについてテクニカル・リポートを掲載しました。
※「要約」の英文を公表しました。
<ポイント>
- 2050年の経済構造は長く続いた「鉄器時代」からICTをフル活用する「デジタル情報時代」に
- サービス中心のデジタル経済ではCO2排出量は化石燃料価格に関わらず2011年比6割減少する
- CO2の8割削減には再生可能エネルギーの一層の導入、CO2の回収・貯留(CCS)が必要
- 再エネ、CCSの導入にはCO2排出量に価格付けするカーボンプライシング(環境税など)が不可欠
- 環境税1万円/t-CO2なら8割削減、2万2000円なら排出ゼロも視野に
- デジタル経済への構造変化をスムーズに実行できれば、環境税の経済全体への影響は軽微
図 デジタル経済への移行、環境税の導入は競争力強化とCO2の大幅削減を両立させる
(注)化石燃料価格は実質横ばいを想定している。現在の技術トレンドや政府の計画をベースに50年までに発電効率は2割向上し、再生可能エネルギーは発電の半分を占め、原子力発電はゼロになるとした。長期経済予測に基づき、2050年に実質GDPが600兆円になると予測(労働生産性が毎年1%ずつ上昇)。 (資料)日本エネルギー経済研究所データベース、2011年産業連関表、日本経済研究センター「長期経済予測」(2018年12月)
本稿は主任研究員・小林辰男、田原健吾、特任研究員・川崎泰史、落合勝昭(学習院大学特別客員教授)、鈴木達治郞(長崎大学教授・元原子力委員長代理)、小林光(東京大学客員教授・元環境事務次官)、首席研究員・猿山純夫、理事長・岩田一政が担当しました。
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