<日経センター中国研究> (第1回)

中国の国際経済秩序への参入と課題―戦略調整と今後

大西康雄・科学技術振興機構アジア・太平洋総合研究センター特任フェロー、上海里格法律事務所顧問
聞き手)湯浅健司・日本経済研究センター首席研究員
開催:
08月19日(金) 14:00~15:00
会場:
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*動画の配信は終了いたしました

■講師略歴
(おおにし やすお) 1977年早稲田大学政治経済学部卒、アジア経済研究所入所。86年在中国日本国大使館(北京)勤務、97年中国社会科学院工業経済研究所客員研究員、2006年ジェトロ・アジア経済研究所地域研究センター長、08年ジェトロ上海センター所長、11年アジア経済研究所新領域研究センター長、13年アジア経済研究所上席主任調査研究員などを経て、2020年から現職

■要旨
ディスコース・パワー高め勢力拡大―米国との決定的な対立は回避へ

①成長に伴い中国経済の国際化が新たな段階を迎えている。かつては日本や韓国、台湾から部品や中間財を輸入して製品を欧米に輸出する「三角貿易」を行っていたが、2015年ごろからそれらの国産化を進め、世界のほぼ全ての国に対し貿易黒字を計上。投資の受け入れ国から出し手国へと転換した。貿易・投資先は東南アジアや広域経済圏構想「一帯一路」の沿線国が多い。

②だが対米摩擦の激化や、新型コロナ感染症の世界的流行によりサプライチェーン(供給網)の再編を余儀なくされるなか、中国は新たな発展戦略として「双循環」を提起した。輸出志向から国内循環重視にシフトし、消費の高度化、産業の高度化、イノベーション主導の発展を実現し、国際循環との相乗効果も高める戦略だ。2021年からの第14次五カ年計画に盛り込まれた。

③経済大国となった中国は米国との決定的な対立を避けつつ、一帯一路の枠組みなどを通じて「ディスコース・パワー(発言内容を相手に受け入れさせる力)」の拡大を目指している。対米貿易摩擦においては第1段階の合意で大幅に譲歩したものの、米国に対抗した法制度の整備やIT分野の国産化を推進。一方で新興国との貿易、投資関係を強化し、多国間経済秩序への参加を広げており、「特色ある大国外交」として国際経済秩序における影響力を強めていく考えだ。