中国2060年ネットゼロ目標の実現可能性
―脱炭素時代のチャンスとリスク

金 振・地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動・エネルギー領域 主任研究員
聞き手)伊集院敦・日本経済研究センター首席研究員
開催:
06月01日(火) 14:00~15:00
会場:
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*収録動画の配信は終了いたしました

■講師略歴
(きん しん) 中国吉林省出身。2009年京都大学法学博士号(行政法)取得。09-12年電力中央研究所・社会経済研究所・協力研究員。12-14年地球環境戦略研究機関(IGES)・研究員。14-17年科学技術振興機構(JST)・中国総合研究交流センター・フェローを経て、17年5月から現職

 

■要旨
排出量取引制度がカギを握る―懸念材料は国境炭素調整制度

①中国は二酸化炭素(CO₂)排出量を2030年にピークアウトさせ60年にネット(実質)でゼロにする「3060」目標を立てた。中国は2020年までに、2050年に向けた次期長期成長戦略を提示する必要があり、「3060」目標は脱炭素社会へのトランジション目標あると同時に長期経済成長目標でもある。目標の背景には中国が脱炭素の国際的な取り組みの最大受益者であり、再生可能エネルギーの設備容量、関連産業の雇用者数が共に世界一という事実がある。新型エネルギーや環境保護産業は中国の「戦略的次世代産業」の中核の一つである。

②目標達成への難易度は高い。気温の上昇幅を産業革命前に比べ1.5℃以内に抑えるのに必要な取り組みをすれば、CO₂排出量は実質ゼロになる。そのためには風力発電や太陽光発電の思い切った導入で、非化石エネルギー発電容量の割合を9割以上に引き上げ、石炭火力発電についても、82%はCCS(CO₂の回収・貯留)付きとしなければならない。CO2以外の温室効果ガスの削減も大きな課題にある。

③脱炭素時代にはチャンスもあればリスクもある。チャンスとなるのは排出量取引制度(ETS)で、中国は全国的なETSを21年6月に始める。行政管理コストの大幅なダウンと、民間資本の最大活用、脱炭素関連の投資と技術開発の促進といった効果が期待できよう。リスクとなるのは、EU(欧州連合)や米国が検討中の国境炭素調整関税制度だ。これが、関税障壁として運用されることが懸念されている。