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日本経済研究センターからのお知らせです

成長戦略を定量的に評価・議論―マクロモデル研究会を開催

 7月12日、13日の両日、当センター内で「マクロモデル研究会」を開催した。大学や官庁、民間機関の計量分析の専門家が一同に集まり、最新の研究成果を報告する会議で、当センターでは2007年度から毎年開催している。今年は両日合わせて60人を超える参加者が集まり熱心な議論を繰り広げた。今回はエネルギー、情報化投資、働き方などの側面から日本経済の成長戦略をモデルで分析する試みが目立ったほか、足元のGDPをより精緻に予測する新しい手法も紹介された。

新たな予測手法を開発

 当研究会では題材をマクロモデルに限定せず、周辺分野である景気指標の開発や予測手法なども取り上げている。報告の口火を切った原尚子氏(日本銀行)からは新しい国内総生産(GDP)月次推計モデルの紹介があった。これはGDP変動の大半を生産指数と第3次産業活動指数で説明し、残りの要因を内閣府がGDP推計に使う多数の基礎統計から抽出した主成分で説明する。対象期が終了次第、推計可能であるうえ、精度もJCER月次GDPなどを上回っているという。

 稲田義久氏(甲南大学)らは、確報公表まで2年程度を要する県内総生産の早期推計手法を開発し、関西地区の各府県に適用した結果を報告した。同氏が日本経済の超短期GDP予測に使っている一手法である主成分分析を応用しており、手法として原氏と共通点があることは興味深い。稲田氏らは県別の景気動向指数の採用系列を利用して未公表時期の県内GDPを予測し、精度も満足できる結果が得られたという。

 尾崎タイヨ氏(京都学園大学)が開発を試みたのは、為替調整の問題をゲーム理論的な観点を織り込んで分析するマクロモデル。日米中が為替レート調整(減価)によってGDPの1%押し上げを図る場合、@自国だけが単独で、A3ヵ国が協調して、B互いに相手の出方をうかがいながら自国相場を調整する「ナッシュ型」で――の3ケースを想定した。それによると、為替レートの調整幅が大きくなるのはナッシュ型であること、各国の輸出押し上げ効果は中国は単独型、日本は協調型、米国はナッシュ型で大きくなるなど、それぞれの貿易構造によって違いが出る結果となった。

 中澤正彦氏(京都大学)は、IMF(国際通貨基金)のグローバル予測モデル(GPM)を応用した日米欧中の4地域からなるモデル分析の結果を紹介した。これは、ニュー・ケインジアン型のフォワード・ルッキングモデルに精度を上げるためのアドホックな項を付加したもので、予測にも使えるなど実用性に優れる。モデルを用いた実績値の分解によると、08年の世界的な金融危機時における日本経済の景気悪化には、米国での銀行貸し出し態度の悪化の寄与が大きいという。




アベノミクスを考える

 宍戸駿太郎氏(筑波大学・国際大学)らは中期多部門モデルDEMIOSを用いたシミュレーション分析を報告した。家計貯蓄率の低下と人口減少が急速に進む日本では、アベノミクスの金融緩和と財政出動を前倒し実施することが不可欠で、特に国土強靭化が急務であるとした。この成長戦略に加えて、有給休暇の完全消化などワークライフバランスの改善が成長率のさらなる押し上げに有効であるが、この選択肢に代わって消費税増税を導入すると、成長率の大幅な鈍化は避けられないと指摘している。

 久保田茂裕氏(情報通信総合研究所)らは国民経済計算(SNA)の2005年基準改定に伴って、情報通信技術(ICT)投資、および情報資本ストックのデータを再整備のうえ、ICT投資が増加した時の影響をマクロモデルで分析した。ICT投資の乗数効果はICT以外の一般投資と比べて大きいことを明らかにしている。アベノミクスにおいてICT投資が重点分野になる可能性を示唆する。

 外国人に積極的に門戸を開くことも成長戦略の1つだ。留学生に日本で活躍してもらう条件は何か。劉洋氏(アジア太平洋研究所)らは、外国の高度人材を地域経済の活性化に結び付ける観点から、関西主要7大学の留学生を対象にしたアンケートに基づく計量分析の結果を報告した。それによると、高い教育の質を求めて来日した学生ほど、日本で就職したり、長く働こうとする意向が低いことがわかった。日本で受けた教育は海外で高く評価されるため、日本留学というキャリアを海外で生かそうと考えているようだ。日本に呼び込む段階から、卒業後の就職環境を含めて留学生との意思疎通が重要だとしている。

中長期の見通しを描く

 星野優子氏(電力中央研究所)はエネルギー間の代替関係を取り込んだモデルと、これをマクロモデルと連動させた2030年までのエネルギー需給の展望を示した。予測によると、動力需要の増加などでエネルギー需要の電力シフトが進むため、2030年の電力需要は現在よりも1割弱増加する。「革新的エネルギー・環境戦略」の1割減の見通し(2012年9月)と対照的であり、エネルギー政策の見直しを促している。

 当センターの田原健吾副主任研究員らは、中期マクロモデルと産業連関表を併用した経済予測を報告した。これによると製造業の海外生産シフトや高齢化に伴う医療・介護分野の拡大などの産業構造の変化が生産性を低下させる。また、産業別デフレーターに注目すると、電子計算機・通信機器、半導体・電子部品などの生産額は実質では増えるが価格低下により名目では減少し、両方とも増える一般機械などと対照的な姿になるという。

 鈴木雅勝氏(中部圏社会経済研究所)は開発中の全国長期マクロ計量モデルを紹介した。これは同研究所が開発した中部圏マクロモデルとの接続を考慮したものである。少子高齢化などによる日本の財政悪化や新興国の台頭、経済のグローバル化など、日本と世界経済が中部圏に及ぼす影響を取り入れるベースモデルとなっている。

当センターでは本研究会を今後も開催する予定で、ここで得た知見や人的ネットワークを、今後の研究に生かしていく考えだ。
(研究本部)

*本研究会は、当センターの猿山純夫研究本部長のほか、稲田義久・甲南大学教授、門多治・電力中央研究所シニアエコノミスト、千田亮吉・明治大学教授らが幹事として運営に当たっている。

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【バックナンバー】
2012年のマクロモデル研究会
2011年のマクロモデル研究会
2010年のマクロモデル研究会

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