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お知らせ

日本経済研究センターからのお知らせです

特別懇談会「トップと語る日本経済」 木川眞・ヤマトホールディングス代表取締役会長

 2018年2月26日に「特別懇談会」を開催しました。「特別懇談会」は日本経済と経営を取り巻く重要課題について、企業トップ、および産官学の次代を牽引する皆さまに忌憚なくディスカッションいただき、将来ビジョンを探る意見交換会です。

働き方改革、そしてさらなる付加価値提供へ 〜日本発「クール品質」の国際標準化にも挑戦


●スピーカー:木川眞・ヤマトホールディングス代表取締役会長
●テーマ:「日本の成長戦略に物流がどのように貢献すべきか」

(要旨)
 小口貨物を中心とした物流企業のおかれている環境は非常に厳しく、顧客にも昨年来、総量抑制や価格改定でご迷惑をかけている。社会インフラを担う企業として、反省している。しかしこの苦境をクリアしていけば、物流は新しい価値を生む手段になりうる、日本の成長戦略に貢献できる、と考えている。

●Eコマースが急成長、一気に向かい風に

 ヤマトグループは2019年の創業100周年に向けて成長戦略を練り、実行してきた。前提としてEコマース(電子商取引)の拡大や国境を超える小口多頻度輸送の増加、人工知能(AI)を含むICTの進化、労働力確保の困難などを想定していた。しかしこれほど急激に変化が進むとは、正直、予想していなかった。

 人手不足は東京五輪招致を転機として一気に深刻になり、対応が遅れた。物流業界におけるドライバーは40代以上がすでに7割を超え、長距離輸送は特に労働環境が厳しい。また配送の小口多頻度化も進み、トラック輸送量が減っているのに宅配の取り扱い個数は増え、0.1トン未満の貨物がいまや7割を超える。

 背景にあるのはEコマースの成長だ。海外に注文する「越境EC」も増え、小口の荷物がグローバルに行き交う時代になった。かつてEコマースの成長は物流ビジネスにとって追い風と考えていたが、急激に向かい風になってしまった。日本の消費のEC化率は中国や欧米に比べまだ低いことを考えると、今後さらなる成長が見込まれる。

 ICTの進展も見逃せない。なかでも米ウーバーテクノロジーズの登場はインパクトがあった。シェアリングサービスは早晩、物流の領域にも広がると覚悟している。ICTを駆使するスタートアップ企業のような、思いがけない異業種に主導権を奪われるかもしれない。人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながるIoT、ドローン(小型無人機)の出現も大きな変化だ。ドローンで大量の宅配荷物を運ぶのはまだ難しいものの、過疎地や緊急用での実用化は遠くなさそうだ。

●運ぶだけじゃない、物流拠点で付加価値を提供

 環境変化を想定して、ヤマトグループは2013年に「バリュー・ネットワーキング」構想を打ち出し、思い切った変革を進めてきた。ヤマトグループは過去に2回、大きなイノベーションを実現した。まず日本初のトラック定期輸送「路線便」(1929年)、そして2回目は「宅急便」(1976年)だ。さらに3度目のイノベーションを起こし、今新しい領域に踏み出している。物流を顧客にとって単なるコストではなく、価値を生む手段に進化させる「バリュー・ネットワーキング」構想を打ち出して、強い信念をもって取り組んできた。

 核になるのはネットワークの革新だ。物流拠点は東名阪の「ゲートウェイ」に加え、2013年には国内最大級の「羽田クロノゲート」を竣工し、さらに「沖縄国際物流ハブ」を経由してアジア各都市へ翌日配送を実現した。アジアでは現地企業と組んで小口物流ネットワークを構築し、7カ国・地域で宅急便を展開、シンガポール、マレーシア、タイなどで「クール宅急便」も始めた。

 物流拠点では自動化を徹底させるのはもちろん、仕分けや通関、修理、オンデマンド印刷など、様々な付加価値サービスを提供している。例えば羽田クロノゲートは、全国の病院に向けて手術の都度、高価な医療機器を配送する中継点となっており、回収から発送の間に機器の洗浄・メンテナンスも引き受けている。このサービスによって機器の回転率が格段にあがる。陸海空の立地にすぐれる羽田ならではのサービスだ。

 私が2005年にヤマトグループに転じて、最初の大きな仕事が羽田で3万坪の土地を買うことだった。この投資は、従来型の宅急便ビジネスだけではとても回収できる額ではなく、事業ポートフォリオの変革が必要だった。すなわち、個人向けの宅急便中心から、企業向けを含むグローバルな総合ロジスティクス企業へ。これには社内の意識改革も伴ったが、実現しないと次の100年の成長はないと思いを決めた。宅急便の創始者、小倉昌男さんの言葉「サービスや品質は顧客の要請に応じて変えるべき」が支えになった。

 ●「クール宅急便」を世界標準に

 並行して2011年ごろから、私のネーミングで地域活性化事業「プロジェクトG」を始めた。ヤマト運輸には全国に拠点が約4000カ所、集配を担当するセールスドライバーが約6万人いる。このネットワークをオープン化することで、自治体と連携して地域の社会的課題を解決していく。  


 先駆けとなったのは、岩手県での生活支援だ。ヤマトのコールセンターがいわば御用聞きになり、一人暮らしのお年寄りの買い物を代行して宅急便で届ける。それが見守りにつながる。高齢化は都市部でも深刻だ。多摩ニュータウンでは都市再生機構(UR都市機構)や自治体、医師会などと組み、高齢者の暮らしをサポートしている。また過疎エリアでは「客貨混載」も実現した。ヒトとモノを運ぶ事業は本来分かれているが、路線バスで荷物を運んでもらう。バス路線廃止の歯止めにもなる。

 さらに地域活性化の視点で、農産物の販路拡大に貢献したいと考え、小口保冷配送サービスの国際規格策定に取り組んできた。日本ではクール宅急便が当たり前になっているが、海外ではチルド(冷蔵)できめ細かく温度管理できるサービスはない。沖縄経由で、発送の翌日にはアジア各地の食卓に日本の美味しい農産物を届けられるのに、ラストワンマイルで品質が劣化してしまう。似たサービスがあっても品質が悪く、それがアジアの標準になりかねない。クール宅急便の品質を国際標準にしたいと考え、3年半前にトップダウンで取り組み始めた。関係省庁などオールジャパンで推進して、昨年、英国規格協会(BSI)での策定が実現。さらに国際標準化機構(ISO)での規格化を目指している。日本主導のこうした標準化は画期的なことではないか。

 一連のプロジェクトGは補助金を前提にせず、本業にのせて展開するのが長続きのポイントだ。CSR(社会的責任)活動ではなく、経営学者マイケル・ポーター氏が提唱したCSV(共有価値の創造)だと考えている。

●宅配便ロッカーを他社に開放、物流効率化を加速

 「バリュー・ネットワーキング」構想とプロジェクトGの2本柱で走り出したところで、大きくつまづいてしまったのが働き方だった。冷静に考えると、顧客の「クロネコマーク」への信頼によって成長してきたものの、社員に負担をかけてしまった。社員は皆がんばってくれていたが、1年半前ぐらいから悲鳴があがり、これは本気で改革しないと大変なことになると、恐怖さえおぼえた。そこで、持続的な経営基盤を構築するため、いったん過去を清算するべく社内調査を実施し、休憩を適切に取得できていないなどの新たに認識した労働時間に関して、約230億円もの一時金を社員へ支払うこととした。顧客には値上げやサービス見直しをお願いすることになったが、多くが理解を示してくださり、本当に有難く思っている。時間的猶予をもらったのだと思い、「働き方改革」をはじめ、やるべき構造改革に必死で取り組んでいる。

 ライバル企業とも協力していく。2000台を超える駅やコンビニの宅配便ロッカーはオープン型にし、佐川急便さんやDHLグループさんも利用している。規制緩和で16年から、全長約25メートルの2両連結トレーラーによる幹線の大量輸送を実現しており、これも半分は他社の荷物を運ぶことができる。ヤマト運輸の値上げが結果的に、日本のプライシングメカニズムを再考する問題提起になるかもしれない。反省すべきは反省し、物流全体、サービス業全体の課題に挑戦していきたい。

 
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 【開催概要】
 ・日時:2018年2月26日(月) 18:00〜20:00
 ・会場:日本経済新聞東京本社10F会議室
 ・出席者:田中陽・日本経済新聞編集委員(モデレーター)、企業幹部(建設、食品、化学、機械、電機、商社、流通、運輸、情報、金融等)、官庁政策当事者、研究者計41名

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