JCER金融ストレス指数を開発 システミック・リスク発生を推計
2020/04/08
日本経済研究センターはこのほど、金融の「システミック・リスク」の高まりを捉える指標として「JCER金融ストレス指数」を開発し、最新の数値を公表しました。この指数は、1990年代末の金融システム不安や2008年のリーマン・ショックなどの金融危機の再来を検知するのに役立つ指標になります。同指数は足元で新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)による金融市場の動揺を反映して急上昇しており、2008年の世界金融危機前夜といえる水準になっています。
金融の「システミック・リスク」とは、今回のコロナ危機や金融機関の破綻のような何らかのトリガー事象によって金融システム全体が機能不全に陥り、実体経済に深刻な悪影響を及ぼすリスクのことです。JCER金融ストレス指数は、欧州中央銀行(ECB)の「システミック・ストレス指標」を参考に、株価やその変動率、債券の利回り、為替レートの変化率など、金融市場におけるリスクを表す15個の基礎データを合成して算出します。金融ストレスの高まりがどの市場に起因するかを定量的に把握することで、財政・金融当局の政策運営にも指針を提供できます。
<JCER金融ストレス指数の最近の動き>
金融ストレスは、97-98年の金融システム不安、07-08年の世界金融危機、11-12年の欧州債務問題に揺れた時期のほか、日本におけるマイナス金利政策の導入や英国のEU離脱(ブレグジット)投票など大きなイベントが重なった16年に上昇しました。
足元ではコロナ危機による金融市場の動揺を反映して上昇し、最新の20年4月3日時点の金融ストレス指数は0.299となっています。これは、07年8月のパリバ・ショックや08年3月の米証券大手ベアー・スターンズの救済からリーマン・ショックに至る「世界金融危機前夜」の水準に相当します。
日本経済研究センターでは今後、同指数を原則として週1回程度の頻度で公表していく予定です。金融市場に大幅な変動があった場合は、日次データを使用して、臨時で更新、公表することも検討しています。
<参考図表1>
【金融ストレス指数の推計に用いる基礎データ】
<参考図表2>
【海外の金融ストレス指数とシステミック・リスク指標】
≪参考文献≫
日本経済研究センター(2019)「日銀のETF買い入れと地域金融のリスク―ストレス事象の発生で金融システム不安再燃も―」、2019年度金融研究班報告②:金融リスクの総点検、2019年12月25日(会員限定)
Holló, D., Kremer, M. and Lo Duca, M., 2012. “CISS – A Composite Indicator of Systemic Stress in the Financial System,” Working Paper Series, No. 1426, European Central Bank, March 2012.
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