景気後退確率、正式公表を一時休止――コロナ危機、前例ない指数悪化でゆがみ
推計方式を見直し、参考値は算出継続
4月参考値は59.4%
2020/06/08
新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、実体経済は大きく悪化しています。景気後退確率の算出の基礎データである景気動向指数の先行指数(以下、先行CI)も、4月は前月比8.9ポイント低下の76.2となり、統計開始の1985年以降で最大の下げ幅を記録した3月の下げ幅(同マイナス6.4ポイント)を更新しました。前例のない先行CIの急激な悪化が景気後退確率の計算にゆがみをもたらした結果、4月は景気後退確率が下がる形になり、先行きの景気動向に誤ったシグナルを出す恐れが生じています。このため、景気の先行きをより適切に示すように推計方法を見直すことにいたしました。これに伴い、景気後退確率の正式公表は一時休止とさせていただきます。推計方式の見直しが終わるまで、景気後退確率は参考値として算出し、ホームページで掲載を継続します。
<参考値:景気後退確率(2020年4月=59.4%)>景気後退確率は推計上、景気の後退期間が長くなると通常は拡張局面に転換する確率が高まることや、過去に先行CIが大きく低下した局面ではその後に反発することが多い例などを反映しやすい傾向があります。このため、コロナ危機で足元の景気悪化が続いているものの、景気後退確率は3月に99.9%まで上昇した後(5月推計時点)、4月の先行CIを取り込んだ今回の改定により、確率の推計値は過去に遡って、先行CIの下げ止まりを織り込むような形で大幅に低下、4月参考値は59.4%になりました(下図)。リーマン・ショック直後の2008年後半から2009年初めや2012年の景気後退期の後半にも、先行CIが低下している中で、景気後退確率が先行して下がった例もあります。
【図表 景気後退確率(2020年4月、参考値)】
今回の推計から、新型コロナによる先行CIの急速な悪化を後退確率として算出可能にするための調整を加えました。そうした調整を実施しても、新型コロナの感染拡大の第2波や米中の対立激化、米国社会の混乱といった先行きを巡るリスクは十分に反映しきれていません。本指標は元来、誤ったシグナルを発することはあるものの、景気への先行性を重視し、早期にシグナルを発することを目的として運用しています(宮崎、2016)。今回の局面も事後的に、足元の確率の低下は誤ったシグナルであったと判断される可能性も十分に考えられます。当面は、景気後退確率は参考値として算出いたします。
<参考文献>宮﨑孝史(2016)『景気動向指数(CI)を用いた日本の景気後退確率の推定―マルコフ・スイッチング・モデルによるアプローチ―』JCER Discussion Paper No.145.
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