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ニュースコメント

西側諸国とロシア間の貿易制裁の拡大、ロシア側の損失大きく

梶田 脩斗
  副主任研究員

2022/04/11

【ポイント】
  • 西側諸国とロシア間の貿易制限措置を通じた経済制裁の応酬は、現状では西側諸国が半導体などのハイテク・機械製品を中心とした高付加価値製品、ロシア側は製造品や一部の一次産業品を主な対象とするに留まっている。今後は貿易制裁が双方にとって経済的打撃の大きいロシア産の原油・天然ガスにまで拡大するかどうかが焦点となる。
  • 国際産業連関表を用いて、西側諸国がハイテク・機械製品、ロシアが原油・天然ガスなど資源の輸出禁止を実施した場合に、西側諸国とロシア双方の生産がどの程度減少するかを試算する。主な対象国はEU27カ国、米国、英国、日本である。また、ロシアへの制裁について明確な立場を示していない中国とインドについても経済制裁の影響を試算する。
  • ロシアに対する経済制裁としては、ハイテク製品や機械製品の輸出禁止よりも、資源の輸入停止の方がロシア経済にとって大きな打撃となる。特にロシアから多くのエネルギーを輸入しているEUの輸入禁止措置による効果が大きく、同措置によりロシアの生産は5%弱下押しされる。ハイテク・機械製品の禁輸による経済制裁の有効性のカギは中国が握っている。日米欧中によるハイテク・機械制裁はロシアの生産を合計で約3.4%押し下げるが、中国がこれに参加しなかった場合、その効果は3分の1にまで低下する。
  • 西側諸国のロシアに対する経済制裁に伴う自国への跳ね返り効果は、ロシアが被る経済的打撃に比べると小さい。地理的にロシアと近い東欧諸国の生産がロシアの資源輸出停止により大きく下押しされることから、EU27カ国のみ跳ね返り効果が大きいものの、生産比でみるとロシア経済が被る経済的打撃の7割程度である。その他の国では、欧州主要国(ドイツ、イタリア、フランス、英国)が資源輸入停止の跳ね返り効果により自国の生産が下押しされるが、米国・中国・日本にはほとんど跳ね返り効果がない。日本はエネルギーの輸入依存度が90%超と米中に比べて高いものの、原油は主に中東から調達していることから、生産への影響は軽微であった。
  • ロシアへの経済制裁によるロシアの生産下押し額をプラスの効果とし、経済制裁の跳ね返り効果をマイナスの効果として、ネットの効果(=プラスの効果-マイナスの効果)をみると、もっとも自国への打撃が少なく、ロシアに対して効果的に経済制裁を実施できるのは中国である。中国はロシアに対してハイテク・機械製品を多く輸出していながらも、ロシアに対する資源の依存度が相対的に低いことから、跳ね返り効果が少なくロシア経済に効率的に打撃を与えることができる。

主要国のロシアに対する経済制裁の生産への影響

 

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