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経済激変下の政策課題にどう応えるか―マクロモデル研究会で議論

 11月11日、12日の両日、センター内で「マクロモデル研究会」を開催した。大学や官庁、民間機関の計量分析の専門家が一同に集まり、最新の研究成果を報告する会議で、センターでは2007年度から毎年開催している。今年は両日合わせて70人超と、これまでで最多の参加者が集まった。リーマン・ショックや大震災など経済社会を一変させる激変が起き、モデル分析にも新たな役割が求められている。今回は、検討テーマにDSGE(動学的一般均衡)モデルと、エネルギー・環境政策の再構築という2つの課題を選んだ。新たな分析手法と切実な政策課題、それぞれについて、熱心な議論を繰り広げた。

DSGEモデル、日本でも進化

 DSGEモデルはなぜ必要とされ、どの程度まで実用化が進みつつあるのか。冒頭、モデル分析の第一人者である伴金美氏(大阪大学)が「経済モデルの進化とDSGE」と題して講演した。伝統的なマクロ計量モデルが、結果として観測されたいわば表面的な相関関係からモデルを推計するのに対し、DSGEモデルは投資や消費の裏側にある生産や効用の構造など、深いレベルから表現する。将来の「期待」が変われば、現在の行動も変わるが、そんな側面もDSGEなら織り込むことができる。ミクロ経済学的な基礎付けを重視したマクロ経済学が近年発展しており、DSGEの隆盛はこうした動きと表裏一体だ。講演では、基本的な定式化や解法、推定方法のほか、各国の代表的なモデルも紹介した。最近では政策評価だけではなく、予測にもDSGEモデルが利用されているという。




 DSGEの実用化で先行してきたのは、世界主要国の中央銀行だ。日本でも日本銀行が先陣を切る。福永一郎氏(日本銀行)は日銀が開発した中規模DSGEモデル(M-JEM)を紹介した。同モデルは、大規模マクロモデルを補完し、経済変動や政策効果の構造要因を探るという位置付けで利用しているという。永続的な技術進歩によって説明できるトレンドを潜在成長率と見なすと、近年の潜在成長率の低下は人口増加率の低下と技術進歩の停滞で説明できると分析。技術進歩が高まれば期待所得・収益が上向き、実質国内総生産(GDP)とインフレ率が同時に上昇する可能性があると報告した。

 西山慎一氏(東北大学)が紹介したのは、内閣府経済社会総合研究所(ESRI)の研究プロジェクトで開発したDSGEモデルだ。  分析の対象としたのはリーマン・ショック。同ショックの「震源」を銀行の自己資本の毀損と見なし、企業や銀行のバランスシートをモデルに取り込んだ。銀行の自己資本に生じたショックは1980年代後半に起きたS&L(貯蓄貸付組合)危機を上回り、過去25年間で最大となったという。実体経済に対するインパクトも大きく、設備投資は「ショック」の影響で10%近く押し下げられたとしている。

 溜川健一氏(明治大学)が報告したのは、これまであまり試みられていなかった、地域を複数に分けたDSGEモデル。同じ規模の財政支出でも、社会資本をより生産的な地域へ振り向けると、GDPに対してより持続的な効果があるという。また、地方政府よりも中央政府が実施主体となる方が、効果が大きくなる。中央政府のデフォルト(破綻)確率が地方政府よりも低いのが理由だとした。

原発存廃、新エネ導入の得失は

 今回のもう1つのテーマが、エネルギー・環境政策の再構築だ。
 
 伴金美氏(大阪大学)が再度登壇し、CGE(応用一般均衡)モデルによる分析を紹介した。CGEもDSGEのように企業の生産関数、家計の効用関数を明示的に扱う。将来のために今何をすれば良いかという「異時点間」の資源配分も、工夫次第で表現できる。CGEは多部門化(産業の細分化)に向いており、エネルギーや環境問題の分析に多用される。報告では、2020年と2050年、2つの時間視野を設けた分析を紹介した。原発が縮小に向かった場合、2020年では「全量買い取り」を導入しても新エネで原子力の代わりをするのは難しいという。2050年にエネルギー安定と二酸化炭素(CO)削減を両立するには、電気料金の引き上げを通じた節電が大きな役割を果たすと予想。CCS(炭素貯留)が実用化されてくれば、CO削減費用が低下し、GDPへの影響も軽減できると分析した。

 濱崎博氏(富士通総研)は原発停止と地球温暖化対策の関係について技術モデルを活用し、原発停止による追加費用を試算した。原発停止による費用と温暖化ガスの25%削減を達成するための追加の温暖化対策で2020年までに16兆円が必要と推計した。今後、一般均衡モデルとの統合を図る考えだという。

 高橋雅仁氏(電力中央研究所)は、電力9社の原発の新設や建て替えが止まった場合の電気料金への影響を分析した。同研究所の「最適電源構成モデル」を使い、経済性について試算したところ、その場合は2030年度時点で電気料金が平均で1割上昇するという。天然ガスによる火力代替を実施する必要があり、その使用量は年間4000トンから8000トンに増える。

 来年に向け原発が全部止まったらどうなるか。稲田義久氏(甲南大学)らはマクロモデルを使って関西と日本経済への影響を試算した。この夏、関西電力管内では節電があまり進まなかった。この冬も同程度だと、関西は原発依存度が大きいため、気温によっては予備率が低下、電力供給は綱渡りになる。原発分を火力に切り替えた場合、化石燃料輸入と電気料金の上昇で、2011年度と12年度、関西は日本全体と比べて大きな打撃を被ると分析している。

 震災影響を産業連関表で分析したのは宍戸駿太郎氏(日米・世界モデル研究所)ら。例えば、製紙工場が被災した時、紙をインプットとして使う印刷業の活動が止まる「前方連関」と、紙生産のインプットであるエネルギー投入が減るなどの「後方連関」の両方を織り込んで分析、東北で18%、全国で1.2%の生産が下押しされたと試算した。公共事業の増額や法人減税など積極財政を展開することで、復興と自然増収による財政再建が同時に達成できるとした。

モデル開発、多分野で

 このほか、CGEモデルを用いた排出量取引、世代重複モデルを用いた長期予測、地域経済モデルなど、多分野でのモデル開発事例の報告があった。

 武田史郎氏(関東学園大学)は、CGEモデルを用いて温暖化ガスの国際的な排出量取引が日本経済に与える影響などを分析した。温暖化ガスを2020年度に1990年比で25%削減するという目標を掲げている日本だが、国際排出量取引が可能になれば、削減コストは大幅に低下するとした。
 
 中澤正彦氏(京都大学)らは、多部門世代重複モデルを用いた長期シミュレーションを紹介した。同モデルは高齢化の進展が、経済の需要・供給両面に与える効果を分析できるのが特長。2050年に向け、医療介護サービスの需要が高まり、輸入での代替が可能な貿易財部門から労働や資本の移動が必要になると分析した。特に政府が現物給付として同サービスへの支出を増やす場合には、その傾向が強まるという。

 鈴木雅勝氏(中部産業・地域活性化センター)は、中部圏のマクロ経済モデルの開発状況を報告した。10−15年の長期予測に使えるモデルの開発が狙いとしており、今後は円高が地元企業に与える影響や、将来予想される消費税引き上げの中部圏経済への影響を分析する予定だという。

 当センターの松岡秀明副主任研究員は、海外直接投資を内生化したモデル分析を紹介した。設備投資の投資先は国内か海外か、海外ならどの地域かを内生的に求める点が特長。シミュレーションによれば、(1)円高は国内の賃金コストを高め海外投資を助長する、(2)海外経済が成長する場合には国内と海外両方の投資が伸びる、(3)電力料金上昇による海外投資促進効果は小さい――などが明らかになったと報告した。

 今回の研究会は、DSGEやエネルギーをテーマに据えたことから、これまで交流のなかった研究者達が加わったのが特徴だった。一回り大きくなった研究者のネットワークを、今後のセンターの研究事業にも生かしていく考えだ。
(研究本部)

*本研究会は、当センターの猿山純夫研究本部長のほか、稲田義久・甲南大学教授、門多治・電力中央研究所上席研究員、千田亮吉・明治大学教授らが幹事として運営に当たっている。

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【バックナンバー】2010年のマクロモデル研究会

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