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日本経済研究センターからのお知らせです

日本経済の中長期課題を議論―マクロモデル研究会を開催

 7月13日、14日の両日、センター内で「マクロモデル研究会」を開催した。大学や官庁、民間機関の計量分析の専門家が一同に集まり、最新の研究成果を報告する会議で、センターでは2007年度から毎年開催している。今年は両日合わせて60人を超える参加者が集まり熱心な議論を繰り広げた。今回は、人口、財政・社会保障、エネルギーなどの側面から中長期的課題をモデルで分析する試みが目立ったほか、DSGE(動学的一般均衡)モデルなど新たな分析手法を応用するいくつかの事例も紹介された。

新たな分析手法を応用

 報告の口火を切ったのは、岩田安晴氏(内閣府)。最近増えつつあるDSGE(動学的一般均衡)モデルを用いた分析を紹介した。政府支出を増やすと理論上は消費抑制や為替の増価が予想されるが、時系列モデルを用いた実証では逆の結果が報告されることが多いというパズルがある。理論を織り込んだDSGEモデルを用いることで、パズルの解明を試みた。政府・民間消費の補完性や社会資本の生産力効果を考慮すると、DSGEモデルにおいても実証どおりの結果が得られるという。

 近年のマクロモデルでは、長期均衡値への回帰を想定した誤差修正(エラー・コレクション)過程を組み込むことが多くなっている。尾崎タイヨ氏(京都学園大学)が報告したのは賃金や価格の硬直性を前提にしたニューケインジアン型の日本の計量経済モデル。誤差修正過程に加え、将来予想を織り込むフォワード・ルッキング型の期待や、輸出入を相手国別に推計するモデル体系を採用した。現時点では方程式数50本程度の小型モデルであるが、改良を重ねて将来は中国、米国、ユーロ圏、韓国を含めた5カ国モデルに発展させる予定という。




 林万平氏(アジア太平洋研究所)がテーマとしたのは、大災害の被害推計だ。自ら阪神大震災に遭った経験から、十分な復興資金を早く行き渡らせるには、迅速な被害推計が必要と訴えた。巨大災害の場合、省庁や自治体による実地型の調査は、経済面の被害把握が遅れがちで、統一指針がないため正確性の点でも課題がある。被害者数や建物の損壊件数を手がかりに、過去の国内災害から経済被害を推計する手法を提案。同手法を使うと、東日本大震災の被害を推計すると28兆円強と、内閣府推計の約17兆円を大きく上回るという。

人口減・高齢化の影響は

 小田剛正氏(日本銀行)は社会保障給付や債券保有の効用などを考慮した世代重複モデルを用い、日本の高齢化が成長率に与える影響を出生率低下と長寿化の2つの観点から試算した。その結果、出生率低下は成長率に大きな下押し要因となるが、長寿化の影響は小さいという。開放経済を想定した場合には、国内資本収益率の低下から資金が海外資産に向かい、そこから還流する所得が高齢化の負の影響を和らげる効果があると報告した。

 上田淳二氏(財務省)は、将来の人口構造を政府の歳出面に投影し、財政が安定する条件を探った。今後の高齢化は総数が増える面より、高齢の高齢者が増える形で進むため、年金よりむしろ医療や年金向け支出が増加しやすい。こうした条件などを織り込むと、2060年に政府債務残高をGDPの60%に抑えるには、「社会保障と税の一体改革」に加えて、収支面で同11%余りの改善を図る必要があるという。

デフレ脱却の可能性を模索

 日本経済の活性化やデフレ克服も重要なテーマだ。当センターの岩田一政理事長と共同でまとめた税・年金改革案を紹介したのが猿山純夫主任研究員と高久玲音氏(医療経済研究機構)。財源論に偏りがちな議論に中期マクロモデルを用いた計量分析で成長の視点を与える狙いがある。たとえば、一階の基礎年金部分を税方式とした場合、政府債務を低水準に抑えつつ、雇主負担の軽減が設備投資と雇用の増加要因となり、GDPを1%程度押し上げる効果がある。

 宍戸駿太郎氏(筑波大学)は、財政再建は消費増税ではなく、公共投資の拡大や民間設備投資の刺激といった成長加速型の政策をとることで達成できるとする試算を報告した。需給ギャップがある経済では増税はデフレを加速する恐れもあり、財政政策と金融政策を総動員することで社会保険料を含む大きな自然増収が期待できるという。また出生率を引き上げる積極的な少子化対策はこの場合成長効果と社会保険改善効果をもたらす点も報告された。

 当センターの舘祐太研究員は、動学的な一般均衡モデルを使ったエネルギー・環境政策の評価シミュレーションを発表した。温暖化ガスの排出削減の度合いによって経済成長や電気料金がどの程度影響を受けるのかを示したほか、今後の事故リスク対応費用(保険料)がどこまで膨らめば脱原発をした方が経済的に有利になるかという試算を説明した。

 当センターでは本研究会を今後も開催する予定で、ここで得た知見や人的ネットワークを、今後の研究に生かしていく考えだ。
(研究本部)

*本研究会は、当センターの猿山純夫研究本部長のほか、稲田義久・甲南大学教授、門多治・電力中央研究所上席研究員、千田亮吉・明治大学教授らが幹事として運営に当たっている。

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【バックナンバー】
2011年のマクロモデル研究会
2010年のマクロモデル研究会

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