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研究員のつぶやき

 
産油国が漁夫の利?(10/12/03)
 小林辰男・主任研究員

  CO2排出を減らすには価格をつけて何らかの形で課税すればいい。浦野氏、小林氏、鈴木氏の間で、対策への理解は一致している。要はやり方の問題だけだ(読むゼミ参照)。環境税の税収を全額減税や年金などに回せば、個別産業、地域はともかく経済全体への影響は大幅に緩和される。
 国際エネルギー機関(IEA)は、世界が温暖化対策を採らず成長を続けると2035年に原油価格は3倍になるという。産油国に富が吸い上げられるわけだ。しかし2050年に温暖化ガス半減を実現する対策を採れば、2倍程度に収まるという。
 現実には環境税など温暖化対策への拒否感は強い。「石油ショックは(国内外の全員が価格高騰に直面し)仕方ないが、本当は税収中立でも環境税には反対」との声を産業界から聞く。産業構造転換をもたらし、国内で勝者敗者が出るからだ。「隣の芝生が青くなる」のは嫌だが、「アラブの王様の芝生が青くなる」のは我慢できるということだ。このままでは、産油国が「漁夫の利」を得る可能性が高い。
 現在、国内で生産している最先端の鉄鋼や化学製品なども21世紀半ばには中国や新興国に生産の中心が移っているだろう。政府が新成長戦略の大黒柱にグリーン成長を据えるならば官民の力を結集し、中長期の産業構造転換に向けた税制や規制の改革、環境技術の海外普及を後押しする国際的な枠組み作りが必要ではないか。産業界と政府がいつまでも対立を続けていても、何も進まない気がするのだが……。


バックナンバー

 
「温暖化問題、『悪役』にも三分の利」(10/10/05)
 小林辰男・主任研究員

   鉄鋼業界は、国内の環境保護派から地球温暖化問題に後ろ向きとすっかり「悪役」の烙印を押されている。しかし新日本製鉄の山田健司環境部長の主張は、「三分」どころか、傾聴に値する内容が少なくない。明らかにエネルギー利用効率がよい日本が、温暖化ガスの削減義務がない途上国から排出権購入を迫られる国際的な排出削減の枠組みへの疑問は、多くの国民が感じている点であろう。技術開発の現状を踏まえた、政府目標「2020年までに90年比25%削減」の実現性への問いかけもうなずける。ただ一つ一つの主張は理解できても、地球の温暖化防止につながる方策はあるかとなると、答えはない。
 答えが見つからない原因は、25%削減の目標に対し、政府は新エネルギーやエコカーの普及、住宅の断熱性向上策など対症療法的な対策検討しかしていないからだろう。環境税や国内排出量取引の検討についても、目指すべき中長期的な産業構造論はすっぽり抜け落ちている。今後も、ものづくりの強みを生かすのか、知恵づくり的な高付加価値産業に軸足を移すのか?そういう観点で温暖化問題を捉え、必要な対策を考える試みは、官民ともにない。経済政策だけでなく地球環境問題でも全体を鳥瞰するマクロの視点が欠けている。
読むゼミ「鉄鋼産業、温暖化防止への挑戦―排出量取引は技術革新の妨げ、導入避けよ」

 
「エコカー、乗数効果は5?」(10/09/02)
 猿山純夫・主任研究員

  エコカー減税・補助金は成功したのか、失敗したのか。環境政策としては×だが、景気対策としては○。分析から浮かび上がってきたのはこんな二面性だ。
 景気への効果については、こんな計算もできる。分析によれば09年度のGDPの押し上げ効果は0.6%で、額にして3兆円。片や、費やした予算は09年度に限れば6000億円弱なので、比をとると乗数効果はなんと5になる。通常の公共事業の乗数は1程度、小渕政権が99年に実施した「地域振興券」や麻生政権の「定額給付金」は0.3程度と言われるから、費用対効果が格段に大きい。うまく消費者をエコカーに「乗せた」訳だ。いずれ来るはずの買い替えを前倒しただけと見れば、ネットの効果はもっと小さくなるが、弱っていた経済を浮上させた功績は認めてよい。
 景気対策としては大成功。しかし、それがために環境対策としての効果が薄れたともいえる。燃費が格段に良いハイブリッド・カー(HV)だけでなく、従来比で一定の燃費改善がある大方のガソリン車も対象としたのが奏功して、幅広い買い替え需要を喚起したからだ。ということは、今回の件だけで、環境政策としての効果を判断するのは酷とも言える。次世代自動車の振興策が温暖化対策になるのか、本当の「エコカー」に絞った助成策を見なければ評価できないとも言える。

 
「温暖化防止にみる経済学の理想と現実」 (10/08/02)
 小林辰男・主任研究員

 古谷記者に寄稿してもらった欧州排出量取引制度に関するレポートを読み、「机上の空論」という言葉が思い浮かんだ。経済学の視点では排出量取引制度は最も有効な温暖化ガス削減策とされている。一定の排出上限を割り当て、上限以下に削減した場合にその差を他者に排出権として売却できる。また多額の投資をして自身で削減するよりも排出権を購入した方が安上がりになるときは、購入を選択できる。市場機能に基づき、最も安価に削減が可能になる。しかし現実に欧州で起きたことは、産業界の反対をなだめるために、甘い排出上限を割り当てることになった。その結果は、排出権市場で主に活動するのは権利の売買を仲介する金融業者らしい。排出削減にどれほど結びついたか分からないという。
 ポスト京都で排出削減に対する強い拘束力がなくなったら、そもそも購入した排出権の価値はどうなるのか。紙くずとなり、新たな不良債権問題にならないのか?日本も同制度の導入に向けた検討を始めているが、「経済学の理想と現実」のギャップをどのように埋めるか、慎重に仕組みを考える必要があると思う。

 
「温暖化問題に横たわる『お一人様』現象」(10/07/27)
 小林辰男・主任研究員

 最新レポート「温暖化問題、家庭は悪役か?」では家庭のCO2排出量が増えている大きな要因として原発の稼働率低迷を指摘した。しかし、もう一つ見逃せないのが、「お一人様」のトレンドだ。
 核家族化、独居老人、お一人様女性の増加――。急速に進む少子高齢化が温暖化問題にも影を落としていた。人口減社会なのに世帯数は1990年比で3割近く増えており、その結果CO2排出量も3割以上増えているわけだ。しかし高齢者で構成する限界集落、強くなった女性たちの晩婚化・非婚化、結婚したくてもできないニート男性。いずれも経済成長が止まり、噴出した社会問題が背景にある。
 こうした社会問題は、今後、加速する可能性が高い。経済力のある女性ほど、割りの合わない男性との結婚には踏み切らないし、核家族化は独居老人問題に行き着く。2010年代後半には世帯数は減少に転じると書いたものの、意外に減らないかもしれないと思ったりもする。温暖化問題への取り組みは、省エネ推進や産業構造転換の旗を振るだけでいいのか?考え込んでしまった……。


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