<グローバル危機に聞く>
異次元緩和10年と植田総裁の金融政策

早川英男・東京財団政策研究所主席研究員
開催:
05月16日(火) 14:00~15:30
会場:
日本経済新聞社東京本社ビル 6階セミナールーム2

*収録動画の配信は終了しました。

■講師略歴
(はやかわ ひでお) 1977年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。83-85年プリンストン大学大学院留学(経済学専攻、MA取得)。2001年調査統計局長、09年理事、富士通総研経済研究所エグゼクティブフェローを経て、20年から現職


■要旨
異次元緩和10年と植田新総裁の金融政策―託された実験的政策の後始末

①ゼロ金利下の量的緩和は理論的には有効ではなく、経済主体がその通りに行動することで自己実現的に正当化される、という波及経路にすべてを賭けた実験であった。こうした実験的政策は、説明可能な政策を重視する大陸欧州的な日銀の姿勢とは距離のあるものだった。異次元緩和を敢行した黒田総裁は例外的に、米英流の功利主義に近い立場をとっていたと解釈できる。

②異次元緩和は、初期において経済主体の景況感の改善など一定の効果をあげたものの、追加緩和やマイナス金利政策、イールドカーブ・コントロール(以下、YCC)といった政策に関してはむしろマイナス面が大きかった。黒田総裁が期待通りの効果のなかった政策を解除せずに新規の策を立て続けに追加したことで、政策は複雑化し、市場との対話不全が生じた。

③時間軸政策の生みの親である植田新総裁は、市場との対話を重視し、慎重に政策修正を進めていくだろう。市場からのメッセージを遮断してしまうYCCについてはいずれ撤廃されよう。しかし、日銀の債務超過懸念や政府の財政圧迫など、異次元緩和の出口戦略は厳しいものとならざるを得ない。