シリーズ 財政再建 (第3回)
新しい財政健全化計画の展望と課題:地に足の着いた財政再建に向けて
- 佐藤主光・一橋大学経済学研究科教授、同大学国際・公共政策研究部教授、内閣府経済・財政一体改革推進委員会専門委員
- 聞き手)実哲也・日本経済研究センター研究主幹
- 開催:
- 09月14日(金) 14:00~15:30
- 会場:
- 日本経済新聞社東京本社ビル 6階セミナールーム2
政府は新しい財政健全化計画で、基礎的財政収支の黒字化の目標時期を25年度と5年先送りしました。この間に長期金利が上昇すれば、国債の利払い費が急増し、財政を圧迫しかねません。経済・財政一体改革推進委員会で実際にどのような議論がされたのかをご紹介いただいた上で、グローバル化、高齢化といった新しい経済環境下で、成長と両立する税制の再構築や財政再建のあり方について論じていただきます。
■講師略歴
1992年一橋大学経済学部卒、98年クイーンズ大学Ph.D(経済学)、2002年一橋大学経済学研究科助教授、05年同大学国際・公共政策研究部助教授などを経て、09年から現職。16年から同大学社会科学高等研究院医療政策・経済研究センター所長を兼務
■要旨
見える化で財政再建―現場からのボトムアップ必須
- 新しい財政健全化計画は、これまで2020年度としていた基礎的財政収支の黒字化目標の達成を25年度まで先送りした。今後は、財政再建の進捗把握と、必要な際に追加的な方策を着実に行うPDCAサイクルが不可欠だ。その道筋の全体像を国民に正直に示し、将来に対する不透明感の払しょくに努めるべきだ。財政再建は政争の具ではない、政治家の超党派的な取り組みが不可欠だ。
- 財政再建が進まない理由の1つは、明確な財政ルールがないことにある。明確な決まりがない分、財政的な「帳尻合わせ」を自分以外の誰かに期待してしまう。財政当局や金融当局のやり繰りで財政が「何とかなっている」ことが、逆に財政見通しに対する楽観論を生んでいる。増税や歳出改革といった痛みを伴う改革ではなく、ヘリコプターマネーや物価の財政理論といった奇策に飛びつきがちな日本人の性格も、その要因だろう。
- 財政再建に向けては、長期的視野に立ったインフラ(環境)整備が不可欠だ。業務改革へのやる気を現場から引き出すボトムアップの仕組みが必須である。そのため、自治体間のコスト・サービス水準の違いを見える化(比較)することが重要だ。比較することで、現場に歳出効率化へのインセンティブが生まれるからだ。公共サービスに対する住民のコスト意識を高めれば、EBPM(証拠に基づく政策立案)もスムーズになる。このことが、まさに地に足をつけた財政再建につながる。
--